『ちむどんどん』ヒロインの黒島結菜と兄役(にーにー)の竜星涼

 NHKの連続テレビ小説『ちむどんどん』の視聴者からの反応が、あまり芳しくない。

 気づけばTwitter上には、「#ちむどんどん反省会」「#ちむどんどん離脱」「#ちむどんどんしない」といった、ネガティブなニュアンスのタグがついたツイートが連日盛り上がるという状況を引き起こしてしまっている(※“ちむどんどん”は、沖縄の方言で“心がドキドキする”の意)。

『ちむどんどん』の展開が雑

「近年も『純と愛』や『まれ』など、評判のよくない朝ドラはいくつもありますが、『ちむどんどん』は、それらを超えてしまうかもしれない勢いのネガティブな感想が多いですね」

 と、あるテレビ誌記者は苦笑する。

 いったい『ちむどんどん』のどのあたりのウケがよくないのか。それを紐解く上で欠かせないのが、ヒロインの比嘉暢子(黒島結菜)や、にーにーの賢秀(竜星涼)の性質だ。

「人の言うことを聞けず、無鉄砲で不躾なふるまいをする暢子、比嘉家にまつわるトラブルの多くの原因となり、大事なときに逃亡する癖のあるにーにー。さらに比嘉家の他の顔ぶれも、それぞれがちゃぶ台をひっくり返すというか、周囲を大きく振り回してしまう行動が多いことが、視聴者の“ちむどんどんしない”を招いてしまうことにつながっていると思います」(テレビ誌記者)

 さらにもうひとつが、「雑に見える展開」だ。

 この作品は、沖縄本土復帰50周年を記念した意味もあり、事前の期待が非常に高かった。占領下の沖縄と復帰直後の混乱を丁寧に描いてほしかったのだが、返還についてはバンザイを唱える資料映像であっさりすませ、とにかく年月の経過が目に付く。前出の記者がさらに続ける。

「多額の借金のために暢子が東京の親戚に引き取られるというところから、やはり行きたくない、離れたくないという大切な家族愛を描いたかと思えば、いきなり7年が経過していて、あの借金はどうなったのかなど、視聴者のモヤモヤを放置するかのようにポンポンストーリーが展開してしまう。

 さらに、東京のレストランで西洋料理人としての修行をすることになった暢子の奮闘を描いていましたが、これもいきなり1年半が経過していたり、丁寧に描いてほしいところが全部すっ飛ばされてしまうような感覚があり、全く共感ができない状態が続いています

「まさかやー!」は視聴者のセリフ

 “超展開”はさらに訪れる。大事な客に失礼な口をきいたり無知すぎることでオーナーに「クビ」を言い渡される暢子。その撤回の条件として、新聞社の「ボーヤ」として社会勉強してくるよう命じられる。あまりにも突然の舞台転換、新聞編が5月30日から唐突に始まってしまった。

 その新聞社で、暢子の少女時代に東京から転校し仲良くなった和彦(宮沢氷魚)が勤務しており、偶然の再会を果たす。しかも、暢子が下宿する沖縄タウン、横浜・鶴見の同じ場所で暮らすことになって、ここでもバッタリ。暢子の口癖の「まさかやー!」の連続である。

「このご都合主義は、当初から指摘されていることではあるのですが、『まさかやー!』は、視聴者のほうが言いたいのではないでしょうか(笑)」(同前)

 この超展開ぶりには、すっかり定着した“朝ドラ受け”を担う、『あさイチ』の華丸大吉も、気の利いたコメントを生み出すのが正直苦しそうな日も見受けられる。とはいえ、「ご都合主義な展開や、なぜか騒動の中心になるもののなんだかんだで解決していく前向きヒロインは、かつての朝ドラの定番といっちゃ定番ではあるんです」と、あるドラマウォッチャーは言う。

博多華丸・大吉('16年10月31日)

「いじめられても明るく希望を胸にがんばっていく、さらに根拠のない自信があり、なぜか周囲の人たちが味方をしてくれる。暢子のキャラは、いわゆるテンプレ的にいわれている朝ドラヒロイン像に近い。都合のいい展開もそうですが、典型的な朝ドラという見方もできなくはありません」

『あさイチ』の受けや、SNSでの盛り上がりもすべて含めて楽しむという、新しい試聴法の可能性を、前出のドラマウォッチャーは語る。

気になった部分を反省会のタグをつけてツイートするわけですが、そんな部分をハッシュタグ検索することで、自分と同じような感想を持つ『仲間ツイート』を見つけ、『やっぱりそうだよね』と共感する。

 あさイチの“朝ドラ受け”もそうです。大吉さんがなんともいえない笑顔をしてた、華丸さんが暢子やにーにーに、こうしたほうがいいと叫んだ、そこでもまた共感する。いよいよ“#ちむどんどんを見てツッコもう”という、粗さを笑うタグまで登場する域に突入しています。もはや、作品と視聴者の1対1でなく、作品を取り巻く空気すべてをみんなでツッコミながら笑って楽しむ新しいスタイルの楽しみ方ができる実験的な朝ドラになってきているのかもしれません(笑)

 作品はようやく3分の1を消化したところ。この先、新聞編のように、全く予測もつかない角度からの“超展開”がいくつも待ちうけているかもしれない。そして最終的にどう着地するのかも全く予測がつかないが、放送終了後には、ある意味での“ロス”が発生するような気もしてきた。

〈取材・文/渋谷恭太郎〉