自民党から比例区で立候補を予定する赤松健氏(同党公式サイトから引用)

 政界では3年に一度、熱い闘いが繰り広げられます。参議院選です。

 暑い夏に実施されるのが恒例で、今回の第26回参議院議員通常選挙は7月10日に投票日を迎えます(ちなみに4年に1度の統一地方選挙は4月実施が恒例でこちらは寒さに耐えながらの選挙戦となります)。

 岸田総理は、コロナ対策やウクライナ侵攻などの難局で安定感を見せ、通常国会を乗り切りました。末松信介文部科学大臣が「体育の授業では、地域の実情に応じてマスクの着用は必要が無い」とし、コロナ第6波が震撼させた教育現場も、落ち着きを見せ始めています。

 ウクライナ侵攻対応でリーダーシップを発揮してきたアメリカのバイデン大統領の訪日で、強固な日米関係が国民にも好感が持たれました。内閣支持率は60%台後半の高水準となり、野党は手も足も出ない情勢にあります。

 6月10日、四日市市文化会館の山本佐知子氏の決起大会では、岸田総理の盟友であり、参院選を統括する選対委員長の遠藤利明氏がこう分析しました。「総選挙は自動車総連(2019参院選では約26万票)を筆頭に、労働組合が自民を支持して勝てた。今回も同じだ」。本来なら野党支持というイメージのある労働組合票が自民党に流れたことが勝因というわけです。すかさず1週間後、異例ながら岸田総理が近くのホンダ鈴鹿製作所を視察し、トヨタ自動車元町工場では豊田章男社長と面会しました。

候補者は155人(前回)、比例区をどう選ぶ?

 実はそれは、「選挙区」の話です。皆さんが、駅頭で街頭演説を見かけるなど、馴染みがあるのが、都道府県を単位とする選挙区から選出する選挙です。これはほぼ政党VS政党が対立軸となり、分かりやすい構図です。それに対し、比例代表制で選出される所謂「比例区」は馴染み薄です。

 どうしてでしょうか。

「選挙区」の候補は所属政党の都道府県連が主軸となり、所属政党の地方議員が軍隊のように規律正しく編成され、さながら大政党VS大政党といった総力戦です。その為、身近な市町村議員から「〇〇さんを頼むね!」と声が掛かってきます。朝の通勤時や、週末の人出が多い場所で街頭演説会に出くわしたりします。そして、地方では自民党(公明党推薦)VS事実上の野党統一候補のような図式で、候補者が2人といったケースも散見されます。何も考えずに投票用紙記載台の前に立っても、「う~ん、こっちかな」と判断しやすいしょう。

 それと対照的に「比例区」の有権者は、想像を絶する1億人超(前回)です。これでは、候補者も有権者も互いを知るのは至難の業です。ちなみに比例区は投票用紙に、政党名と個別の候補者名、いずれを書くことも可能です。個別候補に入った得票数は「特定枠」候補を除く候補者の当選順位となります(詳しくは参議院の公式サイトhttps://www.sangiin.go.jp/japanese/san60/s60_shiryou/senkyo.htm#genkoをご参照ください)。

 そして、各党が比例名簿に登載した候補者は、これまた膨大な数の13党派で155人(前回)でした。定数50は、地方選で最多の東京都大田・世田谷・練馬区議会と同じです。その世田谷区議会ですら候補者は75人(2019年選挙)でしたから155人という数字がどれほど大きいかおわかりでしょう。

 では、そんな気の遠くなるような選挙をどう戦えばいいのでしょうか。答えは「相当な知名度」か「相当にしっかりした後援会」という事になります。別表(ポータルサイトなどでご覧の方は週刊女性PRIME本サイトでご覧ください)のように、自民党の比例区で公認される候補は、全国に後援会の基盤が確立した候補が主体となっています。

 日本歯科医師連盟の山田宏氏は、衆議院議員時代は卓越した演説力で無党派層を呼び込みました。しかし比例区の議員となった今は、全国の歯医者さんを回って支持固めに東奔西走しています。既に今年に入って、47都道府県を何周もしています。

 土地改良政治連盟の進藤金日子氏は、田んぼや水路・溜池・取水堰などの整備を行う水土里ネットという農家の集まりが応援しています。都市部の皆さんには馴染み薄ですが、これ無くして私たちの主食であるお米はできず、必須の団体です。そのため、これだけで十分当選ラインに到達するのです。

 日本看護連盟の友納理緒氏の集会には、看護師の処遇改善を求めて、女性たち(もちろん男性看護師も)の熱気で溢れ返ります。友納氏を信頼する看護師さん達に順調に支持を拡大しており、前回の約20万票の得票も視野に入ります。当選圏内の予定候補者は、いずれもそのような状況です。

 全国の各種団体を回るのでなく、“地域”に強い地元密着型の予定者もいます。元法務大臣のいわき光英氏は、「国を変えるには、福島を変える」と、さながら選挙区候補のように福島県が主戦場となっています。福島県全域が、廃炉に伴う風評対策が喫緊の課題です。日本全体の問題でありながら、復興はまだ道半ばであり、福島原発のある“浜通り”のいわき市長を務めた経験から、県民の悲願を託されています。その為、人口が180万人近い県内での知名度は高く、全国を回る予定者と遜色無い戦いを展開しています。

 そんな中で、異色の予定候補者がトップを争うかもしれません。公益社団法人日本漫画家協会常務理事の赤松健氏です。週刊少年マガジンで連載され、テレビアニメ化された『ラブひな』や『魔法先生ネギま!』などのヒット作を飛ばしました。また、『あしたのジョー』のちばてつや氏や、『銀河鉄道999』の松本零士氏といった漫画界の大御所と共に、エンターテイメント産業の代表として政府と交渉。海賊版対策、デジタルアーカイビング促進や静止画ダウンロード違法化の阻止、表現の自由保護の先頭に立ってきました。

 その赤松氏「支持団体は全くありません」と平然と語ります。しっかりと広報担当も配置し、先述した地回りなどのクラシカルな戦略でなく、メディア対応を基幹戦略に掲げます。元総務副大臣及び郵政担当副大臣の藤末健三氏は、秋葉原で「俺たちの太郎」と人気があり、政界きっての漫画通として知られる麻生太郎副総裁の政策集団に入会しました。マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟「MANGA議連」で創作文化を支え守るなど、比例区の活動にも新風が吹き込んでいます。

野党候補で最多得票したのに落選、「山田太郎氏の悲劇」とは

2016年に落選、2019年に当選した山田太郎参議院議員(PRTIMESより引用)  

 エンタメ、サブカル票戦線という意味では、6年前の参院選での「山田太郎氏の悲劇」が思い起こされます。

 山田太郎参議院議員はマンガ・アニメ・ゲーム等の表現規制に一貫して反対し、2016年「表現の自由を守る党」を結成しました。表現規制反対では赤松健氏とタッグを組み、盟友ともいえる仲です。

 同年の参議院には新党改革から比例区で出馬し、「表現の自由」を支持する若者などから幅広く票を集め、野党の比例候補では最多となる291,188票を獲得しました。これは同参院選の自民党の名簿に記載されていれば7位に入った票数です。

 ところが、新党改革全体の得票数が約58万票で1議席分にも達しなかったため、山田氏は落選の憂き目に。

 次回の2019年には自民党比例区から出馬、前回を大幅に上回る540,077票(党内2位、当選者50人中3位)を獲得し、堂々当選を果たしています。

 これらの団体がひしめく比例区の順位の予測は難航を極めます。ビッグデータとテクノロジーに基づく報道を掲げるJX通信社(米重克洋代表取締役)の情勢調査事業責任者の衛藤健氏は、「大手報道機関が公示直後に序盤情勢を掲載するのに先駆け、4月25日に全選挙区の高精度な調査を公開しました。比例区は、各党の獲得議席は予測できても、誰が当選するかの予測は実施しません。今回は投票率低下が懸念され、現況を的確に知り関心を持って頂くために実施しました」と語ります。

 調査結果のポイントがこちらです。

●全国32の一人区のうち、24選挙区で自民党候補がリード
●複数人区では、愛知・京都・福岡などで日本維新の会の候補が議席を獲得する可能性がある
●岸田内閣の支持率は広島県で69.6%に上り全国最高、不支持率が支持率を上回る選挙区はゼロ
●約半数の有権者はまだ態度を明らかにしていないほか、各党の候補者擁立も完了していないため、情勢は流動的

 さらに、「投票率アゲアゲ!選挙でポイ活祭」と銘打ち、「運営するニュース速報アプリ『NewsDigest(ニュースダイジェスト)』内で、投票に行ってアンケートに答えると、最大100万円相当のポイントがもらえます」とのことです。

 近年の選挙は、レーダーのごとく戦況が当事者や有権者にも見える化が進んでいます。 そんな中でも、全選挙区の予測や投票率向上で技術革新が進む中でも、日本全国で各候補がどれだけ得票できるのか見極めるのは難しい。毎回当選させる職域別の後援会でもない限り、雲をつかむような戦いを、とにかく総力を挙げて続けるしかありません。

直前のエラーは致命傷。与野党ともに厳戒態勢に

 6月11日、奈良文化会館の佐藤啓前経済産業政務官の決起大会では、参院幹事長として参院選の指揮を執る世耕弘成氏は、「こと選挙に限っては、短いようでここからが長い長い。1998年の橋本龍太郎総理の恒久減税をめぐる発言のブレ、2007年の消えた年金問題で、一気に逆風になって惨敗した。エラーが出ると、引き締め直す間が無い」と気の緩みへの警戒心を募らせます。

 長丁場のマラソンに似た参院選も、競技場がどんどん眼前に迫る終盤に差し掛かりました。各党ともここでのミスは命取りになるので、厳戒態勢に突入しています。昨年の総選挙では、直前には他を寄せ尽けぬ貫禄の大物議員が次々に苦渋を舐めたのは、記憶に新しいところ。自民党幹事長の甘利明氏と民主党元代表の小沢一郎氏が小選挙区で敗退(比例区で復活)、自民党元幹事長の石原伸晃氏と立憲民主党で次期代表もあり得た辻元清美氏が、比例復活すら果たせず、辛酸を舐めました。

 既に与野党とも、「参院選後」の党内の主導権も見据えています。

 政界関係者が「参院選」と聞くと、灼熱の太陽が即座に浮かびます。6月も下旬となると、一気に気温が上昇します。コロナ第6波の間は、ホールでの集会も空席が散見されました。6月12日の、大阪OMMの松川るい元防衛大臣政務官の憲法改正セミナーでは、元総理の安倍晋三氏の講演も相まって、2700人もの人波で会場もパンクしていました。前回は、遅いパターンの7月21日執行であったため、猛暑の戦いとなりました。今回は半月早いパターンの7月上旬ですが、それでも暑い。政界は既に“真夏”よりヒートアップしています。