若い世代にも人気の平屋住宅(※画像はイメージです)

 人口増加や都市部への人口集中に伴い、戸建て住宅といえば「2階建て」が一般的になって久しいが、かつては平屋建てこそが日本の主流だった。居住空間がすべてワンフロアにあり、掃除や移動もスムーズ……そんな平屋住宅に憧れる人は年々増えており、いま「平屋回帰」ともいえる現象が起こっている。

平屋のシェア増加

平屋住宅の新築戸数は、2012年の30604戸から2020年には46334戸と約1.5倍に。すべての住宅に占める平屋住宅の割合も右肩上がりに増加し、2020年には11.2%まで上昇(国土交通省「建築着工統計調査」データ)

 国土交通省の統計データによると、居住専用住宅において1階建て(平屋)住宅が占める割合は、2012年では6・8%ほどだったが、2021年のデータでは12・4%にまで増加。この9年間で平屋のシェアは1・8倍以上に高まっている。

「平屋が増えた大きな理由は“減築”需要が高まったことにあります。子どもが巣立った後のふたり暮らしのシニア層がこれまでの住居を持て余してしまい、2階部分を撤去して平屋にリフォームするなど、いわゆる増築とは真逆のニーズが増えています。足腰も弱ってくるなかで、階段の上り下りをしないで楽に暮らせるコンパクトな平屋は、シニア世代にとっては魅力的に映るのでしょうね」

 そう教えてくれたのは、住宅評論家の櫻井幸雄さん。そもそも平屋住宅は昔から根強い人気があったという。

「昔から理想の一戸建ては平屋だといわれていました。しかし、狭い日本の都市部で住環境を整えるには、どうしても上へ上へと高くする必要があります。2階建て、3階建ての住まいは、限られた面積の土地でなんとか家を広くしようという苦渋の選択。海外でも、例えばビバリーヒルズでセレブたちが暮らす家のほとんどは鉄筋コンクリート造りの平屋で、そこに広大な地下室がついているような邸宅が、憧れの住まいのようです」(櫻井さん、以下同)

 広大な土地がない日本でも、高齢化や核家族化と平屋暮らしは親和性が高いという。

「夫婦ふたりだけの世帯や子ども1人の3人暮らしであれば、1LDKや2LDKの広さでも十分で、平屋でもそんなに広い土地は必要ありません。2階建てに比べれば建築費用も抑えられ、土地にもよりますが1500万円から2000万円ほどで建てられる場合もあります。シニア層にとっても、古い2階建て住宅をバリアフリー化するために、リフォームに1000万円ほどかかってしまうくらいなら、いっそのこと建て替えてしまおうという選択も当然出てくると思いますね」

若い世代にも人気の“シン・平屋”

クレバリーホームの外観デザインの一例。三角屋根とルーフラインに沿った外壁が特徴的なシルエットを生み出す、おしゃれな平屋

 高齢者に好まれるイメージが強い平屋住宅だが、近年では若年層にも魅力的に捉えられているようだ。住宅メーカー・クレバリーホームの担当者は次のように語る。

「これまでは平屋といえばとにかく“大きい平屋”でした。2階建てに必要な延べ床面積をそのまま平屋にしていたためです。その場合、建築コストも通常の2階建てよりも高くなってしまいます。しかし近年は、小さくても効率のよい間取りが考えられるようになってきました。弊社では『Cleverly D'ess』というブランドで平屋住宅も手がけていますが、狭小プランの平屋が普及しはじめ、建築コストが低くなったことで若い世帯でも平屋を選ばれる方が増えています

 近年の働き方の変化も、若い世代の平屋回帰につながっていると櫻井さんは指摘する。

コロナ禍以降、リモートワークが普及したことで、郊外や地方で暮らすという選択肢も出てきました。広い土地が安く買える場所であれば、家族4人がのびのび暮らせる平屋を建てることもでき、実際にそういった新たな需要も生まれつつあります。また、10年ほど前までは素っ気ない平屋が多かった印象がありますが、近年は各住宅メーカーがいろいろな商品を出しています。デザイナーが手がけるおしゃれな建築も増え、平屋に対するイメージも刷新されているのではないでしょうか」

 ますます人気が高まる平屋住宅だが、2階建てやマンション住まいと比べ、デメリットももちろん考えられる。

「やはり平屋は土地面積の問題がありますね。日本では敷地面積に対してどれくらいの建築面積の建物をつくってよいかという、建ぺい率や容積率というものが決まっています。住み心地のよい平屋をつくるには当然ある程度の広さの土地は必要となるので、地価の高い都心部などで平屋を選ぶというのは、コスト的にもハードルが高いですね」

 また、シニアふたり向けのコンパクトな平屋は、不要になったときに中古として売りにくい可能性もある。

「より多くの人が求める家ほど高く売れるので、住み手が限られてしまうコンパクトな平屋はどうしても値段が下がってしまいます。同じ場所なら、やはり4人家族でも住める家のほうが当然売りやすいでしょうね。また、同じ1LDKの間取りだとしても、駅に近いマンションなどのほうが値は下がりにくく、需要は多いです。そういった資産価値という観点も考慮して住宅は選ぶべきだと思います

 自然災害が多い日本においては、防災面も重要だ。耐震性能においては平屋のほうが丈夫そうにも思えるが……。

「基本的には耐震基準をクリアした住宅しか建てられないため、平屋のほうが2階建てよりも耐震性能が高いとは言い切れません。また、河川の氾濫などの水害や津波の影響が考えられる土地では、上に逃げ場がないことは平屋の弱点ともいえるでしょう。一方で、平屋は台風や強風などには強く、地震の際も階段を使わずに逃げられるという点では安心感がありますね

住んで実感した平屋のメリットとは

 では、実際に平屋に住んでいる人は、平屋暮らしにどんなメリットを感じているのだろうか。前出のクレバリーホームに契約者の声を聞いた。

「階段を上り下りせずに家事が完結するため、毎日の生活が効率よく過ごせるようになりました。また、2階建てだとどうしても1階と2階に分かれてしまうので、家族のコミュニケーションがとりにくいのですが、平屋だとその心配もありません。家の中で孤立する部屋がなく、家族の気配を身近に感じながら生活できるため、子どもの“引きこもり”の抑制にもなるかなと思っています」(クレバリーホーム契約者)

 また、ペットとの住まいという側面でも、平屋は暮らしやすいという声がある。中庭やテラスを設計しやすい平屋では、ワンフロアでペットとずっと一緒にいられるというのもひとつのメリットだ。

「ほかにも細かい部分でいえば、建物のメンテナンスの際に足場代が安くすんだというメリットを聞いたこともありますし、2階建てのころはトイレが1階と2階にあって便利だったのに、平屋に引っ越して1つしかトイレがないから不便だ、なんて声もありましたね」(櫻井さん)

 家族の在り方の多様化とともに、住まいの在り方も多彩になっていく。平屋人気はそのひとつの傾向だろう。

<取材・文/吉信 武>