納言・薄幸 1993年1月24日生まれ

 5月31日は禁煙を推進するため「世界禁煙デー」。この取り組みは1989年(平成元年)に始まり、毎年この日と定められ施行されている。

 2022年の5月31日、都内でも“たばこのポイ捨てが多い”地域の一つ、渋谷で納言の薄幸(すすき・みゆき)さんにインタビューを敢行した。平成5年生まれ。「たばこ離れ」の時代に生を受けた彼女、それにも関わらず愛煙家に成長した彼女は「渋谷にも喫煙所あるじゃないですか。なのに外で吸っている人いるじゃないですか。お前らがマナー守らないから、たばこ吸える場所が減るんだぞってムカつきますね」と息を巻く。彼女が語った“たばこ論”、そして「私とたばこ」のこれから──。

マナーの悪い喫煙者に喝

 たばこを吸い始めたきっかけは、当時交際していた恋人の影響だった。『ピアニッシモ』を吸う彼の仕草が格好良く、真似をしてたばこの先に火をつけた。

「彼氏が男では珍しくピアニッシモを吸っていて。最初はヤニクラ(喫煙により頭がクラクラすること)しか感じなかったですね。美味しいと思わなかったですけど、格好いいと思って吸い続けるうちに、いつの間にか必要不可欠な存在になりました。“ピアニッシモ男”と別れたあとに、他の銘柄も吸うようになりましたね。

 

 ある日、モグライダーの芝大輔さんに『セブンスター』をもらいたばこをしたことがあって。ソフトパッケージのレギュラーのものです。そこで、『うまっ!』ってなってからセブンスターを吸うようになりました。タールが重いことと、もともとピアニッシモのメンソールを吸っていたこともあって、セブンスターのメンソールに落ち着きました。一番おいしいしですし、一番やめられない銘柄って聞きます(笑)」

 喫煙量は今が人生で一番らしく、1日3箱くらいだという。現在はセブンスターのメンソールと電子たばこ、ピアニッシモの3刀流。「ピアニッシモはタールの重いセブンスターを吸いすぎたときのチェイサーです(笑)」

 意外なことに、薄さんの歴代の恋人で喫煙者はその1人だけ。その後は、デート中などに「そこに喫煙所があるから吸っておいでよ」と勧めてくれるなど、喫煙者に理解ある男性が多かったという。そんな “理解ある恋人”に恵まれたが故か、マナーが悪い喫煙者については得意の毒舌がキレを増す。

インタビューのお供はウーロンハイ。

「路上にポイ捨てされた吸い殻を見たり、歩きたばこを見かけると、マジで頭に来るんすよ。喫煙所も次々と撤去、閉鎖されている流れがあるじゃないですか。それはマナーを守らない、副流煙被害など非喫煙者に理解のない、“カッコ悪い喫煙者”のせいだって思うんですよね。うちらの親の世代って、駅のホームでも電車の中でも映画館でもどこでも吸えたっていいますよね。めちゃくちゃうらやましい時代! だから、たちの悪い喫煙者を見ると“お前らが自分で首を締めた結果だよ、マナーを守れ!”って思います」

 今でこそ売れっ子芸人、1日3箱吸えるようになったが、駆け出しのころはお金がなく、生活のために借金をしたことも。平成生まれの薄さんが喫煙を吸い始めてからも何度か値上げに見舞われているが……。

 

「私にとって、たばこは生活の一部なのでしょうがない出費。家賃と同じ。500円しかなかったときも食事よりたばこを買っていました。お金がなかったころ、先輩芸人たちと酒を飲んで記憶をなくして帰宅、朝起きたら鞄の中に先輩らのシケモクが山ほど入ってたことがありました。

 お金ないから持ち帰って家で吸おうと思ったんでしょう。細かったり長かったり銘柄が違ったり……色とりどりのシケモクはキレイだったなぁ(笑)」

ナイナイ・矢部と極楽・加藤は「喫煙所仲間」

 

 薄さんにとってのたばこの良さについて聞いてみたところ、「緊張がほぐれることかな。会話が続かないときの間繋ぎにも……あと、喫煙所でのコミュニケーションが生まれますね」と話す。たばこが人間関係を構築することもあるのだと。

「ナインティナインの矢部(浩之)さんと喫煙所で2人きりになったことがあって。共演経験がないのに、すごく話しかけてくれてうれしかったです。

 あと加藤浩次さんも喫煙所仲間。彼はずっといるんじゃないか、ってくらいに日テレの喫煙所にいますね。『また(喫煙所に)いんのかよ!』『たばこ吸いに行くの?』とすごい話しかけてくださるようになりました。たばこを吸っていなければ、ここまで先輩と親しくなれていなかったと思います。喫煙所のあの空間はなぜか人と喋りやすいんですよ」

喫煙所で中川家・礼二にもらった「麻布は志村けんしかいねぇな」

 納言といえば、たばこを吸う仕草をしながら「板橋はカーブミラー以外何もみるもんねぇな」「目白のガキは笑い声がちいせぇな」といった“街をディスり”でお馴染みだが、

「ある日、喫煙所で中川家の礼二さんと一緒になって『麻布はないの?』って聞かれたんです。麻布ってきれいな街のイメージしかなかったので、『どうしたらいいですか?』って聞いたところ、『麻布はもう、“志村けんしかいねぇなあ”でいいんじゃない?』って、ネタをくれたんです。『うわあ! 絶対、志村さんの前でやりますね!』そう喜んだんですけど、結局それは叶いませんでした」

 

 納言の相方・安部紀克さんは非喫煙者だ。吸う人と吸わない人の共存をどのように図っているのか。

「喫茶店などでネタ作りをするときは禁煙席で。吸いたくなると喫煙室へ移動するなどしていますね。本当に基本的なことです。たとえ相手が喫煙者であっても、煙がそっちに向かわないようにするとか、煙が出ているたばこをずっと灰皿に置きっぱなしにしない、とかも。

 たまに新幹線の喫煙室で1人、何メートルのたばこ吸ってるんだよっていうぐらいずっと出てこない人とかいて、携帯とかいじってて、あれはムカつきますよね(笑) 同じ愛煙家なんだから気を遣い合わないと。たばこは趣味嗜好であるからこそ、誰にも否定されたくない。だからこそ、吸う人も吸わない人も、吸う人同士も気持ちよく過ごせるようにマナーを守りたいですね」

愛煙家が抱く“夢”

 

 2020年12月に『厚生労働省 国民健康・栄養調査』が発表したデータによれば、成人喫煙者の割合は「男性 27.1%、女性 7.6%」とある。肩身の狭い中でも“格好良く”たばこを嗜む薄幸さん。

「歩きたばことか吸い殻のポイ捨てしている奴らはマジでムカつくんで、休みの日にネットで応募してゴミ拾いのボランティアをしたことありました。

 私、ひとつ夢があって。(所属している)太田プロには、ネタを練習したり見せたりする稽古場があるんですけど、そこには喫煙所がない。ただ、絶対にネタ見せの前って緊張しますし、喫煙者は絶対に吸いたいと思うんですよね。簡易喫煙ボックスを作りたいですね。もっと売れたら叶えたいなぁ」

 喫煙者と非喫煙者が共存する世を切り拓くジャンヌ・ダルクになるかもしれない。

(文/衣輪晋一)

昭和風情の漂う『渋谷 のんべい横丁』にて

吸う人も吸わない人も…進む『共生プロジェクト』

 吸う人も吸わない人も気持ち良く過ごすために……、納言・薄幸さんも注目するスモーカーとノンスモーカーの共生についてのニュースをご紹介!

「ポイ捨て図鑑プロジェクト」渋谷センター街での投票型喫煙所設置

 喫煙所『THE TOBACCO』を運営する株式会社コソドが、ポイ捨ての効果的な削減を⽬的とし、『ポイ捨て図鑑プロジェクト』の一環として2022年5⽉21⽇より⼟⽇限定で渋⾕センター街宇⽥川クランクストリートに投票型喫煙所を設置。

 楽しみながらポイ捨てを減らすことを目的に、投票型灰皿をポイ捨ての多いエリアである宇多川クランクストリートに5台設置します。「人生に大事なのは金か、愛か」など、誰しもが悩む究極の2択の投票内容を投票型灰皿に掲載。ポイ捨てをせず、灰皿に能動的に吸い殻を捨てたくなる仕組みにしています。

設置された「投票型灰皿」

『ポイ捨て図鑑プロジェクト』は、ポイ捨てされた吸殻を“喫煙所に戻れず、迷子になった吸殻モンスター “ といった助けるべき存在として描き、誰もが簡単にゲーム感覚で参加できるポイ捨て問題の解決を目指すプロジェクト。ポイ捨てされた吸い殻を撮影し、捨てられた位置情報と併せて投稿と拡散を行うことで、街のポイ捨て状況を可視化。ポイ捨てが多いエリアには喫煙所設置などの対応を検討するそう。

『23区民1万人に聞いた!自治体に進めてほしい政策TOP10』の5位と6位に「喫煙所を増やしてほしい」

 自分が直面する地域の課題をワンタップで地元議員に直接相談することができるWebサイト『issues』(株式会社issues運営)に寄せられた東京23区民の声を集計(集計期間:2019/3/1〜2022/3/30)したところ、5位に「禁煙エリアで吸う人を減らすため喫煙所を増やしてほしい」6位に「喫煙所を増やしてほしい」がランクイン。

issues集計、「自治体に進めてほしい政策TOP10」(集計期間:2019/3/1〜2022/3/30)

 喫煙所の設置は、路上喫煙・ポイ捨ての防止に効果をもたらしたことを千葉市も発表しており、吸う人と吸わない人の共生を目指す象徴の場所として近年各自治体も整備の動きを進めている。

 以下リンク先の公開データベースより、公表データの詳細を詳しく閲覧することが可能。https://bit.ly/issues-23ku-opendata