警視庁が指名手配した写真は迫力ある顔つきの谷口光弘容疑者

 国の新型コロナウイルス対策の持続化給付金を騙し取った詐欺の疑いで、警視庁に指名手配されていた谷口光弘容疑者(47)。ひとり海外に逃げていた容疑者だったが8日、逃亡先のインドネシアで確保されたことがわかった。なぜこのような事件を起こしてしまったのか……『週刊女性』は光弘容疑者の半生を追っていた。

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 警視庁捜査2課などは5月30日、この詐欺容疑について光弘容疑者の元妻で三重県津市の会社役員・谷口梨恵容疑者(45)と、同県川越町の長男・大祈容疑者(22)、犯行当時19歳だった次男(21)の3人を逮捕した。

「逮捕容疑は2020年6~8月にかけ、兵庫県内の50代男性会社員ら受給資格のない3人について持続化給付金を申請し、計300万円を騙し取ったとする案件。実態は同年5〜9月にかけて個人や法人の名義を約1780件集め、うち960件以上について不正受給したとみられている。谷口家4人を核とする十数人の犯行グループで、首謀者とされるのが光弘容疑者だ」(全国紙社会部記者)

不正受給総額は9億6000万円

 光弘容疑者は都内でセミナーなどを開き、「だれでもお金がもらえます」と“客”を募り、申請に必要な書類の作成や手続きを家族らに割り振った。不正受給総額は9億6000万円以上とみられている。

「ひとつの犯行グループとしては過去最大規模。光弘容疑者は息子2人を東京に呼んで手伝わせ、離婚前の梨恵容疑者には三重県内の当時の自宅でパソコン作業にあたるよう指示していた。名義人からは1件あたり十数万〜数十万円の報酬を受け取っていたようだ。大金を手にしたとみられる光弘容疑者は、不正発覚を察知したのか、20年10月にひとりでインドネシアに逃亡してしまった」(同記者)

 家族に悪事を手伝わせ、自分だけ逃げ続けている“トンズラ親父”。この男にも「かわいい頃があった」と証言する冒頭の男性はこう続ける。

「活発で、スラッとした体格で、足がものすごく速かった。小学校の運動会ではいつもトップを走っとったのに」

 三重県松阪市の出身。会社員の父親と、大型スーパーの寝具売り場でパート勤務する母親の次男坊として育った。

 実家近くの住民は、「とにかく勉強のよくできる子でした」と話す。

 地元の中学では成績のよさを買われ生徒会役員を務めた。

「陸上部の短距離選手で頭はよかったけれども、目立つ生徒ではなかった」(同級生)

 文武両道で知られる県内の私立高へ。大学受験に失敗したのが最初の分岐点だった。

中学時代は細面のイケメンだった谷口光弘容疑者(卒業アルバムより)

 合格確実とみられた早稲田大学に落ち、通っていた進学塾を手伝いながら浪人生活を送る中、

「東京でホストになる」

 と言い始めたという。

「慌てた塾長から“この子を預かってくれないか”と頼まれたのが始まり。水商売の勉強をしてから東京に行ったほうが成功するのではないか、と説得したらしい。会ってみるとイケメンだし、ニッと笑うとかわいいし、会話も上手なのでバーテンダーとして雇うことにしたんです」

 光弘容疑者との出会いをそう振り返るのは、松阪市内のオーセンティックバー『アップルパパ』のマスター(65)。

 当時、界隈で最先端をゆく大型ブリティッシュパブを営んでおり、女性客が多かったため、若い男性バーテンダーを積極的に雇っていた。

谷口光弘容疑者がホスト修業のため働いていたバーの様子(マスター提供)

「ミツ(光弘容疑者)は頭脳明晰で仕事を覚えるのが早かった。勤務態度もまじめでした。シェイカーを振るのは簡単ですが、柄の長いバースプーンで味をなじませる“ステア”が上手かった。女性客にモテて、いつも美人の彼女がいましたね」(マスター)

店の名は『サンタムール』

 約2年の修業後、腕を磨くために料理を得意とする店、カクテル専門店へと次々に移籍。20代前半でカウンターだけの小さなバー『サンタムール(仏語で聖なる愛という意味)』を地元にオープンした。

「若手バーテンダーの登竜門といわれるカクテルコンクールにも出場しています。ずいぶん客もついたので大きな店にしたり、レストランバーも経営した。飲食業に向いていたが、彼は野心家でもあった」

とマスター。

 本業の傍ら、不動産業への進出を目指し、宅地建物取引主任者の資格試験に一発で合格。現在は元妻が社長を務める不動産会社の母体を作り上げた。30歳で敷地面積約800平米、延床面積約350平米の豪邸を中古で購入。次第に売り上げの大きい不動産業に傾倒し、大金を動かすうち、一線を超えてしまう。

「虚偽の内容で金融機関に住宅ローン融資を申し込み約3100万円を騙し取ったとする詐欺容疑で2011年3月、三重県警に逮捕されたんです。共謀者がふたりいました」

 と地元記者。

 釈放された当日、前出のマスターを訪ね、

「すいません。こんな事件を起こしてしまいまして」

 と頭を下げたという。「まだ若いんだからやり直せばいい」とマスターは叱咤激励したという。

松坂市内にある谷口光弘容疑者の豪邸。赤いフェラーリに乗り大家族で暮らしていた

 再スタートで手を出したのはビッグビジネスだった。

「太陽光発電事業に手を出し、億単位の金を稼いだといわれている。田畑を購入して施設をつくるオーソドックスなやり方をせず、土地を持たずに権利だけを右から左に動かすビジネスだったようだ。稼いだ金で真っ赤なフェラーリを買った」(知人男性)

 家庭ではいい父親だったようだ。子ども6人に恵まれ、休日には広い庭でバーベキューする姿が目撃されている。

「奥さん(梨恵容疑者)は派手なことを好まず、子どもたちと近所のドブさらいなんかをしていた。子どもはみんないい子ばかり。旦那も子どもと庭の植木を切ったりしていた。昨年12月、奥さんが近所に“津市に引っ越すんやわ〜”と理由を言わずに告げ、そのあとで離婚が決まったみたい」

 と近所の住民。

 前出のマスターは言う。

東南アジアで油田開発やエビの養殖事業

「太陽光発電で儲けた金を元手に、東南アジアで油田開発やエビの養殖事業を手がけるという話が知人を介して伝わってきた。そんな大金はないはずと不思議に思っていた」

 なぜインドネシアに逃亡したのか。光弘容疑者の父親に事情を尋ねると、

「エビの養殖は知らんが、油田開発する話はしとった。賢くてやさしい子なんですよ。あの子が9億6000万円全部取ったみたいに報じられとるけど、報酬は1割強で犯行グループの頭数で割れば900万円ぐらい。かわいそうや」

 結局、逃亡先のインドネシアで確保された谷口容疑者。堅実にコツコツ稼ぐ道は選べなかった男の末路となった。