2022年4月スタートの”月9”ドラマは綾瀬はるか主演(画像:元彼の遺言状オフィシャルサイトより)

 4月11日にスタートした『元彼の遺言状』。原作は、宝島社主催の第19回(2020年)「このミステリーがすごい!」で大賞を受賞した作品であり、現代の“高視聴率俳優”の一人である綾瀬はるかが初めて“月9”に出演していることでも話題となっています。

 綾瀬はるかは“月9”どころか、フジテレビ系列の連続ドラマに出演すること自体、実に14年ぶり。フジテレビにとっては、満を持してご登場いただいたという感じでしょうかね。この『元彼の遺言状』は、“月9”にとって通算138作目の作品となります。

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 ここで簡単に“月9”の歴史をおさらいしてみましょう。フジテレビの月曜午後9時枠は、1980年10月までドラマを放送していましたが、その後1987年3月まではバラエティ番組(萩本欽一の『欽ドン!』)枠となり、1987年4月からドラマ枠へと再移行しています。以後、87年いっぱいまでは「業界ドラマシリーズ」と銘打った、2ヶ月で完結する作品を5本制作。

 翌88年1月から現在に至る、原則3ヶ月で1作のスタイルが確立されていることから、この時の『君の瞳をタイホする!』を“月9”第1作としている(1999年の元フジテレビ第1制作部部長・山田良明氏のインタビューより)ようです。そして『101回目のプロポーズ』や『東京ラブストーリー』など、一種の社会現象ともなるような大ヒット作を連発し、いわゆる“トレンディドラマ・ブーム”を牽引する、ドラマの代名詞的な看板枠へと成長していったのは、ご承知の通りです。

 さて、今回はこの“月9”を“記録”という観点から深掘りしてみたいと思います。

記録(1)月9の最多主演俳優は?

 これまで“月9”で最も主演をこなしてきた俳優は誰か? 最近も、綾瀬はるかや菅田将暉など、主演するだけで話題となる枠だけに、ここで複数作主演することは、俳優として一種のステイタスともなりますよね。そのトップ10の中から、まずは2位以下の顔触れをご紹介しましょう。

(2) 7作 中山美穂(助演として他に1作)
(3) 5作 三上博史(助演として他に2作)
     福山雅治(助演として他に2作)
     織田裕二
     竹野内豊(助演として他に2作)
     山下智久(助演として他に2作)
(8) 4作 田原俊彦
     江口洋介(助演として他に3作)
     香取慎吾(助演として他に1作)

 と、さすがの豪華なメンツという感じですよね。

 皆さんの頭の中にも、『教師びんびん物語』『君の瞳に恋してる!』『東京ラブストーリー』『ひとつ屋根の下』『この世の果て』『ビーチボーイズ』『プロポーズ大作戦』『薔薇のない花屋』『ガリレオ』などなど、数多くのヒット作が浮かんだのでは?

 さて、第1位ですが、恐らく皆さんも察しがついていると思います。そう、木村拓哉です!初主演作は、1996年の『ロングバケーション』、以降『ラブジェネレーション』(1997年)、『HERO』(2001年)、『空から降る一億の星』〔2002年〕、『プライド』(2004年)、『エンジン』(2005年)、『CHANGE』(2008年)、『月の恋人~Moon Lovers~』(2010年)、『PRICELESS~あるわけねえだろ、んなもん!~』(2012年)、『HERO(第2シリーズ)』(2014年)という具合。

 彼はこの他にも助演として『あすなろ白書』(1993年)、『西遊記』(2006年)にも出演していますから、合計12作! 正に“月9”の申し子とも言える存在ですが、2014年以降、8年に渡って出演が途絶えているのは、ファンならずとも気になるところです。

記録(2)月9の主題歌を最も多く担当した歌手は?

 “月9”といえば、その主題歌がヒットするということでもお馴染みですよね。『東京ラブストーリー』の「ラブストーリーは突然に」(小田和正)や『101回目のプロポーズ』の「SAY YES」(CHAGE&ASKA)など、枚挙に暇がありません。この主題歌を最も多く担当した歌手は誰か? 結果は以下の通りです。

(1) 6曲  嵐
     Mr.CHILDREN
(3) 4曲  中山美穂
     家入レオ
(5) 3曲  サザンオールスターズ(桑田佳祐も含む)
     田原俊彦
     福山雅治(KOH+名義も含む)
     B‘z
     久保田利伸

 主演も兼ねた、嵐や中山美穂、田原俊彦、福山雅治らと、日本を代表するアーティストである、ミスチル、サザン、B‘z、久保田利伸の中に分け入っている家入レオは、ある意味、快挙。“月9”のムードにマッチした歌声なのでしょうかね?

 続いては、脚本を最も多く担当したのは誰かについてです。結果はこちら。

(1) 10作 野島伸司
     坂元裕二
(3) 7作 岡田惠和
(4) 6作 北川悦吏子
(5) 5作 水橋文美江
     浅野妙子
     福田靖
     大森美香
     相沢友子

『東京ラブストーリー』『101回目のプロポーズ』という、“月9”人気を決定づけた2作を手掛けた坂元裕二、野島伸司が10作ずつ。『ロングバケーション』『ビーチボーイズ』という、いわば“月9”中興の祖ともいえる2作の北川悦吏子、岡田惠和がそれに続く形ですね。また、『HERO』『ガリレオ』と2作の映画化作品を生んだ福田靖や、前クールの話題作『ミステリーと言う勿れ』の相沢友子は、これからもますます数を伸ばしていくかもしれませんね。

記録(4)月9の視聴率について

 続いては、全話通じての平均視聴率について。

 以下が、前作までの“月9”全137作中で平均視聴率が高かった作品トップ10です。

(1)『HERO』(2001年) 34.3%
(2)『ラブジェネレーション』(1997年) 30.8%
(3)『ロングバケーション』(1996年) 29.6%
(4)『ひとつ屋根の下』(1993年) 28.4%
(5)『あすなろ白書』(1993年) 27.0%
 『ひとつ屋根の下2』(1997年) 27.0%
(7)『素顔のままで』(1992年)  26.4%
 『やまとなでしこ』(2000年)  26.4%
(9)『教師びんびん物語II』(1989年) 26.0%
(10)『プライド』(2004年) 25.2%

 トップ3をはじめ、10作中5作が木村拓哉出演作というのは、やはり驚異的です。しかし、最も新しい作品でも2004年というのは、近年の“月9”パワーの低下を感じざるを得ませんねぇ。

 一方、全話平均視聴率の低かった、ワースト10はというと・・・

(1)『海月姫』(2018年)6.1%
(2)『突然ですが、明日結婚します』(2017年)6.7%
  『民衆の敵~世の中、おかしくないですか!?』(2017年)6.7%
(4)『カインとアベル』(2016年) 8.2%
(5)『ラブソング』(2016年) 8.5%
  『SUITS/スーツ2』(2020年)8.5%
(7)『貴族探偵』(2017年)8.6%
(8)『コンティデンスマンJP』(2018年)8.9%
  『好きな人がいること』(2016年)8.9%
(10)『いつかこの恋を思い出して、きっと泣いてしまう』(2016年)9.7%

 ということで、こちらは見事に2010年代以降の作品ばかりです。特に2016年は4作全てがヒトケタ。この年が“月9”人気が底を打った年

 といえるでしょう。

 ネットや有料チャンネルなどの登場によって、かつてほど平均視聴率を稼ぐことは出来ないのはテレビ界全体の問題だけに単純比較はできませんし、視聴率=作品の質ではありません。中には、コロナ禍のため、放送一時中断を余儀なくされた『SUITS/スーツ2』のような不運な作品も含まれていますしね。

 また、この中から映画化された『コンフィデンスマンJP』という作品が生まれているのは、「世帯」の視聴率が悪くとも、「個人」特に「若者」には刺さっているという証左かもしれません。

“月9”はどこへ行く…

 最後に、“月9”の今後について。古くからの視聴者の皆さんには、“月9”=恋愛ドラマ枠という印象を持たれている方も少なくないと思います。確かに、かつては年4作の内、3作はラブストーリーという時期が長く続いてきました。

 しかし、2017年の『突然ですが、明日結婚します』を最後に、純粋なラブストーリー的な展開を持つ作品が“月9”から姿を消し、今クールの『元彼の遺言状』に至るまで、19作連続で、非・恋愛モノ。この路線変更が、最近の“月9”復調の要因になっているのは確かです。

 また「午後9時スタート」という枠ゆえの問題が、恋愛ドラマ激減の理由かもしれません。民放のドラマ枠自体、20年前は午後8、9時スタートが週に10作、10時以降スタートが7作でしたが、現在は11時以降スタートの“深夜ドラマ”が激増し、午後8,9時スタートは5作、10時以降スタートは実に22作です。

 この中で、午後8、9時スタートは警察や医療ドラマがほとんどを占めているのが現状。恋愛ドラマは午後10時以降スタートの作品にしかほぼ存在していません。恋愛ドラマに関心の高い10~30代のテレビ離れという状況が“月9”をも飲み込んでしまったというのが実情ですね。

 低迷期を乗り越え、路線を大きく変更しながらも、才能豊かな俳優や脚本家、歌手たちの活躍の場を保ち続けている“月9”。多くの人がイメージしていたような「トレンディなラブストーリーが展開される枠」の復活は難しいでしょうが、民放ドラマ界全体の大看板枠として、質の高い作品を送り出す…それが今、そしてこれからの“月9”なのでは…掘り下げて見えてきたのは、そんな結論でした。

(文中敬称略)


小林 偉(こばやし つよし)Tsuyoshi Kobayashi
メディア研究家
メディア研究家、放送作家、日本大学芸術学部講師。東京・両国生まれ。日本大学藝術学部放送学科卒業後、広告代理店、出版社を経て、放送作家に転身(日本脚本家連盟所属)。クイズ番組を振り出しに、スポーツ、紀行、トーク、音楽、ドキュメンタリーなど、様々なジャンルのテレビ/ラジオ/配信番組などの構成に携わる。また、ドラマ研究家としても活動し、2014年にはその熱が高じて初のドラマ原案・脚本構成も手掛ける。