離れて暮らす老親の“まさか”に備える3つの安心(※画像はイメージです)

 少子高齢化や核家族化が進むなか、親とは別々の住まいで生活を送る人も多いのではないだろうか。厚生労働省の人口移動調査(2016年7月実施)によると、65歳以上の親と子の居住地が異なる割合は55・1%にものぼる。

 離れて暮らす親に対し、高齢になるほど病気やケガなど万が一の心配が募るだろう。

 しかし多忙を理由に実家訪問や帰省の足は遠のき、ましてやコロナ禍では及び腰になりがち。結果的に年老いた親を放置し、不安に思っている人が少なくないはずだ。

遠距離で10年間認知症の母を介護

「親は地方で暮らし、自分は都会住まいといった状況でも、親の見守りは十分可能です」

 こう語るのは、約10年間、遠距離介護を続けている介護作家兼ブロガーの工藤広伸さん。2007年、34歳のときに故郷・岩手県在住の父親が脳梗塞で倒れ、生活の拠点としていた東京から介護に通う日々がスタート。5年後、祖母の余命宣告と、母親の認知症の発症により負担は倍増。78歳の母の介護は今も続く。

「コロナ禍以前は月の3分の1は帰省していました。いまは2か月おきに、実家の盛岡に1か月滞在。岩手県内には妹が住んでいますが、基本的に母が1人で暮らしています」(工藤さん、以下同)

 離れて暮らす親を遠距離介護するのは容易ではないはず。その選択をした理由は?

「親の介護で自分の人生を犠牲にしたくない思いがありました。東京での生活で築いてきた財産を全部捨ててUターンする気持ちにはなれなかったんです。親も子どもがずっとそばにいるより、社会での成長、活躍を願うもの。うちの母はそうでした。母を東京に呼び寄せることも頭をよぎりましたが、本人は望んでいない。ならば自分が通うしかないと決断したわけです」

遠くの親を支えるポイント

理解度や知識などニーズに合わせ、いざというときに頼れる先をリストアップしておこう

サービスと機器の併用で見守りを

高齢者(※画像はイメージです)

 では、どうやったら遠距離での親の見守りができるのか。工藤さんがポイントとして挙げるのは、「1. サービスの利用」「2. ツールの導入」「3. 地域のつながり」の3つ。

「1.は公的な介護保険サービスが代表格。親の様子から介護の必要性を感じたら、いちばんに手続きすべきです。この分野は有料のサービスほど確実といえます。

 2.は親の見守りに適したIT関連のツールの活用。スマホで使えるなど簡単かつ便利なものが数多くあります。

 3.は親族や地域の人など実家の近くに住む人たち。ただし、頼れるかどうかの見極めが必要です。3つをうまく組み合わせれば、困難と思いがちな遠距離の見守りを実現できるでしょう」

 自身の仕事や生活が守れる一方、離れて親を見守ることに後ろめたさを感じる人もいるだろう。だがその行動がプラスに働く部分もあるという。

「同居せず親だけで暮らす場合は、家事などを自分たちでやらなければなりません。必然的に自立が促されて、筋力が保たれる健康面の利点も。また認知症介護でいえば、親だけで生活したほうが症状は軽いという医者の意見もあります。認知症は周囲環境に影響を受けやすく、口うるさい家族が近くにいると、かえって症状の悪化を招くのです

 とはいえ、不安は尽きない。「高齢者は緊急時に連絡先のメモが出てこなかったり、スマホを使いこなせなかったりするもの。緊急連絡先などは、見える化することが大切」

 工藤さん監修の付録『もしものときのお守りシート』の活用と合わせ、遠距離での親の見守り方を学ぼう。(週刊女性・7月5日号本誌の付録)

複数の目で見守るのが大切!いちばん頼れたものは?

 遠距離で親を見守る備えの第一歩は、「いざというときに頼れるサービスや人をリストアップしておくこと」と工藤さん。頼れるサービスの筆頭は前述した介護保険サービス。65歳以上の親が介護認定されたら、デイサービスや訪問介護などのサービスを受けられる。

「介護の相談は各自治体の『地域包括支援センター(以下、包括)』が窓口です。包括を知らない人が多いので、親の住む地域の包括の場所、連絡先を調べて“もしものときのお守りシート”に記載しておくといいでしょう。介護保険サービスにより、決まった日時に訪問看護師、ヘルパーといったプロの目で見守る態勢を築けます」

 民間の見守りサービスを利用するのも手。郵便局、警備会社などが提供している。

「見守りサービスは有料ですが、その分、確実に対応してもらえます。ただ公的なサービスに比べて費用負担は重く、認知症などに対する理解度が低いのは否めません」

 一方、頼れる人は親族・親戚、親の友人・知人、子の友人・知人、ご近所さんなど。

「親の様子を見てきてほしいと依頼したとき、確実に対応してくれるか、認知症への理解はあるかなどを踏まえ、信頼できる人を優先すべきです」

ネット環境を整えツールの導入を

 これら複数の目で見守るのに加え、工藤さん自身がもっとも頼りにして多用するのが見守りツールの数々。イチ押しは「見守りカメラ」だ。

「親の家にネット回線さえあれば導入は簡単です。見守りカメラを購入し、リビングなど親がよくいる部屋に設置すればいいだけ。撮影される親の表情や様子は、スマホやパソコンを通じて見ることができます。録画機能付きの機種なら、記録された映像をあとで見ることもできますよ。私の場合は1台4000円程度のものを実家に4台設置。おかげで親の転倒などのケガをいち早く知って対処できたり、地震発生時の安否を即確認できました」

 親のプライバシーが気になる人は、カメラ以外の手段もある。スマート電池やスマート照明(左参照)などで親の動きを感知できる。

「ツールを使いこなせば有料のサービスに頼らずにすむため、費用を安く抑えられます」

 次は、リスク別に見守りのポイントを解説してもらおう。

見守りカメラ以外の見守りツールは?

スマート電池
 テレビのリモコンなどに、スマート電池をセット。リモコン使用状況がアプリで確認できる

スマート照明
 電球LEDにSIMが内蔵。トイレなどに設置し、照明の使用がしばらくない場合、通知メールが

活動センサー
 センサーで部屋にいるかどうか、活動量はどれくらいかなど、行動の履歴や異変がわかる

運転見守りサービス
 車のシガーソケットに挿し、移動したルートや急加速・急ブレーキなど運転の様子がわかる

【熱中症】これからの季節危険度ナンバーワン!

室温を遠隔管理、衣替えも重要

 本格的な夏の到来はもう間近。今年も危険な猛暑が予想されている。

「高齢者は暑さを感じにくく、体温を調節する機能も鈍くなります。熱中症のリスクが高まるため、何より警戒しなければなりません」

 熱中症の予防にはエアコンを活用したいところだが、高齢の親はエアコンを敬遠しがち。そこで子のほうで遠隔管理するすべがある。

「『スマートリモコンを使うやり方です。スマホのアプリと連動し、親がいる部屋の温度、湿度をリアルタイムで把握。暑いときにはアプリ操作でエアコンのスイッチを入れられ、部屋の温度が何度以上になったらオンにするなどの予約設定もできます」

 価格は5000円前後から。エアコンに限らず、赤外線を利用する家電はすべて遠隔操作できる。

衣替えも熱中症の予防につながります。認知症になると季節がわからなくなり、真夏に厚手のコートを着て熱中症をまねくケースも。うちの母も夏場に『今年は雪が少なかったわね』とこぼすのが口ぐせです。なので、いつも夏を迎える前に冬物の衣服を整理する衣替えを徹底しています」

【転倒】救急搬送の8割が「転ぶ」事故が原因

高齢者(※画像はイメージです)

室内の障害物など転ぶ原因を排除

 東京消防庁管内の高齢者事故の救急搬送データによると、2015年からの5年間で転倒などの「転ぶ」事故が全体の8割以上、発生場所は「屋内」が9割以上を占めている。

「親と離れていればなおさら転倒への注意が必要です。親の家をチェックして、転倒しない住環境を整えましょう」

 高齢の親は屋内のちょっとした段差などにつまずきやすい。認知症を患った場合には、そのリスクがさらに高まる。左ページに掲げるような転倒防止策を実行すべきだという。

「ホームヘルパーなど家に出入りする人に声をかけ、床にモノを置かないなど転倒防止の住環境を維持することも大切です」

 一方、バリアフリー化のリフォーム工事を行う選択肢もある。その際、介護保険の住宅改修助成制度を受けられるかどうかをチェックしたい。

「手すりの取り付けや段差をなくすスロープの設置などは同制度の支給対象となる場合があります。改修工事を依頼する前に、介護保険のスペシャリストであるケアマネジャーに相談してください

転倒防止のためにできること
・スリッパを履かない
・玄関で靴の脱ぎ履きに使う椅子を置く
・2階のものは1階に移動させておく
・夜間用に段差に蓄光テープを貼る

【火事】火災警報器の電池寿命は要確認

IHコンロ導入は適性を見極めて

 高齢になると注意力が低下し、火事を起こす危険性が高まる。そこで心配なのは親の家の火の元。消防庁の調査(令和3年版、消防白書)によると、住宅火災発火源は1位たばこ、2位電気器具、3位ストーブ、4位コンロと続く。

「消防法により設置が義務化されている住宅用火災警報器の有無を調べましょう。警報器の電池寿命の目安は10年なので、定期的な動作確認も忘れずに。わが家は1台の警報器が火災を感知すると、ほかの部屋の警報器も連動して通知する連動型を選択しました」

 先の発火源4位のコンロは消し忘れが原因。IHクッキングヒーターの導入などで問題は解決する。

ただし、うちはIHを導入しませんでした。認知症の母には操作が難しく、今から替えると料理するのをやめてしまい自立を妨げると思ったからです。代わりに選んだのは自動消火機能のついたガスコンロ。母の場合、料理中にガスをつけたままどこかに行ってしまうことがあるのですが、自動消火してくれるため、火事には至りません。安心ですよ

【消費者トラブル】高齢者の心の弱点「お金・健康・孤独」

直接対応させず音声・映像を記録

コロナ禍、親の家にかかってくる怪しげな勧誘電話が非常に増えた」と語る工藤さん。高齢者は「お金・健康・孤独」の3つの不安を抱えているため、電話勧誘販売や訪問販売にひっかかりやすい。消費者生活センターにはその被害が多数報告されている。

固定電話にかかってくる電話勧誘の対策には、着信履歴を残せるナンバーディスプレイが有効です。着信履歴をネットで検索すれば、業者を特定することも可能。迷惑電話の場合、その番号を着信拒否登録し、次回以降の電話をブロックします。大前提ですが、常に留守番電話設定とし、親を電話に出させないことです」

 一方、訪問販売の対策には、録画機能付きのインターホンが便利だという。

高齢の親は不要な商品を買わされたとしても、業者の名前や話した内容などを忘れてしまうことが少なくありません。インターホンの録画には、やりとりの音声や映像が残るため、訪問者を特定できます。親に代わりスマホで子が遠隔対応できる機種もありますよ。録画機能付きインターホンの値段は1万円前後から。電気工事が必要な場合は別途費用がかかります」

【自然災害】ハザードマップは必ず確認しておく

緊急避難支援の流れ

避難支援を申請し地域の手を借りる

 離れて暮らす親が地震や台風などの自然災害に見舞われる可能性は十分ある。工藤さんは「自然災害のリスクが年々高まっている気がする」と危惧する。

「第一に、親が住む地域のハザードマップを確認しましょう。ハザードマップとは、自然災害による被害の軽減や、防災対策に使用する目的で、被災想定区域をはじめ避難場所・経路など防災関係の位置を表示した地図のこと。洪水・噴火・地震・津波・液状化の災害リスクも示されています。これらの情報をチェックしてください」

 次に、親が認知症など健康面に不安を感じていたら、市区町村の「避難行動要支援者名簿」に登録しよう。氏名、住所など個人情報提供への同意を必要とするため、子のサポートが不可欠となる。

「自然災害が発生したときには、行政が名簿記載の要支援者に連絡および自宅を訪問し、避難支援や最寄りの避難所への誘導が行われます。その備えとして、付録のシートに避難先を記載しておくといいでしょう」

工藤広伸さん
教えてくれたのは、工藤広伸さん  1972年、岩手県盛岡市生まれ。遠距離介護の経験をもとにした執筆活動および全国の自治体、企業などで講演を行う。現在も母親の遠距離介護を継続中。著書多数。ブログ「40歳からの遠距離介護」はこちら

<取材・文/百瀬康司>