山上徹也容疑者が2発目の銃弾を放つと、爆音と白煙が…(目撃者提供)

「警備にあたっていた私服のSPは13、4人ですね。現役ではなく、元首相であれば妥当な人数と言えます。問題は人数ではない。このような杜撰な警備体制ではたとえ警官が1万人いても、事件は起きている」

 そう厳しい口調で話すのは、元大阪府警刑事の犯罪ジャーナリスト・中島正純氏。
 
 7月8日、日本中を震撼させる事件が起きた。奈良市の近鉄大和西大寺駅前で安倍晋三元首相が自民党候補の応援演説中、手製のハンドガンで撃たれたのだ。殺人未遂の現行犯で逮捕されたのは、奈良市内に住む元海上自衛隊員の無職・山上徹也容疑者(41)。安倍元首相は救急車とドクターヘリを乗り継いで奈良県立医科大付属病院に搬送されるも、同日午後5時すぎに死亡が確認された。

 中島氏は事件当日の夕方には現場入りし、SNS上の動画もチェックしながら事件が起きた原因を徹底的に追求。たどりついた答えが冒頭の言葉だった。

 事件当日、SPはどのように配置されていたのか。安倍元首相はガードレールで囲まれた場所で演説していた。安倍元首相の前には多くの聴衆がひしめいていたが、後方は車道を挟んで、がら空きの状態だった。

「安倍元首相専属のSP1人、奈良県警や地元警察のSP十数人で警備にあたっていた。おそらく専属のSPは安倍元首相の背中からみて左斜め後ろにいた男性で、安倍元首相に背中を向けて目線は左斜め前にあった。山上容疑者はその先にいたので、SPもおそらく目視はしているはずですが、なぜかスルーしている」(中島氏、以下同)

背後からの襲撃に全く備えていないSP

 反対となる右側に、SPが2人いたが、

「彼らはともに前しか見ていなかった。つまり、背後からの襲撃に全く備えていない。安倍元首相の近距離にいたのはこの3人だけ」

 そのほかのSPはどこにいたのかというと、

「聴衆の中に数名いたのを確認できました。はっきり言って、この警備人数で聴衆の中に配置する意味は全くないでしょう。聴衆の中ではなくて、前に立たせるべきだった。そうすれば聴衆者の中に不審者がいないかを確認できて、不審者が突然飛び出してきてもすぐに対処できる。聴衆の中にいたら、事が起きた時に必ず出遅れてしまう」

 それが現実のものとなってしまう。一発目の銃声が鳴り響き、続く二発目で安倍元首相は凶弾に倒れた。

安倍元首相銃撃事件の現場。二発目の銃声が鳴る直前の女子高生の姿。その後、混乱に巻き込まれる(目撃者提供)

「容疑者は安倍元首相の左斜め後ろから真後ろに移動して、車道を歩いてそのまま銃撃した。そもそも、安倍元首相の背後に近づかれている時点で“容疑者をなぜ制止していないのか”という疑問がありますが、それをさておいても安倍元首相の近くにSPがいれば一発目の銃声を聞いた直後にSPが安倍元首相に覆い被さるなどの対処ができたはず。それが全くできていないのは、SPの配置が遠すぎるからです」

 安倍元首相の近くにいたSPたちは何をしていたのか。右側にいた2人のSPは前方に注意を払っていたため、不審者の認識に遅れたのだろう。

「安倍元首相にタックルなどをして身を屈めさせつつ容疑者には防弾カバンを向けて銃弾から身を守るのがベストの対応。ですが、SPのひとりが安倍元首相の後ろに立って防弾カバンを構えることしかできなかった」

 安倍元首相の左斜め後ろにいたSPは飛び出して容疑者を取り押さえてはいるが、それは二発目の銃声がした後のことだ。

 現場の警備にあたっていた複数の警察官からは「一発目の銃声が聞こえて初めて不審者を認識した」という証言が出ているが、

警官と女子高生がぶつかって車に轢かれそうに…

「警官全員がパニック状態になっていたのでしょう。警官のひとりは二発目の銃声を聞いてようやくことの重大さに気づき安倍元首相のもとに駆け寄ろうとして、女子高生とぶつかってしまいます。それによって彼女は道路に飛び出して、あわや車に轢かれそうに……。女子高生は軽症で済んだようですが、一歩間違えば大変な事故になっていた」

 中島氏はこう続ける。

「警護・警備のレベルが低すぎる。厳しく言いますが、これでは民間の警備会社に任せた方がマシです」

 7月11日の記者会見で、松野博一官房長官は安倍元首相銃撃事件に関して、

「全国警察を指導する立場にある警察庁の関与の在り方も含め、今回の警護・警備には問題があったと認識しているという報告を受けている」
 
 と述べた。
 
 杜撰な警備が原因で命が奪われたのであるならば、取り返しがつかない。