ASKA

《1月7日から今日まで、レギュラースタッフ50人強、誰ひとり感染はなくツアーファイナルを迎えようとしています。その間、メンバーは他の仕事もしてる。あり得ない。この事実をビッグデータに加えてください。「全員イベルメクチンを飲んでいた」》

 3月26日、自身のツイッターにこのような投稿をしていたのは、4月13日に2年ぶりの全国ツアーが最終日を迎えた歌手のASKA。以前『週刊女性PRIME』が報じた「すべての雑菌、ウイルスを死滅させてしまう」(ASKAの弁)という『オゾン水生成機器』の開発など、彼は今、健康問題、とりわけ新型コロナウイルスに関する情報発信に熱心なのだ。

'83年のコンサート時のチャゲアス。国立競技場の体育館をコンサート会場とするのは史上初だった

 ASKAが自身のブログやツイッターでしきりに有用性を説いている『イベルメクチン』とは――。

もともとは寄生虫を駆除する作用がある薬で、ヒトよりも家畜用として広く使われてきました。それが新型コロナウイルスが生まれ世の中が騒ぎ始めた2年前、コロナに感染させた培養細胞にこのイベルメクチンを使った実験の論文が早々と2本出ました。内容は新型コロナウイルスの増殖を防いだというものです

 そう話すのは、新潟大学名誉教授で医療統計の第一人者と呼ばれる医学博士の岡田正彦先生。コロナの症状を抑えられる薬なら、この未曾有のパンデミック時代。全人類が飛びつくような薬のはずだが……。

ASKA提唱のコロナ予防薬にかけられた疑念

イベルメクチンが症状を抑えたというこれらの論文を、その後詳しく検証した専門家がたくさんいます。結果としては、ものすごい量を使用しないと実験が示したような結果にはならないという“反論”でした。寄生虫の治療ではなく、コロナウイルスを目的に使った場合、必要となる量にすると、相当高い頻度で副作用が出てくる。よく効く薬はすべからくそうですが、量を少し多くすると格段に副作用が出てきます。イベルメクチンがまさにそうで、実験の結果を鵜呑みにしてはいけないという警告が大量に発表されました」(岡田先生、以下同)

 その後、人間に対してイベルメクチンが有効であればどの程度の量を使用すると、副作用なく効果が出るのかという研究が始まった。

「実はイベルメクチンはコロナに対して“有効”だとしている論文は山ほど出ています。その後それらの論文のメタ解析がなされました」

 メタ解析とは、関係する論文を集め、ずさんなものを排除した上で、総合評価をくだすもの。

「イベルメクチンのコロナに対する効果についてメタ解析された論文すべてに目を通しました。私は30年以上にわたって論文不正の調査研究を行ってきましたが、それらに対してはたくさんの“疑念”が生じました。

 まず、正式な論文つまり専門家の審査を受けたのは2編しかありません。また、このような実験・調査をする際には、“対象者がどういう人なのか”、“年齢”、“基礎疾患の有無”などを論文上で明らかにしなくてはなりません。しかしほとんどが書かれていない。このような未完成の報告書しかなく、医薬品試験のルールから逸脱しているようなものばかりでした

データが示す「飲んでも飲まなくても同じ」

 その他にも2つのグループを公平に設定し、実薬とプラセボを割り当てて行われた試験が少ない。試験の対象者自体少ないといった点も。

※「プラセボ」                                          本物の薬と同様の外見、味、重さをしているが、有効成分は入っていない偽物の薬。薬の治療効果を実験的に明らかにするため、比較対照試験で利用される。

中には、この実験は“症状が悪化しないこと”を目的とした調査のはずなのに、イベルメクチンを飲んだことで“死亡率が62%も下がった”と報告している論文もありました。いまだかつてこの世の中に、プラセボと比較して62%も死亡率が下がるような薬は存在しません。さらに臨床試験を実施した地域が開発途上国に集中していることも問題です

‘12年、ファイザー社がナイジェリアの子どもたちに対し、親の承諾を得ることなくモルモットのように抗生剤新薬の臨床試験を行い、米国の裁判所から賠償金を請求されたという事件があった。

「これらの論文とは別に、世界的に知られた権威ある医学誌に掲載された論文が3つあります。いずれも結論は同じで“プラセボとの間で有意差なし”というもの。この場合の有意差とは、発熱などの初期症状が治まるまでの日数に差があるのかないのかという意味です」

 3編のうちの1つを例に出し、解説する。こちらは『JAMA』という、米国医師会が刊行する国際的な査読制の医学雑誌。世界で最も広範に読まれている医学雑誌とされている。『JAMA』にて《Effect of Ivermectin on Time to Resolution of Symptoms Among Adults With Mild COVID-19)》というイベルメクチンに関する研究が発表されている。《新型コロナウイルス感染(成人・軽症)におけるイベルメクチンの症状消失までの時間への影響》というものだ。

イベルメワクチン症状消失までの時間への影響をあらわすグラフ

「グラフの横軸は、薬またはプラセボを飲み始めてからの日数。縦軸は症状が回復した人の割合(累積)です。オレンジ線がイベルメクチンを飲んだ人、青線がプラセボです。グラフを見ればわかるように、両者で同様の線を描いている。つまり、症状が治ったと申告した人の割合がイベルメクチンとプラセボで同じだったということです。飲んでも飲まなくても同じということです。飲んでも何のメリットもない。

 効果があるとする論文も、それをメタ解析した論文も、第三者として公平な目で見ている研究者は、ほぼ例外なくずさんさが目立ち、信用できないという結論を下しています」

 さらに、イベルメクチンについて触れなければいけないことがある。副作用についてだ。アメリカで医薬品や医療機器、また食品などを取り締まる『アメリカ食品医薬品局(通称FDA)』が注意喚起を行っているという。

アメリカでは家畜用のイベルメクチンが簡単に手に入るそうです。それを飲んだ人に重い副作用が出て亡くなった人、痙攣を起こし失神した人など実例が挙げられ、“危険だから推奨しない”としています。副作用としてはその他に、吐き気、嘔吐、下痢など。また医師に対してもコロナの治療目的で処方しないようにという勧告が出されています

 ちなみにASKAはイベルメクチンによって感染予防が出来ていると説いている。症状を抑えるのではなく、予防に効果はあるのか?

予防できることを証明したデータは1つもありません。もし仮に予防できるとして、いつ飲むのか。いつ感染するかわからない。明日感染するかもしれないし、しないかもしれない。先ほど話したように強い副作用がある薬をずっと飲み続けるのか。予防のために飲むことは絶対にやってはならないことだと私は考えます。現状、効果は認められていませんし、極めてハイリスクです」

ガンが見つかる機械の開発も

 世界的にもコロナに対して使用しないことを呼びかけるような薬を自身のホームページやSNSで推奨し続けているASKA。

SNSだけでなく、ファンクラブ会員に対しては強く推奨するメールを発信しています」(ASKAのファン)

 現状は危険と言わざるを得ない薬を推奨するASKAに対しては、それを注意する医師も出てきている。

「ASKAさん自身がツイートしているように、ツアーメンバーは全員イベルメクチンを摂取していたようです。“主役”がツアーのためと勧めるものを断ることができたスタッフはいなかったでしょう。このような一連のイベルメクチン礼賛に対し、SNS上でASKAさんに注意した医師がいたのですが、ASKAさんはその医師に対し、“イメージを傷つけられた”と法的措置を検討しているそうです。ツアー終了後に動くとか……。

2014年7月、覚せい剤取締法違反などの容疑で逮捕されていたASKAが釈放された瞬間

 さらにはオゾン水生成機器だけに飽き足らず、“AIがスキャンをすることによって一発で体内にあるガンが見つかる”機械を開発し、現在、認可団体に承認を求めているようです。ただ、一時期イベルメクチンの使用と同様にSNS上で推しまくっていた自身の『オゾン水生成機器』は一向に発売されていないのですが……。怪しい医療系の人間に騙されているのではないかという声もあります」(芸能プロ関係者)

 ASKAの所属事務所に、“AIがスキャンをすることによって一発で体内にあるガンが見つかる”機械の開発について、ASKAが開発に携わったというオゾン水生成機器のメーカーには発売時期について、それぞれ問い合わせたが期日までに返答はなかった。

「ちなみにオゾンやオゾン水を作ることのできる機械はすでに存在しています。国民生活センターには、“利用したら気分が悪くなった”などの相談が寄せられています」(医療系ライター)

 国民生活センターは、調査によって次のようなアドバイスを消費者へ送っている。

《使用方法によっては危険なオゾン濃度となるものがあり、また、オゾン発生量等の表示を見ても専門知識のない消費者が安全に使用することは難しいと考えられた。このような現状のもとでは、購入等は避けた方がよい》

 ファンがASKAの口から聞きたいのは、彼の美しい歌声のはず。決して危険性が叫ばれている薬や怪しい医療機器の話ではないだろう。