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「まさか」と思う食品に使われている、見えない油。安く、美味しく食品を製造でき、パンやお菓子などに使用されている。しかしその裏側を見ると、さまざまなデメリットも。とりすぎれば健康問題になる隠れ油、その予防方法とは─。

“見える油”と“見えない油”

「昨日はトンカツ、今日はコロッケと揚げ物が続いたから、明日から気をつけなくちゃ」

 こんな反省を、日々している人も多いのでは? 脂質のとりすぎは、血液中の中性脂肪や悪玉コレステロールを増加させるなど、健康には百害あって一利なし。でも、知らないうちに摂取している“油”もあるのだ。

学術的に言えば“見える油”と“見えない油”という言い方をします。食用油とか、明らかに油とわかるものが“見える油”。見た目ではわからないもの、例えばアーモンドの成分は半分が油ですが、そうは見えません。こうしたものを“見えない油”といいます」

 こう話すのは、(社)加工食品診断士協会代表理事の安部司さん。この2種類の油のほかに、もっと気をつけないといけない油があるという。

どちらにも該当しないものがあるんです。私はそれを“隠れ油”と呼んでいます」(安部さん、以下同)

 植物油などに水素を添加して作られる、常温で固形になる硬化油。これを使うことで、さまざまな食品を製造できるという。しかし─。

「この油の副産物として生じる、人工的なトランス脂肪酸が健康問題に関わってくるのです」

 常温ではサラサラの植物油だが、水素を添加することで粘度を調整することができる。調整された油と添加物などを混ぜることで、普段の生活の中で食べているものが作られるのだ。

こんな食品にも“隠れ油”が! イラスト/黒木督之

「例えばマーガリン。バターの代用品として安く売られているけど、これは遺伝子組み換えの大豆油を水素添加して硬くし、着色料で黄色に染めてバターフレーバーを入れる。これに水を多く入れると油脂の率が相対的に下がるので、ハーフカロリーマーガリンとか、ファストスプレッドと呼ばれるものになります」

 '03年、WHO(世界保健機関)がマーガリンはトランス脂肪酸が多く含まれ、狭心症や心筋梗塞のリスクを高めると発表。この報告から加工油に注目が集まった。

「油がラード状になるまで完全水素添加するとトランス脂肪酸は発生しません。しかし、硬さを調整するために途中で添加を止める部分水素添加を行うと、大量のトランス脂肪酸が発生するのです。

 トランス脂肪酸の危険性が報じられたときから、食品会社はそれを削減するようになり、今は部分水素添加をしていない、としています。おそらく、完全水素添加をした後に、植物油を加えて硬さを調整しているとも考えられます

 トランス脂肪酸は減ったかもしれないが、問題は解決していないのだ。

「摂取する油脂の量も問題なんです。意外かもしれませんが、即席麺は“隠れ油”の最たるものといえます。麺の重さの3割以上は脂質。麺80gの中に20g以上、ものによっては40gという商品もあります。大さじ4杯の油を、即席麺1食で摂取しているって、怖いと思いませんか?」

 即席麺は、瞬間油熱乾燥法という方法で作られる。150度程度の低温の油に麺を入れると水分が瞬時に沸騰し、その蒸気が抜けた細かい穴ができる。そこにお湯を注ぐと食べごろの麺に戻る。この麺を揚げるときに使われるのが硬化油。サラダ油だと酸化が早く、2週間も品質が持たないのだ。

 即席麺の脂質の多さを見せるため、安部さんは食育講座で、こんな実験をしている。

「即席麺をゆで、そのゆで汁を計量カップに入れて冷蔵庫に。講演が終わるころに計量カップを取り出すと、ゆで汁の表面は乳白色の油の塊になっています。硬化油は15度程度で固形に戻るので、目に見える形で現れるのです」

低コストな油で作った代替品

 即席麺と同様“隠れ油”として見えない形で脂質が多いのが菓子パンや食パン、と安部さんは言う。

「成人女性の1日当たりの脂質摂取量は38g~66gが目安とされていますが、菓子パン1個には、その下限に迫る量が含まれるものも。また、女性に人気のデニッシュパンは、即席麺以上に脂質が含まれています。しっとり感を出すため、硬化油をたくさん使っていますから」

 なぜ、ここまで硬化油を使用するのだろうか?安部さんは、

「安くて美味しいものが食べたい、という消費者のニーズがあるからだと考えられます」

 と説明する。

「カカオ豆から抽出されるココアバターの代わりに、体温で溶けるよう調整した硬化油を使い、乳化剤で滑らかにして着色料で色をつけ、チョコレートフレーバーを加えれば口溶けチョコレート風の食品が完成。硬化油に水と乳化剤を入れ、増粘多糖類でとろみをつけて香料でクリーム風味をつける。これでホイップクリーム風になります。

 どちらも、ココアバターを使ったり乳脂肪100%の生クリームを使うより、はるかに低コストで作れます。要は代替品であり、イミテーションなんです」

 トランス脂肪酸や、油まみれの食品を知らないうちに口にしている。予防策としては、どんなことができるのか。

純正の生クリームは常温では溶けていくが、硬化油で作ったホイップクリームはなかなか形崩れしない

「食品のラベルを見るしかないですね。精製加工油脂とか、よくわからない表示があったら疑ってみることです。ショートニングやマーガリンには原材料としてこの油脂が表示されています。

 食品会社はこの油脂がどういったものかを公表していないので予想するしかないのですが、精製加工油脂の“加工”というのはほとんどの場合水素添加だと私は思っています」

 パンや即席麺などの2次的な加工品については法律上、使用された油脂の原料を正確に表記する必要がない。水素添加された硬化油を使っていても、使用したものが植物油なら、植物油脂や加工油脂と表記していれば問題はない。

 食品会社は、欧米に比べて日本人はトランス脂肪酸の摂取量が少ないので、健康への影響は少ないと説明している。ただ、食生活には個人差があり、また、アメリカやヨーロッパと違って、日本にはトランス脂肪酸の表示の義務がないのが現状だ。この状況に安部さんは、

「“加工油脂というものは何なのか?身体に悪いものではないのか?”と消費者が声をあげることで、企業にトランス脂肪酸は何グラム入っています、と表示させるところまで持っていかなくてはダメだと思います。

 また、消費者も“安くて美味しい”を求める食生活を見直すべきです。確かにスーパーやコンビニに並んだ、日持ちのする惣菜や即席麺は便利です。でもその食品には人工的に作られた油分や、添加物が大量に使われているんです。

 添加物はとりたくない。でも安くて安全なものが欲しい。そんな食べものがあると思いますか?安くするために遺伝子組み換えや農薬、添加物があるんですから」

 あべ・つかさ ●食品、添加物に携わる仕事に従事した後、無添加食品の開発や伝統食品の復刻などに取り組んでいる。社団法人『加工食品診断士協会』の代表理事。著書に『食品の裏側―みんな大好きな食品添加物』(東洋経済新報社刊)『「安心な食品」の見分け方』(祥伝社刊)など。

〈取材・文/蒔田 稔〉