BTS

「本来、(BTSとしての)シーズン1は『ON』(2020年2月発売のシングル)までだった」(RM)

 6月14日、韓国の7人組男性アイドルBTSの公式YouTubeにアップされた『真のバンタン(BTSの略称)会食』映像での発言が、大きな波紋を呼んでいる。

「動画内では“グループでの活動の第1幕を終える”“少し疲れたと思う”とメンバーが次々に発言。その一部に長期間の休止を意味する“hiatus”という英語字幕がついていたため、“活動休止”という報道が駆け巡りました」(音楽ライター)

 2018年には、アジア圏出身者として初となる『ビルボード200』で1位に。韓国アーティスト初のグラミー賞授賞式参加やホワイトハウス訪問を果たすなど世界的人気を誇るだけに、報道の衝撃は大きかった。

所属事務所の株価は報道後に約25%も暴落。そのため、所属事務所やメンバーたちがすぐに活動休止を否定するコメントを発表しました」(スポーツ紙記者)

 その後、所属事務所の代表は「持続的な成長と成熟のために、チームと個人活動を並行する」と、改めてコメントを発表。本人たちが即座に否定したことで、現在は字幕の誤訳ということで落ち着いている。しかし“アーミー”と呼ばれる熱狂的なBTSファンたちは、その予兆を感じ取っていたという。

9周年で集大成アルバムに違和感

「デビュー9周年を控えた10日には、デビュー曲から最新曲まで収録したアルバム『Proof』をリリースしていますが、集大成的なアルバムを10周年を待たずにこのタイミングで出したことに違和感があったんです。新曲『Yet To Come』の歌詞にも、過去に発表した楽曲のオマージュが詰まっていて、まるで“さよなら”と言われているようで……。『真のバンタン会食』での発言を聞いて納得しました」(BTSファンの女性)

 その歌詞には“音楽が好きな普通の人間”“肩書だらけで不自由”など、多忙を極めたことで身動きが取れなくなった彼らを象徴するような言葉がちりばめられている。

「韓国のアイドルは長い下積み期間とお金をかけて売り出されます。デビュー後はその資金回収をするべく、プライベートな時間を制限され、芸能活動に専念せざるをえないというのが、韓国芸能界特有の現実なんです。“韓国のアイドルシステムは、人として成熟するための時間を与えてくれない”というリーダーのRMの発言が、彼らの状況を的確に言い表しているでしょう」(前出・音楽ライター)

BTSとしての活動の苦悩を、涙ながらに打ち明ける場面も(公式YouTubeより)

 満身創痍な状態に加え、今回の発表には韓国の男性が避けて通れない切実な事情も。

「韓国には徴兵制度があり、男性は満28歳の誕生日を迎えるまでの間に18か月の兵役に就かなくてはなりません」(一般紙記者)

「オリンピックで3位以内に入賞した選手」「国際芸術競演大会で2位以上の入賞者」など、運動・芸術で成果を収めた人物に関しては、通常の兵役が免除される制度もある。しかし、BTSはその対象にはならない。

兵役期限“延長”の特例措置が取られた

「2021年6月に施行された“BTS法”とも呼ばれる改正法によって、大衆芸術の優秀者に限り、期限を30歳になる年の年末まで延期できるようになりました。国に対するBTSの貢献度の高さが認められ、特例措置が取られたんです」(同・一般紙記者)

 2018年に文化勲章を受章したことで、BTSのメンバー全員が2年間の兵役期限延長の対象となっている。しかし、それはあくまで“延期”であって、“免除”を意味するものではない。

最年長のJINは現在29歳。今年12月4日で満30歳を迎えるため、年末までに入隊する義務があります。JINが兵役によりグループから離れるのは規定路線で、BTSは“7人そろわないと活動しない”と常々話してきましたから、ソロ活動に専念するという選択しか残されていなかったのでしょう」(韓国事情に詳しい芸能プロ関係者)

 メダリスト同様に世界的な活躍をする彼らだが、なぜ“兵役免除”が認められないのか。韓国の兵役制度に詳しい作家の康熙奉氏に話を聞くと、

「オリンピックなどの成績優秀者の兵役免除に関しては何十年も前に定められた法制度のため、国民にも浸透しています。しかしBTSが対象となるように、免除制度を新たに拡大するとなると、反発の声が上がることは必至です」

特別扱いに対する不公平感

新アルバムは、1週間で275万枚以上のセールスを記録(公式ホームページより)

 過去には人気俳優の兵役逃れが発覚して問題になったこともあるなど、韓国国内では想像以上にデリケートな問題として扱われているという。

兵役にまじめに取り組まないと国民から大変な非難を浴びることになります。すでに兵役を経験した成人男性や、子どもたちを兵役に出している親からすると、芸能人だけ特別扱いすると不公平感が残りますから。将来の活動を考えるうえで兵役を避けるのはリスクが大きいですし、BTSのメンバーもそのあたりはよく理解していると思いますよ」(康氏)

 国民的スターであるBTSとはいえ、韓国国民の“兵役免除”への嫌悪感は簡単には拭えないようだ。

 しかし、兵役は負の側面ばかりではないという。

「俳優のヒョンビンは、訓練が厳しいことで知られる海兵隊に自ら志願して入隊。兵役中に男らしさとたくましさに磨きがかかり、除隊後にはドラマ『愛の不時着』で演じた軍人役などで新たな魅力を開拓。入隊前以上に支持を得ています。BTSも、芸能界と切り離された軍隊では自分自身としっかり向き合う時間が持てますし、個人としての成長も期待できます」(前出・韓国事情に詳しい芸能プロ関係者)

 徴兵制度によって追い込まれたBTSだけど、今度は“個”の力で再び世界を席巻してくれるはず!

康熙奉(カン・ヒボン)作家。'54年東京生まれ。在日韓国人二世。韓国の歴史・文化や日韓関係に関する著作が多い。主な著書に『韓流スターと兵役』(光文社新書)など