男性客が起こしたトラブルにより、電車内は騒然となった

「電車がちょっと進んだあたりで乗客のひとりが非常通報ブザーを鳴らしたら、緊急停止したんです。窓から外に出る乗客もいるほどパニック状態でした」(乗客のひとり)

 6月25日午後1時50分ごろ東京メトロ副都心線東新宿駅で40代の男性客が大声で怒鳴り、他の車両に移動しながら腕やかばんを振り回すなどして暴れるというトラブルが発生した。その影響により副都心線は全線で1時間ほど運転を見合わせ、約5700人に影響が出た。

 警視庁によれば、ホームに座り込んでいた男性は、暴れた理由について「車内で足を伸ばして座っている人がいたので、いらついて車内を移動する際に大声を出した」と話している。乗客のなかには「京王線とか小田急線の刺傷事件と同じくらいの緊迫感があった」と話す者もいたという。

「賠償請求額はとんでもないな」進む男性客の“特定”

 すぐにSNS上にはその様子を切り取った写真や動画などが投稿されることに。車両の床にベビーカー、パンプス、バッグなどが散乱している様子や、迷惑行為を行った男性客がホームに座り込んでいる写真や、電車の席にうなだれているところなどが発信された。猛暑日ながら、ダウンジャケットを羽織っていることについても多くのユーザーが言及している。

 早速ネット上では、この男性への“特定作業”が始まっているようで……。

個人がネット上にアップした“トレンドブログ”の記事には男性の写真を掲載し、何者なのかを特定しようという動きがみられています。『詳細がわかり次第追記』とされており、今も男性客の素性について調べていることがわかります。また、巨大掲示板『5ちゃんねる』では“賠償請求額はとんでもないな”といったコメントが散見されましたね」(ウェブメディアライター)

SNSで拡散されたトラブルが起きたあとの車両(Twitterより)

 実際に男性客が損害賠償を請求されることはあるのだろうか。みずほ中央法律事務所の三平隆史弁護士によれば、

「報道などでは、男性客がほかの乗客に対し、暴力をふるったという話はないようです。確かに、一般常識からして異様な行動であるとは言えそうですが、直接的な暴行や脅迫が行われたわけではなさそうなので、違法性が高いとまでは言えないように思われます。

 また、男性客の威嚇行為があったからといって『電車を緊急停止させる』ほどの因果関係が認められそうになく、緊急停止により損害が生じたとしても、男性客を責任に問うことはできないでしょう

 それでは、どのようなケースだと責任に問われるのだろうか。

法で裁けないのなら……

「たとえば、男性客(迷惑行為者)が、他の乗客に対し直接暴行をふるい、警察などによる制止を求めなければならない状況で緊急停止をした場合などです。電車を遅延させたことによる損害に対する責任を問われる可能性があります」

 今後、電車内での迷惑行為を罪に問うための“法改正”がなされる可能性は……?

たとえば、自動車の運転は、交通事故を起こす可能性のある“潜在的に危険な行為”なので、責任を生じやすくさせる立法例はあります。しかし、電車の乗客ということですと、電車に乗ること自体に潜在的な危険があるわけではありませんので、法改正されるとは考えにくいです

 確かに、実際にこれまでも電車内での迷惑行為により鉄道会社から多額の損害賠償が要求されるケースは少ない。

密室の電車内で暴れられるという精神的ショック、電車が遅延するなどの時間的被害は決して見過ごされるものではありません。法で裁けないのなら……ということで、“犯人の顔を晒す”という正義中毒に取り憑かれた人も少なからずいる。犯罪抑止になるとも思っているのでしょうね」(ITジャーナリスト)

 負の連鎖を止める方法はどこに……。