左から稲葉友、遠藤健慎(撮影/吉岡竜紀)

「撮影中、雨が降らない日が1日もなかったんです。全日、雨」

 と笑う稲葉友に、同意して大笑いの遠藤健慎。映画『恋い焦れ歌え』で共演した2人、この日もしっとり雨模様となった。けれど2人が雨男なわけではないらしい。

稲葉「なぜ雨続きだったか? 梅雨の時季だったんです!」

遠藤「しかも山間部のロケ!」

稲葉「理にかなった雨です!」

遠藤健慎は1000人のオーディションから抜擢

遠藤健慎(撮影/吉岡竜紀)

 仲のよさが伝わってくるテンポ抜群の軽妙な掛け合い。だが、映画の内容は非常に重い。暴漢に襲われ身も心も陵辱される小学校臨時教員・桐谷仁(稲葉)と、仁の心の傷を容赦なくえぐり、それをラップで表現しろと挑発する謎の青年KAI(遠藤)。社会からはみ出した男たちが、“このクソみたいな世界で、愛をぶち抜く”というキャッチフレーズそのままに、全身全霊でぶつかり合う。

 出演の打診を受けて初めて台本を読んだときのことを、稲葉はこう振り返る。

稲葉「テーマの重さやうねりを上げる熱量を感じて。ここに飛び込むのはすごく怖いなとは思ったんですけど、でも面白いと思っちゃったから、逃げられないなと」

 孤高のラッパーKAI役の遠藤は、1000人のオーディションから抜擢された。

遠藤「趣味でラップをやっていたので“ラップの映画来たー!やってやるぜ!!”ってオーディションを受けました。台本を読んだときは“うわー! やばい!”しか出てこなかったです。それくらい衝撃的だった」

 役者自身にもトラウマを植えつけかねないほど、重く過激なストーリーが展開する今作。だが、素顔の2人は地元の先輩後輩のような気さくさだ。

稲葉「若いのに礼儀がちゃんとしてるというのが、健慎の第一印象。撮影が進むと、20歳(撮影当時)の男の子のはっちゃけた感じも見えてきて、いいギャップだなと」

遠藤「最初に会ったのがラップの練習で、“ラップは負けられない!”と思って行ったら、友くんがめちゃくちゃうまくて。カッコいい! すごい! それが第一印象でした。で、今はちょっとドSなお兄ちゃん、みたいな(笑)」

 と言いつつ、遠藤は稲葉宅で手料理をごちそうになったことがあると言う。

遠藤「ハンバーグを作ってくれて、めちゃくちゃおいしかったです。しかも、余ったご飯を冷凍するとき、僕は全部まとめて袋に入れちゃうんですけど、友くんは1食分ずつ丁寧に分けて入れるんです。これが稲葉友なんですよ!」

稲葉「だいたい175グラム」

遠藤「それを肌感覚でわかるのがすごいし。あと、家もめっちゃきれいですからね!」

 まるで憧れの先輩を自慢するかのような遠藤のドヤ顔に、照れる稲葉。遠藤は「俺、やります!」と言おうか迷ったが、自分にはできないと断念したそう。そんな遠藤に、

「お前にやらせるかっ。175グラム量れんのか!?(笑)」

 と、稲葉のドSツッコミが炸裂。微笑ましくなるザ・男子な掛け合いだ。

 また、今作で大きなポイントとなっているのがラップだが、2人はもともとヒップホップが大好き。稲葉も、遠藤のラップに「すごくうまくてびっくりした」と言う。

稲葉「最近は若くてうまいヒップホップアーティストがずいぶん増えたなあと思っていたんだけど、え、役者もラップうまいの!?って、驚いた」

遠藤「僕は逆に、ヒップホップって僕らの世代で流行りだしたと思っていたから、友くんのラップを聴いて、“うっわ、好きなんだな! そのころからヒップホップあったんすね!”って思った(笑)」

 国語教師の仁によるラップは、さまざまな俳句を歌うもの。ここで稲葉は、幼少期から習っていたピアノも披露している。

稲葉「撮影当日に、俳句を1つ外すことになって。鷹についての句だったんだけど、全部つなげてイメージを作っていたから、やっているときに一瞬、頭の中で鷹がビュンって出てきて焦った(笑)」

遠藤「全然わからなかったですよ。見てる側は鳥肌でした!」

かわいいけど、奥さんじゃない(笑)

左から稲葉友、遠藤健慎(撮影/吉岡竜紀)

 息もぴったりな仲よしの2人、もし一緒に遊ぶなら何がしたいかを尋ねると。

稲葉「旅行に行くとかじゃないな、僕は。健慎とは落ち着いて付き合える感じだから、派手な遊びがしたいときはほかの先輩とやって(笑)」

遠藤「僕も、友くんが出てる作品を一緒に見ながらゆっくりしたい。派手な遊びはいらないです」

稲葉「俺の友達に会わせたいなあ。いいつながりがあれば、つながってほしいし」

遠藤「こういうことまで言ってくれる先輩。尊敬しかないですよ!」

 尊敬ポイントはさらに続く。

遠藤「友くんって、家に消耗品のストックがちゃんとあるんですよね」

稲葉「ティッシュとかキッチンペーパーとかね。ないとムカつくから」

遠藤「俺、自分がもし女性だったら、友くんと結婚します、マジで」

稲葉「俺は、しない(笑)。健慎はかわいいけど、奥さんって感じじゃないなあ」

 最後に、今作の見どころは?

遠藤「僕は序盤にラップシーンがあって。どれだけ迫力を出せるか、スタッフさんたちとみんなで神経張り巡らせたので、ぜひ見てほしいです。そして仁! すごいですよ、ほんとに」

稲葉「自分の大切な何かが壊されてしまって、そこから再構築されていく仁。僕も、新しく自分をつくっていかなきゃいけないという感覚が生まれて、“戦うぞ!”という気持ちになりました。気軽にいろいろなエンターテイメントが手に入る今の時代に逆行するような作品だけど、出会ってほしいし、何でもいいから感じてもらえたらうれしいです。あとは、遠藤健慎を見てくれと(笑)。僕は全額、彼にベットしたので!」

雨の日の過ごし方は?

談笑する稲葉友と遠藤健慎(撮影/吉岡竜紀)

稲葉「いい過ごし方、何かある?」

遠藤「家で映画見るとか?」

稲葉「おーい! ひねれひねれ(笑)」

遠藤「だって雨嫌いなんですよ~。家にこもるしかない」

稲葉「雨の匂いを感じに行け!」

遠藤「あの匂い、苦手なんです~。ていうか俺、家に傘ないんですよ。傘立てもない。だから雨が嫌いなんです。友くんは?」

稲葉「雨は嫌いじゃない。降らないと困るでしょ。晴れが続いてるとびっくりしちゃう」

遠藤「外に行きます?」

稲葉「映画館とか劇場とか、行くよ。折りたたみ傘を使ってる。健慎も折りたたみ傘にすれば? 傘はね……」

2人(突然声をそろえて)「一応、あったほうがいい!」

映画『恋い焦れ歌え』

映画『恋い焦れ歌え』渋谷シネクイントほか全国順次公開中配給:フューチャーコミックス、(c)2021「恋い焦れ歌え」製作委員会

 清廉潔白な小学校臨時教員・桐谷仁(稲葉)は、ある夜、覆面の暴漢に襲われ身も心も陵辱される。3か月後、「覚えてる? 俺のこと」と現れた謎の青年KAI(遠藤)は、仁の心の傷を容赦なくえぐり、それをラップで表現しろと挑発する。KAIによって社会生活からはみ出していき工業地帯の片隅にあるシェルターへたどり着いた仁は、みずからの再生をかけて立ち上がるー。