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 '20年、国内で生まれた日本人の子どもは84万832人と過去最少を記録した。政府の推計より3年早く84万人台に入った出生数。そんな中、子どもを持たない女性に心ない言葉を浴びせる人も。産まないんじゃなくて「できなかった」。不妊に悩む女性、パートナーに恵まれなかった女性が心のうちを明かす。

 先月、沖縄のラジオで流れたあるメッセージが多くの女性の共感を呼んだ。

 そのメッセージとは、

「おめでたですか? と聞かないで」

 というもの。4月19日、朝の番組『アップ!!』(RBCiラジオ)の冒頭、パーソナリティーを務める仲村美涼さん(28)は、前日のラジオ出演を欠席した理由を話した。沖縄の本土復帰50年をテーマにしたテレビの特別番組収録と重なったためと説明。そのあと「ちょっとお時間をいただきたい」と切り出し、言葉を選びながら語りかけた。

《番組でお休みをもらうときに“おめでたじゃないの?”と言われることがけっこうあるんですよね。できれば今後、言わないでほしいなという気持ちがありまして》

 仲村アナウンサーは、入社6年目の昨年の年末に入籍してから、休むたびに妊娠かどうかを尋ねられる場面が増えたという。それは彼女にとって「うれしい言葉でない」とも付け加えた。

 ワイドショースタッフが解説する。

「地方ラジオだというのに仲村アナの告白はSNSを中心に瞬く間に広がりました。反響の多くは“よく言ってくれた!”という同世代の女性が多かったです。一方で“気にしすぎじゃない?”、“あいさつ程度の言葉なんだから流せばいいのに”などの意見もありました」

 日本の少子化は今、猛烈な勢いで加速している。出生数は5年連続で減少。出生数90万人を初めて割り込み「86万ショック」と呼ばれた'19年の86万5239人から、さらに大きく減り、統計がある1899年以降で最少となった。

 このデータが裏付けるように子どもを持たない女性が増えている。1人の女性が生涯に産む見込みの子どもの数を示す「合計特殊出生率」は、'20年が1・34と、前年から0・02ポイント下がった。

「状況を重く見ている政府は少子化対策として不妊治療のバックアップなどを始めましたが、それすらプレッシャーに感じている女性は多いんです。産まないと覚悟を決めたわけじゃない人もいる。産みたくても授からない女性への無言のプレッシャーはひどくなるばかりです」

 と、女性支援に詳しい専門誌の記者。生きづらさを抱える2人の女性に話を聞いた。

競争意識を植えつけないで!

 冒頭で紹介した仲村さんの思いに共感するという加奈子さん(仮名・39)にコンタクトを取った。

《モヤモヤを言葉にしてくれて感謝。ここずっと私が思っていたこと。仲村さんが広げてくれた》

 仲村アナの告白のあと、ハッシュタグをつけて投稿していた加奈子さん。彼女はどんな思いで投稿したのか。

「おめでたですか? って言葉の暴力だと思うんです。もちろん相手にそんな気はないのはわかっているし、悪意も絶対にない。だけど受け手側の自分はこれを言われるとすごくダメージを食らっちゃうんです。仲村アナはわかりませんが、私の場合は欲しいのに授からないからです」

 加奈子さんは、31歳のときに2歳年下の夫と結婚。当時は自然に任せていたという。心境に変化が訪れたのは夫の弟の妻の妊娠。

「正直、おめでとうという気持ちしかなかったんです。だけど、弟の奥さんが妊娠したことを友人に何げなく話したら“悔しいね、先越されちゃったじゃん”と言われて。それを聞いたら祝福の気持ちがなんだか黒い気持ちに変わっていったんです。弟夫婦は私を出し抜いた気持ちでいるのかもしれない、とかいろいろ考えちゃって」

 そのとき加奈子さんは34歳。今妊娠、出産すれば高齢出産と呼ばれない。焦る気持ちで婦人科の門を叩いたという。そこから“おめでた?”が加奈子さんにとって呪いの言葉へと変わっていった。

「競争意識として子どもを持ちたいという考えが芽生えたあの日から5年たって私ももう39歳です。これまで不妊治療に1000万円近く使いました。排卵誘発のための自己注射も最初は怖かったけど、慣れました。

 夫も私も異常はないのに、なぜできないのか。いつ諦めればいいのか。芸能人の高齢出産のニュースを見るたびにまた諦められなくなる。夫と話し合って不妊治療は40歳まで、と決めているけれど、はたしてそのとき自分は諦められるのか」

 出口の見えない毎日の中、体調を崩すことも多いという。

「そのたびに“おめでたですか?”って聞かれるんです。悪意がないのはわかっています。だけどその言葉は悪口を目の前で言われるより今の私にはつらいんです」

精子バンクを覗く日々

 都内在住の聡美さん(仮名・44)は、いわゆるバリキャリ。就職氷河期時代に大手企業に就職でき、これまで猛烈社員として頑張ってきた。33歳の若さでタワーマンションを購入、おひとりさまを謳歌する聡美さん。男性社会を生きるうえで「結婚しないの?」「相手いないの?」などの言葉に苦しめられてきた。それでも自分の実力でここまでのし上がったという自信が聡美さんを支えている。

 今一番欲しいのは、

「やっぱり自分の子どもを産みたい。その思いが40歳を過ぎてようやく芽生えたんです。となると、もう気持ちは止まらなくなってしまって」

 聡美さんは結婚相手は求めておらず、現在パートナーもいない。

「男性があまり好きじゃないんです。できれば性行為もしたくない。知能は母親に似るっていうし、相手の男性に学歴も求めてないので簡単に見つかると思ったんですよ」

 聡美さんは、インターネットで精子バンクを検索。数ある中から信頼できそうな国内の医院を選んだ。

「そのとき私はもう41歳でした。お医者さまから失敗する可能性の話ばかり聞かされて、さらに倫理観の話までされた。そんなことこっちはわかっているし、覚悟を決めているのに。高額な費用を払ってまで説教されるのは割に合わないと思いましたね」

 聡美さんは、海外のサイトから冷凍精子を購入することにした。

「誰にも会わずに自分で凍結保存された精子を解凍して膣に注入するんです。ドナー情報は最初は見ていましたが今は別にどうでもいい。私の子どもであればいいんです。

 ここ3年、毎月、排卵誘発剤の自己注射をして注入を行っていますが、ご覧のとおり妊娠には至っていません。不自然なことをしているのだから仕方ないのかもしれない。だけどやりきったと思えるまで頑張りたいんです。

 私は独身だし、男っけもないので休んでも“おめでた?”なんて聞かれたことはありません。その逆で、後輩や同僚が休むと“おめでた?”ってつい聞いてしまう。それは祝福の気持ちじゃないんです。“先に授かってずるい!”という妬みの気持ち。こんな自分が嫌だし、おめでたと聞かれて相手が嫌な気持ちになるということを(アナウンサーの)報道で初めて知りました。心から他人の妊娠を祝福できるようになりたい」

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 今回紹介したほかにもさまざまな事情で産めない女性がいる。何げなくかけているその言葉が凶器になることがある事実を知っておきたい。