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 俳優・渡辺裕之さん(享年66)、タレント・上島竜兵さん(享年61)の自死の報道。渡辺さんの妻で女優の原日出子(62)は《急すぎる別れから一週間、とても心の整理も出来ませんし、語る言葉も見つかりません。「何故…」は、きっと誰にもわからないと思います》と語った。

 人生100年時代と言われる現在、まだまだ気力、体力も充実している60代は多いだろう。子育てを終え、夫婦で老後を楽しもうという矢先に配偶者を亡くす悲しみは計り知れない。

「昨年のちょうどこの季節、60代の夫がうつで療養中に自ら命を絶ちました」と話すAさんは都内在住、60代の主婦。

取り返しがつかなくなる前に、何かもっとしてあげられることがあったんじゃないかって。亡くなるまでまるで何も気づかなかったんです。悔やんでも悔やみきれません

 相次いだ芸能人の自死ニュースをメディアで見るにつけ、夫の最期の姿がフラッシュバックし、自分を責めた。

 地方都市に住む主婦、Bさんの夫も縊死。仕事の営業ノルマがこなせず、うつになり精神科に入院となったが一時帰宅の際、自宅そばの公園で深夜ひとり、旅立った。

首のまわりに多くのひっかき傷がありました。最期とても苦しんだのかもしれません

 首をくくった場所からは公営住宅の自宅が見えた。家族の存在を感じながらも死を選んだ夫。子どもたちがいなければ、あとを追っていただろう、とBさんは話す。

誰であっても悪条件が重なれば……

 学生や社会人が陥りやすいのが「五月病」というメンタルの不調。新年度に入って変化した環境やストレスに身体がついていかず、めまいや不眠など心身にトラブルが起きる。放っておくと「適応障害」や「うつ病」などへと悪化してしまうことも多い。

こんな傾向があったら要注意! 自殺リスクが高い人の特徴

 警察庁の統計によると、令和3年の日本の自死者は2万1007人。内訳は男性1万3939人、女性は7068人で男女比はおよそ2対1。最も多いのは50~69歳の中高年だ。コロナ禍以降、働き口を失ったり、人と会う回数が減ったりして、以前よりも社会との接触がなくなっている「60代男性」は注意が必要だ。まだ働ける、人に必要とされたいという意識はあっても居場所がない。芽吹きの季節、まわりはアクティブになっているのに、自分は……という理想と現実のギャップ。「五月病」は、学生や社会人だけの問題ではない。

 会社を引退して時間も体力もあり、多少の蓄えもある、一見、元気そうなあなたの配偶者でも、病む危険はあるのだ。

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「誰であっても、悪条件が重なれば、『死にたい』気持ちになることがあります」

 そう語るのは、日本自殺予防学会常務理事を務め、大分県立看護科学大学で心の健康についての研究に携わる影山隆之教授。一般市民100人のうち5人までが、1年以内に「死にたい」と考えたことがあるというデータもあり、自死は「特別な」ものではない。

 自殺に向かう理由は大きく分けて「居場所のなさ」「周囲の人に迷惑をかけているという自覚」「死ぬための具体的な方法を知っている・大胆な行為に慣れているなどの個人背景」の3つ。

「死んじゃおうと考えてるの?」とストレートに聞いてみる

 都内で自営業を営んでいた60代のCさんは、新型コロナ蔓延の影響で倒産に追い込まれた末に自己破産。生きる理由を見失い、相談窓口に通う日々を送っている。それでも、

「せめて妻子に保険金を遺してやりたくて、気がつけば死ぬことばかり考えるように。自分が不甲斐なくて押しつぶされそうです」と口ごもる。

 周囲がほんのわずかな異変に気づくことが、自死を防ぐカギとなる。

実際に自殺未遂の経験がある人が最も危険。それ以外にも、睡眠障害、自責などの、うつ症状が明確に出始めている場合にも注意が必要です。ただ、こういうサインが表出せず、気づきにくいケースもたくさんあります。もし、『大丈夫かな』と思うようなら声をかけ、『もしかして死んじゃおうとか考えてるの?』とストレートに尋ねるのが、最も効果的。意外でしょうが、そう聞いて衝動的に自殺を図る人はほぼいないんです」(影山教授、以下同)

 自殺への誘惑につながるような、外部からの情報を極力伝えない気配りも肝。

「よく知られているものに“ウェルテル効果”があります。簡単に言えば、有名人の自殺に影響され、連鎖的に自殺が増えるという社会現象のことです」

 心が疲弊している時には、とりわけ悪い情報に過敏になりがち。「自身にとって痛手」なものや「わが身と重ねて同調してしまうような出来事」などの情報は、思わぬ結果を引き起こしかねない。

 自死へと走る人のほとんどは、その直前まで「死にたい」と「生きたい」の狭間で葛藤を続けているという。もし、そのタイミングで誰かが声をかけられるなら、結果は違うものになるかもしれないのだ。

誰かがSOSを出していたら…相手に寄り添う“TALK”の原則

 WHO(世界保健機関)をはじめ、世界の自殺対策の分野には「ゲートキーパー」という概念がある。悩んでいる人の自殺のサインに気づき、適切な対応で見守ることができる人のこと。そのノウハウを医療・福祉事業従事者に限らず、広く知ってもらいたいと、厚生労働省、東京都福祉保健局などの行政機関が認知に向け公開している。「身近な人がふさぎ込んでいるけど、デリケートな問題だし、声のかけ方がわからない」といった場合の参考になる。

なにより大切なのは、つらそうな人をそのままにしないこと。そして次には素人判断でなく、公共機関などの専門家に助けを求め、アドバイスを受けることが大切

 自殺未遂から助かって回復した人のほとんどは「死ななくて本当によかった」と口にすることが多い。その声を聞くためには、たったひと言をかけるだけでもきっかけとしては十分かもしれないのだ。

取材・文/オフィス三銃士


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