吉野家(上)と麻生太郎(左)、森喜朗

「田舎から出てきた右も左もわからない若い女の子を無垢、生娘のうちに牛丼中毒にする」「男に高い飯をおごってもらえるようになれば、絶対に(牛丼を)食べない」

 牛丼チェーン「吉野家」の常務取締役企画本部長(当時)の伊東正明氏が、早稲田大学の社会人向け講座で「生娘をシャブ漬け戦略」と称し語ったこの発言は、SNSを中心に大きな批判を浴びた。発言の2日後、吉野家ホールディングスは「人権・ジェンダー問題の視点からも到底許容できない」と、伊東氏を取締役から解任している。

 政治家や企業で責任ある立場の人間が女性蔑視や差別発言を公の場で行う例は、これまでにも数多くあった。近年では、社会的地位を失うなどの厳しい処分を受けるケースも多くなってきたとはいえ、同じような「炎上」が繰り返されているのが現実だ。

 原因はどこにあるのか。『これからの男の子たちへ』(大月書店)などの著書がある弁護士・太田啓子さんに話を聞いた。

「伊東氏の発言は、本人は軽いウケ狙いのつもりだったのでしょう。こうした“冗談”で笑いがとれると思ったのでしょうが、その場に女性もいる意識はあったのだろうか。“冗談”含め女性を貶めるようなやり方で、男同士の連帯を強める。そのあり方を『ホモソーシャル』というのですが、これは本当に厄介です」(太田さん、以下同)

“男同士の付き合い”が差別を助長

 男性同士で身近な女性の品評をしたり、性的な冗談を言い合ったり。飲んだあとに2次会と称して仲間で風俗に行ったり。こうした「女にはわからない男同士の付き合い」は、差別が生成される温床になるだけでなく、それを望まない男性にとってはハラスメントや暴力にもなりうる。

「男の子のスカートめくりも、スカートの中身を見たいというより“そういうことをやるのが男の子なんだ”と、男同士で盛り上がるようなところがありますよね。この社会では男性であるというだけで、本人が望む望まないにかかわらず、ホモソーシャル的なものに巻き込まれてしまう。差別を助長するだけでなく、自覚しにくくさせている大きな原因だと思います」

 女性蔑視と聞いて、真っ先に政治家の問題発言をイメージする人もいることだろう。「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」「女性というには、あまりにもお年だ」などと発言した森喜朗元首相をはじめ、枚挙に暇がない。日本では国会議員に占める女性の割合は14・3%。女性が少数派な政治の世界で、普段から「女性を貶めるような“冗談”で笑い合える」男性たちに囲まれているからこそ、差別発言は量産され続けてきた。

「男性同士のかばい合いもありますよね。“女癖は悪くても有能なやつだから”と、セクハラを問題にするどころか“あいつはモテるんだ”と肯定的に語ったり、“あんな有能な人がセクハラごときで”と被害を矮小化したり。批判の声が上がっても結局、そういう“空気”にかき消され無効化されてしまうのでしょう」

女性議員による女性蔑視発言も

 残念ながら、女性蔑視や差別発言をする政治家は男性ばかりではない。

「男女平等は絶対に実現しえない反道徳の妄想」と国会答弁で述べた杉田水脈衆院議員は、雑誌でLGBTを「生産性がない」とも発言。性暴力被害者支援の議論の中で「女性はいくらでもウソをつける」と発言するなど「ついうっかり」ではない、確信犯的な差別発言を繰り返している。

「杉田議員の差別発言は理解できないですし擁護する気も一切ありません。けれども、圧倒的な男社会の中で少数派の女性が認められるために、男性たちの本音をなぞるかのような振る舞いを極端に強調することで、生き残ろうとする女性たちもいるのでしょうね。男たちに向けて“私はちゃんとわかっている女です。わきまえない女性たちとは違いますよ”とアピールせざるをえないのでしょう。少数派が陥ってしまう、罠のひとつだと思います」

 政治家による女性差別発言を見ると、「子どもを産まない女性」に対する偏見が目立つ。杉田議員の「生産性」発言をはじめ、森元首相は子どもをつくらない女性について「年とって、税金で面倒みなさいちゅうのは本当はおかしい」と発言。麻生太郎自民党副総裁も少子高齢化について「(年を)とったやつが悪いのではなく子どもを産まなかったほうが問題なんだ」と話し、批判を集めた。

「子どもを産まない女性に税金を使うのはおかしいとか、本当にひどい発言ですよね。“産めよ増やせよ”と女性に強いた戦前の価値観を今も引きずっているとしか思えない。女性を独立した対等な人格として見ていないんですね。過度に胸を強調した類いの“萌え絵”もそう。女性が、性的対象かお母さんしかいないかのように扱われるのは本当におかしなことです」

 偏見や固定観念に基づくイメージは、広告にも蔓延している。企業などに画像素材を提供する『ゲッティ・イメージズ』の調査では、「子育て」に分類された写真のうち、女性が写った写真は男性が写った写真よりも1・36倍多く選ばれていた。日本だけに限ると、男女の差は2倍に広がったという。“女性はこうあるべき”という思い込みの表現が女性たちにプレッシャーを与え、差別にもつながっていることを自覚しない限り、今後も右の表に挙げたような「炎上」は繰り返されるだろう。

自分が差別したことを認めない

 炎上しても、批判を浴びても、社会的地位を失っても……それでも繰り返される女性蔑視や差別発言。なぜ変わることができないのだろうか。

表層だけ見て、その裏にある問題、自分の中にある差別意識ときちんと向き合おうとしていないからだと思います。批判されたので謝っておこう、と一過性の対処をするだけ。この言葉はOKだけどこれはNGとか、単純な線引きですませて、なぜそれが問題なのかを考えないから、同じことを繰り返すんですね」

「傷つけてしまったのならば謝罪する」。女性蔑視を指摘され、このような物言いをする男性は多い。だが、「傷つけてしまったのならば」と仮定するのは、自分が差別したことを認められないからだ。社会に歴然とある差別に気づかず、それに自分が加担していることにも無自覚でいられる。これは、社会の中で多数派ならではの「特権」だと太田さんは言う。

「例えば、就職や昇進でも男性は女性よりも明らかに有利だけれど、それを当たり前とする価値観の中で生きていると、その特権にはなかなか気づきにくい。気づきにくいから、特権や差別意識を指摘されると動揺してごまかしたり、ときには逆ギレしたりしてしまうんでしょうね。多数派の特権を自覚することは、その特権が持つ加害性を自覚するということ。これはジェンダー問題だけではなく、すべての差別の問題に通じる重要なカギだと思います」

 自分ではなかなか気づきにくい「多数派の特権」に気づかされるのは、誰かを傷つけ、それを指摘されたとき。認めるのは苦しくても、そこからでなければ始まらない。政治家や社会的責任がある立場の人間ならば、なおさらだ。

「政治家の差別発言を許さない。きちんと批判し、選挙で落選させなければ。ホモソーシャルな政治を変えるためにも、女性議員をもっと増やさなくてはいけないですね」

政治家による問題発言の一例

森喜朗元首相

・森喜朗元首相
「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」※2021年2月3日、日本オリンピック委員会の臨時評議員会で。
「女性というには、あまりにもお年だ」※2021年3月26日、河村建夫元官房長官のパーティーで、河村氏のベテラン女性秘書に対する発言。
「子どもを一人もつくらない女性が自由を謳歌して楽しんで、年とって、税金で面倒みなさいちゅうのは本当はおかしい」※2003年6月26日、全国私立幼稚園連合会九州地区の討論会で。

・杉田水脈衆院議員
「女性はいくらでもウソをつける」※2020年9月25日、自民党の会議で性暴力被害者支援をめぐっての発言。
「男女平等は絶対に実現しえない反道徳の妄想です」※2014年10月31日、国会答弁で。

・麻生太郎自民党副総裁
「(少子高齢化について、年を)とったやつが悪いみたいなことを言っている変なのがいっぱいいるが、間違っている。子どもを産まなかったほうが問題」※2019年2月3日、福岡県で行われた国政報告会で。

・松井一郎大阪市長
「(買い物に)女の人が行くと時間がかかる」※2020年4月23日の記者会見で。

・山東昭子元参院副議長
「子どもを4人以上産んだ女性を厚生労働省で表彰することを検討してはどうか」※2017年11月21日の自由民主党の党役員連絡会で。

女性差別と批判を集めた企業による広告や発言

【吉野家】2022年4月16日に行われた早稲田大学の社会人向け講義で、講師として招かれた常務(当時)が「生娘をシャブ漬け戦略」の持論を展開、「若い女の子が、男に食事をおごってもらい、高級な味を覚える前に牛丼漬けにする」との趣旨の発言をして炎上。

4月4日、日本経済新聞に掲載された『月曜日のたわわ』の全面広告

【講談社・日本経済新聞】2022年4月4日、日本経済新聞は講談社の漫画『月曜日のたわわ』の全面広告を朝刊に掲載。性的に強調された女子高生のイラストが批判を集め、国連女性機関も抗議に乗り出した。

【IKEA】2021年12月に放送されたテレビCMが炎上。床に散乱した飲み物などが描かれたあと、男性や子どもがソファに座っている中、母親と思われる女性がポップコーンなどを運ぶという内容。「女性は召使いじゃない」として、とりわけ女性からの非難が目立った。

【サンリオ】2021年12月、女性向け雑貨店「ITS'DEMO」の公式ツイッターアカウントが、サンリオの人気キャラクター「マイメロディ」とコラボしたグッズを販売すると告知。その中に「女の敵は、いつだって女なのよ」「男って、プライドを傷つけられるのが一番こたえるのよ」などのセリフがあり問題に。グッズの一部は発売中止となった。

取材・文/岩崎眞美子 フリーランスライター。1966年生まれ。音楽雑誌の編集を経て現職。医療、教育、女性問題などを中心に雑誌や書籍の編集に携わる