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 近ごろ、世間を騒がせている芸能界での「性加害」。報道された加害者の中には、思春期の娘の父親という立場の者もいた。もし自分の家族が性暴力の加害者となったら……。ある日突然、「性犯罪者の娘」になってしまった少女たちを待ち受けていた現実とは。加害者家族を支援するNPO法人『World Open Heart』理事長・阿部恭子さんが伝える。

自分を責める家族

「ママはいいよね、パパと血が繋がってないから……」

 娘のひと言に、優子(仮名・40代)は深い自責の念を感じた。中学校の教師をしていた優子の夫は、教え子にわいせつ行為をして逮捕された。娘を守ることを第一にすぐ夫と離婚し、旧姓に戻って母子ともに人生をやり直すことにした。必死に前を向こうと娘を励ましてきたが、思春期に負った心の傷は、計り知れないほど深刻だった。

 優子の娘・理沙(仮名・10代)は、リストカットをしているという。

「あたしはクズの娘なんだなと思って……」

 優子が理沙に事情を聴くと、父親の事件に関するネットの掲示板の書き込みを見たのだという。「クズ」「変態」「生きる価値無し」等、罵詈雑言が並ぶサイトには、「家庭があるなら家族も同罪」という意見に賛同が集まっており、「家庭が上手くいっていれば教え子に手を出す必要はないだろう」という書き込みまであった。

 優子は、ネガティブな情報にアクセスしないよう理沙に言い聞かせても、

「被害者が苦しんでるのに、のうのうとはしてられない」

 と、まるで自分が罰せられなければならないかのように、世間の反応を見ては自傷行為を繰り返すのだった。

 理沙は高校に電車で通学しており、ラッシュ時の満員電車で痴漢に遭遇することもしばしばあった。友達の間でも「痴漢」や「変質者」の話題は日常茶飯事であったが、父親の事件後、こうしたすべての会話が自分に対する非難に聴こえるようになり、その場にいられなくなってしまった。

 周囲に知られていなかったが、いつか公にされてしまう日が来るかと思うと生きていられなくなるような不安を感じていた。

「人に知られたくはないけれど、隠していることにも罪悪感があります。本当の私を知ったら、みんな逃げていくんじゃないかと……」

 多くの加害者家族が抱える罪責感である。しかし、罪を犯したのは父親であり、子に責任はない。子どもに罪を背負わせる社会であってはならない。理沙は、同様の経験をした加害者家族との出会いを通して自分を取り戻し始めている。

尊敬する父による強姦事件

 たとえ親がいかなる罪を犯しても、子どもが必ず拒否反応を示すとは限らない。

 亜美(仮名・10代)の父親は、地元で「名士」と呼ばれる存在だった。亜美は幼いころから父によく懐いており、身近でもっとも尊敬する人でもあった。

 そんな父がある日突然、女性を強姦したとして逮捕されてしまったのである。父親は当初、容疑を否認していたが、余罪が次々に発覚し、複数の被害女性が浮上したことにより、地元では大きなスキャンダルとして連日、人々の話題の的になっていた。亜美と弟は、父方の祖父母の下に避難したが、自宅には抗議電話や嫌がらせの手紙が殺到していたという。

 亜美は、父親の事件報道には必ず目を通していたが、父親は無実であると信じていた。

「父から暴力や暴言を受けたことはありませんし、女性に暴行するとは考えられないんです。きっと何かの間違いだと思います」

 亜美の母親は、夫の逮捕の影響で迷惑をかけた人々にひたすら頭を下げる毎日に限界を迎えてしまった。夫からは、せめて裁判が終わるまでは離婚を待ってほしいと懇願されたが、とても持ち堪えられる精神状況ではなかった。

 母親は離婚に伴って自宅を処分し、実家の近くで援助を受けながら新しい生活を始めることにした。そこで、子どもたちを呼び寄せようとしたところ、亜美は母親との生活を拒否し、祖父母の下に残って弟だけ母親の下に戻ることになった。亜美は父の無実を信じており、母の離婚に賛成できなかったからである。

 裁判で父親は、女性たちと性行為があった事実は認めたが「同意があった」と主張した。しかし、弁護側の主張は一切認められず、厳しい判決が下り、収監されることになった。

 亜美は、父に何通も手紙を書いていたが返事が来ることはなかった。刑務所に面会に行っても父から面会を拒絶されていた。亜美は、おそらく母親が父に娘と接触しないよう止めているのだと考えていた。

現実を受け入れられない娘

 事件発覚からすでに2年が経過していたが、判決にも世間の評価にも納得できない亜美は、当団体に助言を求めて訪れた。

 亜美の父親は無実なのか。

「優秀だし、気さくな人なので信頼されていました。ただ、女性に関しては心配なところもありました……」
 
 父親の友人は、子どもからは見えない男としての問題行動を度々目にしていた。

 同僚たちと飲みに行った先で気に入った女性を見つけると、強引に自分の側に呼んで独占しようとすることがしばしばあったという。亜美の父親のストーカー行為によって店を辞めたホステスの話もよく耳にしていた。地元の名士ゆえに、敵に回せば怖い存在であることから、泣き寝入りした女性も多いのではないかと話す。

 父親の無実を晴らしたいとまで主張している娘を、当の本人はどう思っているのか。筆者は受刑者となった父親に、理由を説明してほしいという手紙を出していた。すると受刑者から、娘にどう伝えればよいのかわからず、悩んでいるという手紙が返ってきた。

 亜美の父親は、家庭に満足できず、離婚して他の女性と人生をやり直したいという願望があり、自分について来てくれる女性を探していたという。女性の感情より、自分の感情を優先したことは認めており、現在は反省しているとのこと。親の責任として、子どもには真実を話すべきだと伝え、筆者も同行の上、亜美と父親は対面した。

 亜美は父親の告白に衝撃を受けていたが、面会は事件への「区切り」になったと話す。父親との関係が良好だった亜美は、事実を知っても父親への情は変わらず、母親との修復は難しいという。事件は、家族を分断させてしまうこともある。

見逃されてきた性犯罪

 このように、被害者だけではなく、加害者家族もまた好奇の目に晒され、嘲笑の的になり、屈辱的な日々を過ごしている。

 近年、「#Metoo」など被害者が声を上げる運動が世界中で起きているが、かつて性被害に鈍感だった社会の中で、被害者は沈黙を余儀なくされ、未だに泣き寝入りせざるを得ない人々も少なくはないはずである。

 被害者が告発しやすい環境と事件の影響に苦しむ子どもたちのケアが必要だ。

阿部恭子(あべ・きょうこ)
 NPO法人World Open Heart理事長。日本で初めて犯罪加害者家族を対象とした支援組織を設立。全国の加害者家族からの相談に対応しながら講演や執筆活動を展開。著書『家族という呪い―加害者と暮らし続けるということ』(幻冬舎新書、2019)、『息子が人を殺しました―加害者家族の真実』(幻冬舎新書、2017)、『家族間殺人』(幻冬舎新書、2021)など。