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「地元・札幌市の商業施設内の書店で漫画本を盗んだところを見つかり現行犯逮捕された3日後のことだ。こんどは、約2か月前に出張先のコンビニエンスストアで弁当などを盗んでいた容疑が固まり、再逮捕となった。将来を嘱望された事件担当の若手記者で、他業種の同年代と比べてずっと高給取りのはずなのに」

 と捜査関係者は呆れる。

 北海道斜里町のコンビニで弁当や菓子などを万引きしたとして道警斜里署は6月21日、読売新聞北海道支社の報道記者・高橋沙耶香容疑者(24、高ははしごだか)を窃盗の疑いで再逮捕した。道警によると、被害に遭ったのは計9点で、被害総額は販売価格で2657円。

 警察の取り調べに対し、「反省しています」などと述べ容疑を認めている。

 事件があったのは4月28日午後8時57分ごろ。現場の斜里町ではその5日前、知床半島沖で小型観光船『KAZU 1』が沈没する事故が起こり、テレビや雑誌、新聞各社の記者が町に大挙していた。高橋容疑者も取材のため、札幌から出張中だった。防犯カメラの映像から特定に至ったという。

 最初の逮捕案件は6月18日午後8時55分ごろのこと。自宅や職場に近い札幌市内の書店で、販売価格880円の漫画1冊を盗んだとして窃盗の疑いで現行犯逮捕された。札幌区検が処分保留で釈放した同21日に再逮捕となった。

 被害に遭った書店の関係者はこう話す。

「最初に万引き被害に気づいたのは5月だった。コミック単行本を十数冊ごっそり盗まれ、防犯カメラをチェックしたところ万引きする若い女が映っていた。それで警戒していたところ、犯行当日に人相などのよく似た女が来店したため、“あの女が来た!”と防犯カメラで監視しているとまた万引きした。ただちに警察に通報するとともに、スタッフが女に声をかけると逃げようとした。警察がすぐに来てくれたので逃げられずに済んだけれど」

慶應卒のエリート女性記者が万引き

 盗まれたのは漫画1冊とされているが、そんな控えめな犯行ではなかったという。

「実際は6、7冊ぐらい盗もうとしている。声をかけられて捕まるまいと投げつけたのか、投げ捨てたのか、最後に手元に残っていたのが1冊だけだったにすぎない。コンビニでも万引きをしていたんでしょう? 店にとって、万引きは死活問題になり得るというのに悪質ですよ」(前出の書店関係者)

 高橋容疑者は岐阜県出身。慶応義塾大学文学部を卒業し、2020年に記者生活をスタートさせた。初任地が札幌だった。

万引きを繰り返していた高橋沙耶香容疑者(※画像は一部加工しています、知人提供)

「事件取材のほか、高校野球の地方大会や保護猫の飼育問題、北炭夕張新炭鉱ガス爆発事故の周年振り返り記事など精力的に取り組んでいた。激辛マニアでもあり、東京や関東近県の有名店『蒙古タンメン中本』で激辛の北極ラーメンを食べるほど。その意外性を売りに人脈を広げていた」(容疑者の知人)

 勤務評定や人柄はどうだったのか。生活に困窮していた様子の有無や処分の行方などを読売新聞グループ本社広報部に質問すると、

「社員のプライバシーにかかわるご質問にはお答えしかねますが、会社としては、事実を確認した上で、適切に対応して参ります」

 と回答した。

 約2か月のあいだに2度の万引き。正社員として安定収入があったから、いずれも払えない金額ではなかったとみられる。

 盗品数が多いのも気にかかる。防犯カメラがあることもわかっていただろうし、新聞記者の社会的役割からして、自らこのような犯行をした場合は実名報道されやすいと知っていたはずだからリスクは大きかった。

 なぜ、社会的立場やリスクを顧みず犯行に走ったのか。

 犯罪心理学に詳しい新潟青陵大学大学院の碓井真史教授(社会心理学)は、「逮捕事実だけでは断定できませんが」と前置きして、次のように話す。

犯行にいたる合理的理由がない

「生活に困っていたなどの経済的理由から万引きしたのではないとすると、心の問題になります。子どもの場合、ストレスがたまっていたり、親に反抗したくて欲しくもないものを盗むことがある。大人の場合は、精神医学の診断名で『窃盗症(クレプトマニア)』と呼び、犯行にいたる合理的理由はありません。貧乏ゆすりや爪を噛むクセと同じようなもので、本人が止めようと思っても、説教されても止められない。盗んではいけないと重々わかっていながら気付くとやっている。そういう人がいるんです」

 それにしても、高学歴で社会的地位もあるのだからブレーキがかかりそうなもの。逮捕されたくはないだろうから、もう少し人目につかない状況を選んでもおかしくない。善し悪しはともかく、そうした計算もできなくなってしまうのか。

「例えば拒食症の人は“食べないと死んじゃうよ”と言われても食べられないことがあります。高所恐怖症の人は、部屋でイスの上に立って照明灯の電球交換もできなかったりする。イスから落ちそうになったらピョンと飛び降りればいい、とわかっていても。学歴や社会的立場は関係ありません。心身ともタフな格闘家が精神を病むとみなさん意外に思われたりしますが、どんな人でも心の病にかかることはあります。リスクを負ってダイヤモンドを盗んだのであれば納得しやすいのかもしれませんが、割に合うかどうかという性質ではないのです」(碓井教授)

 法治国家で窃盗は許されない。しかし、精神医学上、診断名がつくケースでは、ただ刑罰を与えるだけでなく、治療する必要があるとの声があがっているという。

 再犯を防ぐにはどうすればいいのか。

「心の病は、理屈ではわかっていても自分の感情や行動をコントロールできないからつらいんです。精神科医など専門家の診断を受けるようお勧めしたい。カウンセリングでストレスや不安要素が見つかるかもしれませんし、薬を処方できるかもしれません」(碓井教授)

 それにとどまらず、行動療法として“模擬コンビニ”なる訓練方法があるという。

「全国に数は少ないですが、病院などの施設内にコンビニの模擬店を作ってそこを歩かせるんです。すると盗みたくなり、そのときにどうすればいいかを学ぶ。例えば親指を内側に入れてギュッと拳を握ると我慢できるとか。あるいは盗ませて、模擬店を出るときに店員役の病院職員がポンポンと肩をたたき、“盗んじゃダメだよ。返さないとね”と繰り返して覚えさせる。すぐに治療効果が出るわけではないので、治るまではひとりでスーパーやコンビニなどに行かないようにします。そうやって多角的に取り組みながら治していくんです」(碓井教授)

 逮捕された記者が窃盗症かどうかはわからない。窃盗症だとすると、本人にその自覚があるケースが多いというから、向き合ってこなかったことが悔やまれる。さまざまな事件の顛末などをみてきた記者らしからぬ犯行であることは疑いがなく、捜査の進展が待たれる。