舞台『M.バタフライ』

「ニューヨークの演劇学校の図書館で、先生にすすめられた『M.バタフライ』の戯曲を手にしたときのことをよく覚えています。西洋から見た東洋のステレオタイプのイメージを変えていきたいという、(中国系アメリカ人の)作者のデイヴィット・ヘンリー・ファンの信念のようなすごいエネルギーを感じて、ページをめくる手が止まらなくなって。読み終わった直後は、この役がやりたいとか、この物語はすごいっていうよりも“ありがとう! この本を書いてくれて!!”という気持ちでした」

悩んだ自分のアイデンティティー

 2作目となる舞台の戯曲に、初めて触れたときの印象を聞くとこう語り始めた岡本圭人。

「僕、外国で生活することが多かったんです。西洋にいるときは東洋人ですけど、日本では帰国子女ということで西洋よりに扱われることがあって(笑)。そういう生活を子どものころからしていると、自分のアイデンティティーはどっちなのか悩むこともありました。でも、西洋と東洋の両方の心がわかる自分にこの戯曲はしっくりきたんです」

 舞台『M.バタフライ』は、フランス人外交官が国家機密情報漏洩という大罪を犯すほど愛に溺れた相手が、性別を偽った中国のスパイだったという実際に起こった事件を題材にした名作。世界30か国以上で上演されてきた作品で岡本が挑むのは京劇のスター女優に正体を偽ったスパイ、ソン・リリン。男性を惑わす妖艶な女性とはどんなイメージか尋ねると、

「しぐさや話し方とかで自分を魅力的に見せようとしていない人ほど、魅力的に見えません? 無意識に出ている魅力というか。だからソンの人間性で(フランス人外交官のルネ・)ガリマールを惑わせたいですね」

母親から「娘ができたみたい」

 ソン・リリンと恋に堕ちるガリマールを演じる内野聖陽とは、今作が初共演。

「素晴らしい影響ばかりを受けています。日本の演劇の基礎から、すごく丁寧に教えてくださって。尊敬する大先輩から気にかけていただけて、指導をしていただいて、もうこんなに贅沢な時間はないと、毎日思いながら稽古をしています」

 ビジュアル撮影で美しきソン・リリンとなった自身の姿を見た感想を聞くと、

「初めてしっかりと女性のメイクをしたので、それが世の中に出るのはちょっと怖いなとドキドキしていました。でも、母親が写真を見て“娘ができたみたい”と言ってくれたのは、ちょっとうれしかったです(笑)」

「俺がやりたい」父からのエール

 Hey! Say! JUMPを離れてすぐ、ストレートプレイ初挑戦ながら主演も飾った昨年の舞台『Le Fils 息子』では、父の岡本健一との共演が話題になった。

「今までの人生の中で、こんなに父親と一緒にいたのは初めてで。稽古が終わったあとも一緒に家に帰って、たくさん話しましたね。自分の最初の作品で、演劇の道を志すきっかけである父親と一緒に舞台に立てたことは、すごく心に残る時間でした」

 『M.バタフライ』でソン・リリン役に決まったことを報告したときには「おまえじゃなくて、俺がやりたいんだけど」という祝福の言葉をもらったそう。

「でも、舞台を見に来てもらうのは今回が初めてなので、すごく楽しみにしてくれています。地方の公演先から“稽古どう?”“気持ちを楽にね”とか、時折連絡もくれますよ。ちょっと悩んでいると話したときには、“悩むのはいいことだし、楽しむためには悩むことが必要だ”とアドバイスもくれました。この舞台を見てどんな反応をしてくれるのか、僕としても楽しみなんです」

仲間の活動は刺激

 Hey! Say! JUMPのメンバーとは、今もいい関係が続いている。

「昨年の舞台も、ほとんどのメンバーが見に来てくれて、電話やメールで感想を言ってくれたりしました。僕もメンバーの出演する舞台には、もちろん足を運んでいます。

 仲間の活動は刺激になりますね。今回の『M.バタフライ』もそうですけど、ひとつひとつの自分の仕事に対してのモチベーションにすごくなっているので感謝しています」

演劇学校の最初の宿題は
40ページの自己紹介


 40ページの自己紹介を書いてみると、なぜこういう性格になったのか、こういう話し方になったのか……、自分の中で答え合わせができるんです。自分自身を外から見て理解することで、ほかの人になることができるんですよね。その経験は今でもすごく役に立っています。

役作りで実生活も
女性の気持ちでいる


 ソン・リリンを演じることで感じたのは、女方や女性の役を演じているときは、女性の気持ちをずっと考えていないといけない。自分がソンだとしたら、舞台が終わった瞬間に男に戻れる世界ではないなと。だから実生活も、ずっと女性の気持ちでいるようにしているんです。

舞台『M.バタフライ』

6月24日~7月10日 東京:新国立劇場 小劇場
7月13日~15日 大阪:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティほか、福岡、愛知公演も。
詳細は、公式サイト 
www.umegei.com/m-butterfly/

取材・文/井ノ口裕子