今クール一人勝ちとも言われる、山下智久主演のNHKドラマ「正直不動産」の魅力とは?

 今シーズンのおすすめドラマはどれ? そう聞かれたら、迷いなく一択である。ドラマ10「正直不動産」(NHK 火曜夜10時〜)をおすすめする。

(※ここから先は一部ネタバレを含みますので、これから初めてご覧になる予定のある方はご注意ください)

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 口のうまさで営業成績をあげてタワマン生活を謳歌していた登坂不動産の営業・永瀬財地(山下智久)はあることがきっかけで急にうそがつけなくなってしまう。ばかがつくほど正直なセールス今シーズンのおすすめドラマはどれ? そう聞かれたら、迷いなく一択である。ドラマ10「正直不動産」(NHK 火曜夜10時〜)をおすすめする。によって、これまでとは違う風景や人間関係が見えてきて……。

 家の売買をめぐるお仕事もの+ヒューマンストーリーはキャラクターが明確で、テンポがよく、勧善懲悪でストレスなく観ることができる。毎回、ラストに流れる超絶やわらかボイス・小田和正によるテーマ曲「so far so good」(コーラスに松たか子、和田唱(トライセラトップス)が参加しているそうです)で心が浄化される。

 番組公式サイトの制作統括のコメントによると“放送開始から1カ月、問い合わせの数はすでに2000件を超え、総合視聴率(リアルタイム&録画)は10%以上を記録。NHKプラスも、第1話が新記録(朝ドラ・大河をのぞくドラマの歴代最高値)を叩き出して以来、その数値を毎週維持し続けております”とのこと。放送中に二度も“連続再放送”を行い、ファンを増やしている。

いまどき珍しい真っ直ぐなドラマ

 なぜ、じわじわと人気が増しているのか。それは「正直不動産」はいまどき珍しい真っ直ぐなドラマだからだ。

 最近のドラマは物足りない。ミステリーや刑事ものか恋愛ものばかり。それもストーリーがしっかりしていてテーマ性やメッセージ性があればまだしも、刹那的な刺激に走ったり、考察ドラマという名のもとに肝心なところをはぐらかしたりするようなものばかり。バラエティーなのかドラマなのかよくわからないものが増えるなかで「正直不動産」は、凝った料理もいいけれどやっぱり炊きたての白いご飯がいちばん、みたいな感じのドラマなのだ。

 正直、最初は「正直不動産」なんてタイトルだし、主人公の永瀬がうそをつけなくなるきっかけはファンタジーである(アパート建設予定地の祠を壊したことでうそがつけなくなってしまう)ことも手伝って、これもまたいまどきのバラエティーっぽい中身のないドラマなのかと警戒していた。だが見始めたら、その先の構成が盤石で、いまや、今シーズン、いちばんの愉しみである。

 かつてうそをつきまくって営業成績をあげていた不動産営業マンの永瀬。彼がなぜうそをついてきたのかは5月17日(火)放送の第7回で描かれ、永瀬の共感度はさらに上がったことだろう。

 もともとは真面目だった永瀬が世間の荒波のなかで生き抜くために、人を人と思わず騙して生きるようになってしまった。ところが祠のたたり(?)によってうそをつこうとするとビューッと強風が吹いてきて、本音を漏らしてしまう。うそをついて高額物件の問題点をぼかして販売できていた彼が、うそがつけなくなり、自身の思惑や物件の問題を他者に明かしてしまうのだが、結果的にそれが功をなし、良き人間関係を築き、永瀬は成長していく。

 うそをつかなくても自身の幸福を獲得することができる物語はひじょうに道徳的で、「舌切雀」や「金の斧銀の斧」などに代表される昔ばなしの世界であり、令和の今、大人がそんな寓話を観て楽しいかと迷うところだが、これがなんだかホッとするのである。このドラマが多くの支持を受けている理由は現実世界にあまりにうそやごまかしが蔓延しているため、フィクションの世界では、ありえない誠実さを楽しみたい、そんな人が増えているからではないだろうか。

リアルすぎる描写が避けられてきただけに

 ドラマでリアルな気苦労が描かれるとしんどいと言われて久しい。2018年頃からその傾向が顕著になってきたように筆者は感じている。例としては新垣結衣が主演ドラマ「逃げ恥(逃げるは恥だが役に立つ」(TBS)が大ヒットしたあと、2018年に主演した「獣になれない私たち」(日本テレビ)に対する視聴者の反応である。職場の問題がリアルすぎて、悩むヒロインに視聴者が自分を重ねしんどい、ドラマで日常のようなものを見たくないという声が多くあがった。

 新垣結衣と脚本家・野木亜紀子という「逃げ恥」の黄金コンビにもかかわらず、内容あるいは描写の仕方によって視聴者の反応は極度に違ったのだ。以降、テレビドラマでは日常のしんどさをリアリティーをもって描くことを避ける傾向が強くなっていく。登場人物の生きる問題はできる限りあっさりと描写されるドラマが増えていったのだ。

「正直不動産」はその問題点をうまく回避している。第7回で明かされた永瀬の過去の苦労はベースにありつつも、そこは描かず、アフター描写に集中する。不動産業界のノルマなどは実際のところかなり生々しくキツいだろうが、そこもあっさりだ。

 不動産売買のエグさもスルー。それではお仕事ものとしてのリアリティーがないかというとそんなことはない。むしろリアルなのだ。しんどくないリアル。それは知識である。不動産売買の知識がドラマにふんだんに盛り込まれ、不動産売買を経験したことのある視聴者にとっては、あるあると頷けるし、経験のない視聴者、あるいはこれから経験したいと思っている視聴者には興味深い内容が満載だ。

 実際、筆者は昨年、物件探しをして何件もの不動産業者とやりとりしたばかりだったので、そのときのことを思い返し、あのときの自分の判断は間違っていなかったなどと復習にもなった。ネット検索すればわかるような基本的なものではあるが、ドラマ仕立てになっていることで、不動産業者の事情も含めて実感できるのである。

 第5回では、欠陥住宅の問題点を伏せて早く契約させてしまおうとする業者が出てきた。また第7回では、銀行員が住宅を売らず担保にして住み続けるリバースモーゲージという金融商品のリスクを老夫婦に説明しないで勧めてくる。世の中にはこのように親切な仮面をかぶった危険人物たちがたくさん存在する。もちろん自己責任であり、しっかり知識をつけ情報を把握し考えて判断するしかないわけだが、このようなドラマで知識の一端を知ることは役立つし、騙された結果を描くのではないのでしんどくなく観ることができ、かつ、絵空事でもないというお得感がある。

正直に生きる者が報われる展開

 コスパ(コストパフォーマンス)だタイパ(タイムパフォーマンス)だと今のわれわれは効率を大事にする。わざわざ時間をかけて観たら今の自分のしんどさを改めて突きつけられるようなものは無駄と感じる。それよりもいっときいやな現実を忘れて楽しめるもの。あるいは何か役立つ情報が得られるもの。何かしら時間を使った分の得が欲しい。その点「正直不動産」は役立つ情報が得られるうえ、正直に生きる者が報われる展開で、心の安定を得ることができる。

 原作が人気漫画であることと、脚本家の根本ノンジが月9「監察医 朝顔」(フジテレビ)や「ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜」(日本テレビ)など原作ものを、押し付けがましくない程度の程よい塩梅で人情味を残して描くことに長けていること。それが見やすさの要因でもあるだろう。

 永瀬役の山下智久がメリハリの効いた演技をして、優等生すぎず、悪人すぎず、熱すぎず、冷たすぎず、いいバランスをとっている。また、福原遥が演じる同僚の月下咲良は純粋でやや世間知らずな正義感あふれた役柄で永瀬の言動に一喜一憂して、視聴者の目線代わりになっている。的確にその役割を演じている福原は、次期朝ドラ「舞いあがれ!」(2022年度後期)のヒロインに決定していて、この役の路線で演じてくれたら朝ドラも安心な気がする。


木俣 冬(きまた ふゆ)Fuyu Kimata
コラムニスト
東京都生まれ。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。