井上尚弥

「通過点にしかすぎない一戦だと思う」

 再び迫ったビッグマッチを前にしても、“最強王者”の言葉は揺るがない。

「ボクシングのWBAスーパー&IBF世界バンタム級統一王者の井上尚弥選手が、6月7日にさいたまスーパーアリーナでWBC同級王者のノニト・ドネア選手と3団体王座統一戦を行います。6日には神奈川県横浜市内のホテルで前日計量が実施され、両者ともにクリア。戦いの条件は整いました」(スポーツ紙記者)

期待がかかる“PFP”とは?

 6月3日に行われた会見では、冒頭のように堂々たる自信をのぞかせた尚弥。対ドネア戦は今回で2回目だが、2人の試合には世界中から注目が集まっている。

「ドネア選手との直接対決は、'19年11月7日に行われたワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)の決勝以来のこと。当時は尚弥選手が判定勝ちを収め見事、大会優勝に輝きましたが、ハイレベルな激闘を繰り広げた2人の試合は、多くの海外メディアから“年間最高試合”に選ばれるなど話題を席巻。今回の再戦にも、かなり熱い視線が注がれてますね」(同・スポーツ紙記者)

 対戦相手のドネアも「私のキャリア最大の一戦になる」とリマッチに闘志を燃やしているが、今回の試合について、一部のボクシングファンからは尚弥に対してある“期待”が寄せられているという。

「尚弥選手が勝てば、“PFP”、つまり“パウンド・フォー・パウンド”の1位に君臨するかもしれないんですよ!」(格闘技ライター)

 格闘技ライターも熱く語るほどの“PFP”とはいったい何か。

「格闘技において、“全階級を通して体重差のハンデがない場合に、誰が最強か”を指す称号です。通常、格闘技は体重別に階級が分かれていて、自分の体重と近い対戦相手と試合をします。特にボクシングは全17階級と細かな体重設定がされていますが、“技量が同程度であれば、体重が重い方が勝つ可能性が高い”というのが通説。

 そうすると、最重量級にあたるヘビー級のチャンピオンが最強ということになってしまいますが、もしその体重差がないとしたら、全階級の選手で誰が一番強いのか? それを示す指標がパウンド・フォー・パウンドなんです」(同・格闘技ライター)

 現在は多くのメディアが独自のランキングを発表しているが、尚弥はもっとも格式と権威があると言われるふたつのメディアでも上位に位置している。

「そもそもPFPというのは、1922年に創刊されたアメリカのボクシング誌『ザ・リング』の初代編集長ナット・フライシャーによって、1950年代初期に造られた用語。尚弥選手は'20年10月に同誌のランキングで2位に選出され、'22年6月現在も3位に位置しています。

 また、米スポーツ専門局『ESPN』のPFPは記者による投票制で透明性があるものとしても知られていますが、こちらでも2位に座しており、今回の試合内容次第では1位に選ばれ、文字通り“世界最強”のチャンピオンとなる可能性も十分にあります」(同・格闘技ライター)

 1位選出となれば、日本人初の快挙。偉業達成を目前にファンの期待は自ずと高まるが、本人は至って冷静なようで……。

「1つの指標として意識はしているかもしれませんが、尚弥くんの陣営が昔から目標に掲げてきたのは“4団体統一”。PFPは、あくまで結果としてついてくるものという認識でしょう」(尚弥の知人、以下同)

「いつかは具志堅さんの記録を抜く」存在に

 ドネアを破れば、見事3団体統一。夢に向けて大きな一歩を進めることとなるが、尚弥の陣営にはもう1つ野望があるという。

「所属ジムの大橋秀行会長はプロデビュー前から尚弥くんを特別視していて、“いつか具志堅さんの記録を抜く”と、元世界チャンピオンの具志堅用高さんが持つ世界王座13連続防衛を超えるような存在になることを掲げていました」

 尚弥の強さを持ってすれば、レジェンドの偉大な記録を更新するのも夢物語ではないだろう。そんな彼のそばには、大橋会長も信頼を寄せる心強い味方が。

「トレーナーを務める父・真吾さんを含め、井上家は家族で1つのチーム。真吾さんは若いころヤンチャだったのがなんとなくわかるような、気さくで明るい人ですよ(笑)。普段は冗談も言うお茶目な方ですが、ボクシングのこととなると目の色が変わる。尚弥くん自身も今は奥さんと3人の子どもを持つ父になって、パワーアップしている。彼の強さを語る上で、“家族”の存在は欠かせないと思います」

 一家の支えのもと、リング上では無類の強さを誇る尚弥。では、リングの外での人間性はというと……。

「爽やかな好青年といった感じで、10代のころから受け答えや礼儀、振る舞いが完成されていました。ご両親の教育の賜物だと思いますね。威圧的な言動は一切ないのに、関係者も緊張してしまうようなオーラというか、風格があるんですよ。これは、彼がチャンピオンになる前からです。大橋会長を含め、周りの人間はみんな“これが世界王者になる男だ”と確信していました」

 チャンピオンの名に恥じない振る舞いを見せているようだが、実はそんな尚弥にも“ウィークポイント”があって……。

「ボクシングにおいては人間離れした強さですが、テレビのバラエティ番組や雑誌の撮影など、自分の専門外の現場となると彼でも緊張するようです。以前、番組出演のためテレビ局に行った際、“楽屋挨拶とかテレビ業界の勝手がわからなくて、困惑した”なんて話も聞きましたよ(笑)」

 さらに、あの女性タレントにまつわるこんなエピソードも。

「'13年4月10日、プロ3戦目を控えた尚弥くんがジムで公開練習と会見を行なった日のこと。会見にモデルの菜々緒さんがサプライズゲストで登場し、この日が20歳の誕生日だった尚弥くんにネクタイをプレゼントしたんです。すると、いつもポーカーフェイスな彼も珍しく照れた様子で緊張してしまったそう。話を聞いて、尚弥くんも人間なんだなと、ある意味安心しました(笑)」

 意外な弱点を見せていた尚弥だが、ひとたびゴングが鳴れば向かうところ敵なし。6月7日は、ボクシング界の“怪物”の勇姿を見逃せない!