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 ノンフィクションライター・大塚玲子さんが教師たちの本音に迫る『先生のホンネ』シリーズ。今回のテーマは「掃除」。いまどき雑巾掛けは時代遅れ…!?  先生たちが考える、見直すべき点とは?

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 学校には、昭和の時代から変わらない懐かしい光景がたくさんあります。これまで取り上げてきた運動会や給食、卒業式など、どれもノスタルジックな甘い思い出として、幅広い年代に共有されているもの。

 でも、ハタと立ち止まって考えてみると「それって、本当にいいやり方?」と思うようなことも、実は少なくありません。大人たちは、過ぎ去った学校の思い出をつい美化して考えがちですが、「これぞガラパゴス」みたいなことも、意外とよくあるのです。

 今回取り上げる学校の「掃除」も、そのひとつ。先生たちに話を聞くと、「これは考えなきゃダメだよね」というもろもろが、浮かび上がってきました。

家ではクイックルワイパーやルンバなのに

 まず、掃除道具の問題があります。学校の掃除といえば、雑巾とバケツに、長い柄のついたホウキを頭に思い浮かべる人がほとんどじゃないかと思うのですが。

 「いまどき、日常の床掃除に雑巾を使うお家なんて、あります?」という声が、複数の先生からあがりました。言われてみれば、確かにそうです。家の廊下や部屋の床を雑巾がけするなんて、そうそうありません。筆者は飲み物をこぼしちゃったときくらいです。

「おうちならクイックルワイパーや掃除機ですよね。学校だって雑巾がけじゃなく、せめてモップでもいいのでは」(長野県 公立中学校H先生)

「学校は、お湯も出ないんですよ。冬でも冷たい水に手を漬けて、あかぎれを作りながら雑巾がけ。ルンバがある時代だというのに(苦笑)」(長崎県 元公立中学校Y先生)

 先生たちだけが担う掃除もあるといいます。それは年に一度の「ワックスがけ」です。春休みの間に、ポリッシャー(電動の清掃機械)を使った洗浄からワックスがけまでを、先生たちが半日くらいかけてやるのだそうです(自治体や学校にもよります)。

「今年は初めて、学校の予算をやりくりして業者を頼んでもらえたので、だいぶ救われました。春休みは短いのに、やることがものすごく多いんです」(神奈川県 公立中学校G先生)

 なお、コロナで緊急事態宣言が出ていたときは、子どもたちが掃除する範囲を縮小したため、廊下や階段などの掃除は、先生たちがやらざるを得なかったということでした。

そもそも、なぜ子どもたちが学校の掃除を?

 他方では、「生徒の掃除負担が増えている」という指摘もありました。

「平成のはじめ頃は、クラス数はいまの倍くらいあったし、1クラス45人くらいはいたので、その頃と比べると今の生徒数は3分の1くらい。だから生徒1人が掃除しなければいけない面積は、昔よりだいぶ増えているはずです」(長野県 公立中学校H先生)

 これも言われて、ハッとしました。「よく使う=掃除しなければいけない教室」は昔より減っているとしても、廊下や校庭などの面積は変わりません。掃除の負担は、間違いなく増えていそうです。

 最近は「そもそも学校の掃除を児童や生徒にやらせること自体、おかしいのではないか」という声も、聞かれるようになりました。

 筆者が以前取材した憲法学者の木村草太さんは「学校は教育機関なので、教育としてなら掃除をさせてもいいが、教育ではないのだとしたら子どもたちに強要することはできないはず」と指摘。

 教育研究家の妹尾昌俊さんも「市役所のトイレを職員が掃除することは、ほぼない。学校は『子どもの強制労働』みたいなことになっている」と話していました。(教育新聞「【木村草太氏×妹尾昌俊氏】学校の当たり前を法から見直す」2019年8月)

 これについては先生たちからもいろんな声があがりました。

「子どもたちは教育的な意味があるから掃除をするのであって、奴隷ではありません。ですから、子どもたちが掃除をできないときに教員が代わりにやるというのはおかしいはずです。業者など、人を雇う必要があるんじゃないかと思います」(神奈川県 公立中学校 G先生)

「昔も今も、掃除をサボる子は必ずいます。よく『自分で掃除をすると、汚さないように気を付けるようになる』などと言いますが、気を付けるのはいつもみんなから掃除を押し付けられている一部の子どもだけ。掃除をサボってウロウロする子は平気で汚すので、教育にはなっていないと思います」(長崎県 元公立中学校Y先生)

「同じアジア圏の国でも、学校の掃除は業者がやるところもありますよね。『いろんなやり方があっていいじゃない』と自由度を増やしていくのが大事だと思いますが、現実には逆に『掃除スタンダード』などと言って、細かいやり方を一律に決めたがる学校もあり、それはそれで悩ましいです」(神奈川県 公立小学校N先生)

「自分たちが使うところをきれいにする、という心がけは大事だと思うのですが、やり方が時代にそぐわなくなった部分は見直すべきでしょう。これからは、自分の部屋を整理して使いやすくするために工夫するのと同様に学校でも整理整頓・工夫をする時間があっても良いのかなと思っています」(長野県 公立中学校H先生)

 正直なところ、筆者も以前は「学校の掃除は雑巾にバケツでしょ」くらいに思って、疑問を持ちませんでしたが、こうしていろんな意見を聞くと、改めて「やり方は決してひとつではないんだな」と気付かされます。

 昔どおりの決まったやり方をしておけば、大人たちは「なんとなく安心」していられますが、これからの時代を生きる子どもたちにとって、本当にそれで大丈夫なのか? もうちょっと、考えなければならなさそうです。

大塚玲子(おおつか・れいこ)
「いろんな家族の形」や「PTA」などの保護者組織を多く取材・執筆。ノンフィクションライターとして活動し、講演、TV・ラジオ等メディア出演も。著書は『さよなら、理不尽PTA! ~強制をやめる!PTA改革の手引き』(辰巳出版)、『ルポ 定形外家族 わたしの家は「ふつう」じゃない』(SB新書)、『PTAをけっこうラクにたのしくする本』(太郎次郎社エディタス)など多数。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。