町民に謝罪する花田憲彦町長(YouTubeより)

「誤送金した役場が悪い。でも、それより悪いのは、間違って振り込まれた4630万円を返さない人ですよ。町の恥だ!」

 地元町民たちは異口同音に怒っている。農作業中の80代女性からはこんな言葉が。

「金を返さない人は、きっとよそから来た人。地元の人間にそんな悪い人はいない。そんなことしたら、ここには住んでいられないわよ」

 山陰の日本海沿いにある山口県阿武町。日本海と山々の雄大な自然に囲まれたこの町の人口はおよそ3000人で、コンビニはなく、スーパーもたったの1軒という、穏やかな地域だ。4月8日、この小さな集落で町民たちを巻き込んだ騒動が勃発した。

「新型コロナウイルス感染症対策のひとつとして、生活が困窮している世帯への支援が行われたんです。この町には約1300世帯が住んでいて、そのうちの463の“住民税非課税”世帯が対象でした」(全国紙社会部記者)

“1世帯に4630万円振り込む”というあり得ないミス

 国から1世帯につき10万円の補助金が配られることに。配布方法は阿武町役場から山口銀行阿武支店を通じて、各世帯が持つ金融機関の口座に振り込まれる予定だった。

「これまではベテランの女性職員が担当する仕事だったが、彼女が総務部に異動していたんです。そのため、今年4月に採用になったばかりの新人職員が担当したのですが……」(同・社会部記者、以下同)

 この新人がトンデモないミスを犯してしまう。463世帯にそれぞれ10万円送金した上で、その合計額の4630万円を1世帯に振り込んでしまったのだ。

 そもそも、なぜこんな間違いが起きてしまったのか?

役場の指示で給付金を振り込んだ山口銀行阿武支店

「新人職員が振込先の住民リストが入ったフロッピーディスクと町長の決済印が押された振込依頼書を銀行に渡したんですが、その依頼書に誤記載があったようです。振り込みが終了した段階で、山口銀行の職員がおかしいのではないかと役場に指摘して、ようやくミスが発覚しました」

 もはや見ることのなくなった昭和の遺産『フロッピーディスク』を使用していることも注目されたが、山口銀行側の希望だという。

ミスした職員の上司は時期外れの異動

 これが誤送金の一連の流れなのだが、ある町民からはこんな指摘も。

「ミスをした新人職員を責めるのはおかしい。そもそも、上司が二重、三重にチェックしていない役場の体制自体があり得ないでしょ。ベテラン女性職員がやっていたから、慣れっこになっていたんじゃないか。新人職員は責任を相当感じていて夜も眠れず、精神的に追い詰められている状態。妻子もいるのに、かわいそうだ」

 ミスをした職員の上司の課長は時期外れの異動になったとか。

「責任をとらされたのだと思います。さらに、総務部へ異動していたベテラン女性職員は、再び戻ってきたみたいです」(同・町民)

 誤って振り込まれた世帯主が役場にお金を返還すれば、この騒動は一件落着するのだが……。阿武町役場はこの世帯主Aさんに返還してほしいと3回交渉するも、

「Aさんは最初こそ“いまは多忙だが、返還する”と応じていました。ですが途中から“金は都市銀行の口座に移しているので、戻せない”と言い出し、最終的には“罪は償う”などと応えていて、返還される可能性はまったくない状況」(前出・社会部記者)

 この問題を阿武町役場のトップはどう考えているのか、花田憲彦町長を直撃した。

「なんとか返還してもらうための努力は今後も続けていきますが、今のところ動きはありません。何かあれば会見を開いてお知らせします」

 と、なんとも悠長な回答にも思えるが……。地元住民も同じ気持ちのようで、

「大事な交渉を役場の一般職員に任せるから、わけのわからないことになっている。まずは町長みずからが返還しない世帯主のところへ菓子折りでも持って出向いて謝罪。その上で“なんとか返還してください”とお願いすべきだった。町長の責任も大きい」(別の町民)

 さらには、山口銀行も不親切だと続ける。

「役場の金を常日頃から扱っているんだから、振り込む前に“1世帯にこんな大金を振り込んで大丈夫なのか?”と問い合わせるでしょ、普通」

 この件に関して、山口銀行に問い合わせると、

「金融機関では、たとえ町役場であっても、お客さまの情報には守秘義務がありますので、お話しするわけにはいきません」(同銀行広報室)

 大騒動の元凶であるAさんとは一体どんな人物なのか。とある町議によると、

「阿武町は中心部の奈古地区、半農半漁の宇田郷地区、山間で農業中心の福賀地区と3つに分かれていて、それぞれ10キロメートル前後離れています。町長は“当該の世帯主がどの地区に住んでいるのかも言えない。騒動になるから”と、いっさい明かさないんです。書類を見ても、世帯主の名前と住所の部分がすべて黒塗りですからね」

“疑惑の移住者”Aさんの自宅がある某地区も、自然豊かな場所だった

条件を満たす“疑惑の移住者”を直撃!

 そんな中、週刊女性は役場関係者からAさんに関する有力情報をキャッチした。

「阿武町は過疎化が激しいので、ずいぶん以前から町外の人に空き家を提供しています。そこで農業や漁業などをやれば、町から月15万円を支払うなどさまざまな優遇措置を施しているんですが、Aさんはその移住者のひとりです」

 その地区には移住者が10名ほどしかいない。さらに、その他の条件(特定を避けるため、記載せず)を満たす男性が1名浮上した。彼の自宅を訪ねて直撃するも、

「自分ではありません。何かの間違いじゃないですか」

と疑惑を真っ向から否定。前出の役場関係者はこう話す。

「返還しなくても逃げ切れると思っているのでしょう。もし全額使い切ってしまっていたとなれば、回収するのは困難と言えます。住民の血税をなんだと思っているのか、許せないですね」

 4630万円を取り戻せなければ、町の財政からの持ち出しになるのか。町では、こんな噂がまことしやかに囁かれるように。

「役場には正規と非正規と合わせて約100人の職員がいますが、次の夏のボーナスはゼロみたいですよ」

 町は返還拒否する人物に対して刑事と民事の双方での対応を考えているという。警察が捜査して逮捕されることになれば、Aさんの名前は白日のもとに晒されることになる。罪の意識があるのならば、名前が公表される前に町にお金を全額返還してほしいものだ。