世の中には「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」だけでなく、「ヤバい男=ヤバ男(ヤバダン)」も存在する。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、芸能人や有名人の言動を鋭くぶった斬るライターの仁科友里さんが、さまざまなタイプの「ヤバ男」を分析していきます。
才賀紀左衛門(本人のインスタグラムより)

第23回 才賀紀左衛門

 内閣府が6月14日に発表した「男女共同参画白書」によると、20代男性の約7割、20代女性の約5割が「配偶者、恋人がいない」そうです。「若者の恋愛離れ」を示す1つのデータなのかもしれませんが、その一方で、何度も恋愛や結婚を繰り返す人がいるのも事実なのです。格闘家・才賀紀左衛門もその1人です。

 才賀はバツ2で、一般人女性との初婚では2人のお子さんをもうけましたが離婚、お子さんは女性側が引き取りました。次にタレントのあびる優と再婚し、お子さんが生まれましたが離婚、才賀が親権を持ち、育てています。シングルファーザーとしての子育てをブログにつづっていた才賀ですが、一般人女性との交際が話題を呼び、ネットニュースの常連となっています。女性の妊娠を機に事実婚に踏み切ったそうです。

結婚会見を開いたあびる優と才賀紀左衛門('14年9月19日)

「若者の恋愛離れ」を示すデータがでる一方で、何度も恋愛や結婚を繰り返す才賀のブログがニュースになる。いったい大衆は恋愛に興味があるのかないのか。疑問に思いながら、才賀のブログを読んでみて思ったのです。このブログを恋愛や結婚のカテゴリに入れるのは、間違いだと。

エンタメの主流はイライラに変わりつつある

 恋愛の醍醐味のひとつは、見ている側をハラハラドキドキさせることでしょう。しかし、最近のエンタメの主流はイライラに変わりつつあると言えるのではないでしょうか。

 ある編集者に、「ウェブニュースで数字(PV=ページビュー)を取る記事はマウンティングとモラハラだ」と聞いたことがあります。マウンティングというのは、自分のほうが“上”であることをいちいち言葉や態度で示すこと、モラハラというのは経済的な優位性を理由に、夫が妻(または妻が夫)に経済的・精神的な虐待を加えることを指します。

 マウンティングやモラハラをされて楽しい気持ちになる人はいないでしょう。それなのに、自分からそういう記事を求めて、わざわざクリックしてしまう。それは多くの人が実際に経験するのは嫌だけれど、エンタメとしてイライラしたいのだと思うのです。よく女性誌で「人のSNSを見てイライラしてしまう」というお悩みがのっています。見るのをやめさえすれば済む話ですが、それができるなら相談はしないでしょう。実はこういう人は「SNSを見てイライラしてしまう」のではなく、「イライラしたいから、SNSを見ている」のではないでしょうか。

 イライラがエンタメになるといえば、今年の4月から『上田と女が吠える夜』(日本テレビ系)という番組が始まりました。日常生活でのイライラ、イライラするオンナをテーマに女性ゲストがトークを展開していきます。こういう番組は一歩間違うと「オンナによるオンナ叩き」になってしまい、出演者の好感度が下がってしまったり、番組自体の印象が悪くなってしまいがちです。しかし、この番組はゲストが芸達者で、他人へのイライラだけでなく、自分のヤバい点も明かしているので、うまくバランスが取れていて面白いと私は思います。仮にSNSで騒がれたとしても「うまく人をイライラさせた」という意味では、成功と言えるのではないでしょうか。

 わざとなのか、それとも素なのか、才賀はブログにおいて、ヤバい発言を連発し、うまいことイライラを提供しているなと思うのです。

体調が悪く、仕事を手伝えないパートナーにキレる

 2021年12月13日のブログを見てみましょう。《僕の彼女も最高やわ(中略)ホンマ一緒にいて楽しいし幸せ めちゃくちゃエェやつやん 顔は人それぞれ好みあるからあれやけど僕はあんま言いたくないけどキレイや思うし今風でエェ感じやわ》とパートナーをほめています。しかし、最後に《調子乗るからあんま言わんけどな!》と結んでいます。照れ隠しだと思いたいですが、今の時代に「ほめるとオンナが調子に乗る」と言わんばかりのことを書いてしまったら、モラハラ気質だと思われてしまうこともあるでしょう。

 さらに、この日のブログでは《でもどんだけ性格良くても顔が無理な人とは一緒になれないし僕たぶん面食いやから 笑》《東京はブスの勘違いやまぁまぁおばちゃんやのに勘違いの人多いけど僕の彼女はホンマできてる思うわ》と、より広い層にもイライラを提供してくれたのでした。

 女性の容姿に対してはこだわりが強いようで、6月13日のブログでは、1年前の妊娠していない時のパートナーの写真をアップし、《去年のこの時期の写真見たら痩せてたな。笑》とつづっています。妊娠したら体形が変わるのは当たり前です。それが受け入れられないなら、ずっと恋人同士でいればいいじゃないかとイライラさせてくれるのです。

'20年11月、直撃取材を受ける才賀紀左衛門

 パートナーができても、才賀の女性への態度は相変わらずなようです。3月13日のブログで、才賀は女友達とのLINEをパートナーに盗み見られてしまい、《頭おかしいの?あなた絶対また浮気する》となじられたことをあかしています。多くの人が、才賀と直接交流を持っているわけではありませんから、彼が浮気をするような人なのかどうかはわかりません。しかし、才賀が日々、読者にイライラポイントを提供してくれているために、ネットでしか才賀を知らない人までも「うん、絶対すると思うよ」と言いたくなってしまう。才賀にイライラさせられることで、パートナーに共感したり、ひと言言いたくなったり、応援したくなってしまう気持ちが芽生えてくるのです。

 イライラの極めつけは、パートナーの妊娠が発覚したとき。6月1日のブログでは、妊娠が発覚した経緯について、才賀はこんなふうに書いています。《この日絵莉が体調悪くて僕が仕事の資料を絵莉に手伝ってもらおうと思っていた時、絵莉が「ごめん体調悪いから無理」と言われなんかムカつく。と僕は思って絵莉に「お前なんやねん!もう知らんわ」と言っていたらしばらくて絵莉が1人でどっか行きだしたので、なんかムカついて「お前なんやねん!もう好きにしろや」(後略)》というやりとりがあったことを明かしています。

 これから出産・育児が待っているわけですから、体調が悪いことや才賀の仕事を手伝えないことは多々あることでしょう。今の時点でキレていたら、赤ちゃんが生まれた後の生活はどうなるんでしょうか。モラハラは妻の妊娠や出産を機に始まることがあるとも言いますが、なんだか嫌な予感がするのは私だけではないはず。勘がはずれることを願ってはいますが、もし今後モラハラ的な行動があれば読者には「ほら、やっぱり!」と爽快感を伴うイライラが生まれることでしょう。このように、今やイライラの持つクリエイティビティは無限大と言えるのではないでしょうか。

 俳優のように好感度が必要な職業はイライラを提供してはいけませんが、それ以外の人気商売の人にとって、イライラは飯のタネになりえます。才賀にも大きなチャンスが来ているのかもしれませんが、出産を控えたパートナーや、先妻との間に生まれたお嬢さんのことだけはイライラさせないでほしいと思ってやみません。

<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」