(左から)伊藤千晃、紗栄子、篠田麻里子

『有名人プロデュース』のアパレルブランドの休止が相次いでいる。

 紗栄子が手掛ける『my apparel』(マイアパレル)は6月をもって販売終了に。『AAA』の元メンバーの伊藤千晃のブランド『KIKI AND DAYS』(キキアンドデイズ)も6月リリースの新作をもって無期限の休止を発表した。

「有名タレントやインフルエンサーがプロデュース、デザイナーを務めるアパレルブランドの寿命は、一部の例外を除いて短命です」

 そう話すのはアパレルジャーナリストの南充浩氏。確かに紗栄子のブランドは2年と続かず伊藤のブランドは3年で終了となっている。以下のタレントが手掛けたブランドもすべて現在は休止している。

●梨花『MAISON DE REEFUR』(メゾン・ド・リーファー)

●木下優樹菜『Avan Lily』(アヴァンリリィ)

●佐々木希『Cotton Clud』(コットンクラウド)

●若槻千夏『WC』(ダブルシー)

●篠田麻里子『ricori』(リコリ)

※若槻は契約満了によりデザイナー業から離れた後、新ブランドを自己資本でスタート。佐々木は「芸能活動との両立が難しい」としてブランドを休止後、現在は再挑戦中。

'00年代はアパレル企業やセレクトショップがバックアップ

 有名人ブランドが短命に終わる理由とは。前出の南氏は「個々のブランドによって事情や状況は異なるが」とことわりながら次のように話す。

ブランドを続けるためには、売れて儲かることが必要になります。休止の発表の際に“アップデート” (紗栄子)、“新たなビジョン”(伊藤)と言っていますが、3年くらいで休止するということは、端的に言えば売れてなくて儲かっていなかったはずです

 有名人ブランドは、2000年代から増えてきた。

'00年代の“読者モデル”ブランド、“カリスマ店員”ブランドの場合、大手・中堅アパレル企業やセレクトショップがバックアップしていました。'10年ごろに生まれたブランドも同様。梨花さんの『MAISON DE REEFUR』は『JUN』が、若槻さんの『WC』は『ウィゴー』 が、辺見えみりさんの『プラージュ』は『ベイクルーズ』がバックアップしていました。

若槻千夏

 これらのアパレル企業、セレクトショップなどはシーズンごとの商品展開計画を立てて、年間で100型以上(1シーズンあたり数十型)の商品でトータルコーディネイト提案を行います。ジャケットを3型、シャツを3型、ズボンは5型、セーターを2型……という具合に。アパレル企業のバックアップを受けたブランドは本人のアイデアやデザインもさることながら、企業によるトータルコーディネイトのノウハウも注がれ、1シーズン数十型の商品が企画生産され、建前上、自社商品内でコーディネイトが完結できるということになっています」(南氏、以下同)

インフルエンサーは商品企画について“素人”だから…

 しかし、近年の有名人ブランドは少々事情が変わった。

'10年代後半から、タレントやインフルエンサーがアパレル企業を挟まず直接OEM業者、ODM業者と組んでオリジナル商品を作るという形態になりました

 これにより、以前のようなアパレル企業のバックアップを受けた有名人ブランドに比べてさらに短命となることが増えた。なぜか。OEMとは製造委託。委託するブランド側が商品企画を行い、OEM業者は委託側ブランド名義の商品の生産を行う。ODMは商品企画から請け負う業種だ。

「恐らくはアパレル企業を外すことで利益増加を狙ったのだと思います。しかし、インフルエンサーというのはアパレルの商品企画について基本的に“素人”ですから、単品アイテムくらいしか思いつかない。たとえば今回はジーンズだけとか、今回はTシャツだけとか。そうなると購買層もあまり買わないですし、販売できる枚数も限られています。そのうちにインフルエンサー側もアイデアが枯渇します。そのため売れない。そしてアイデアも無くなってきたから、“やめよう”というのがちょうど2年から3年くらいの時期になります。

  紗栄子さんのブランドは初シーズンにたった7型しか用意できていません。レディースであれば、1シーズンに最低30型は必要だと考えます」

  型数が作れないと、たとえば実店舗のあるブランドであれば、商品数が少なく店が寂しくなる。そのときにバックアップする企業がするのは……。

「どこもやっているという話ではないですが、有名人のアイデアによる商品だけでは型数が少ない場合、そのアイデアから派生したような商品などを加えることはあるかと思います。アパレル企業はそういった作業を何十年もやってきているので、そのノウハウがあります」

 アパレル企業などの“専門家”のバックアップで重要なのが『マーチャンダイジング』。アパレル企業ではこの業務を『MD』と呼び、マーチャンダイザーは非常に重要な立場となる。

マーチャンダイザーという職種はかなり権限が大きく、場合によっては経営者以上に重要な仕事で、現代のアパレルビジネスにとっては心臓部とも言えます。直訳すると、マーチャンダイジング=商品計画。どんな商品をいつ・どこで・どれだけ・何円で売るかを決める仕事です。この計画が杜撰であると、大量の売れ残りが発生したり、投げ売り価格の値引きが発生してしまい、企業は赤字になります。

  どんな商品を、というところも重要。ここには商品作りやセレクトのセンス・感覚が問われます。こんな商品を作る、または仕入れるという商品面のプランニングに加えて、販路・価格・量・販売期間を定めるという経営的プランニングの両方を一手に引き受けるのがマーチャンダイザーです」

 アパレル企業を挟まず、この業務を半ば“ないがしろ”にした結果、有名人ブランドは短命に終わるのではないかと南氏。

短命に終わらない有名人ブランドは

 一方で“売れていたのに”終わってしまった、有名人ブランドもあるという。

ある女性タレントさんのブランドは、数年で終わってしまいましたが、それはタレントさん本人と企業側がやりたいことがズレてしまったことで契約が終了となりました。どんな仕事でもそうだと思いますが、何年もチームで仕事をしていると方向性にズレが生じることはあります。また、本当に“ひと段落ついたから”と、休止する有名人ブランドもあります

“例外”な、短命に終わらない有名人ブランドはないのだろうか。

「長続きしているのは、渡辺直美さんの『PUNYUS』(プニュズ)でしょうか。『ウィゴー』と取り組んでいます。あとは辺見えみりさんが数年前まで関わってきた『ベイクルーズ』とやっていた『Plage』(プラージュ)。辺見さんが退任した今でもブランドは残っているという稀有な例ですね。この20年ほど、有名人が離れた時点でブランドは解散ということがほとんどだったので」

渡辺直美。フォロワー国内1位のインスタグラム女王。ぽっちゃり女子向けブランド『PUNYUS(プニュズ)』をプロデュースするなど、今や日本を代表するファッションアイコンに!

“例外”になる理由は――。

結局のところタレントさん本人のブランドに対する熱心さや真面目さによるんだと思います。きちんとアパレルのことを勉強してブランドに取り組んでいるタレントさんもいると聞きます。長く続いているということは、売れている、儲かっているということです。いつまでも“素人”のまま服を提案し続けても、お客さんはずっとは買ってくれない。タレントさん本人も勉強したり、続けていくなかでノウハウを蓄積していくことが重要でしょう

 アパレル素人は“私はこれが良いと思う!”で商品を作る。

「“私はこれがかわいいと思う!”だけでは最初の1〜2年しか保ちません。それ以降になれば、プラス“じゃあこういう商品もあったらいいんじゃないか”とか、“売るためにどういうアレンジが必要なのか”といったビジネス面も覚えていくことが、タレント自身にも必要でしょう」

 タレントにしろインフルエンサーにしろ、“有名人”ゆえフォロワーは多いが……。

有名人ブランドの運営はSNSなどのフォロワーに期待を寄せすぎていると思います。たとえば紗栄子さんのインスタグラムのフォロワーは160万人近い。フォロワー数の多さに期待を寄せて、タレントと組むことを決断するアパレル企業が多いのでしょうが、フォロワー数の多さは決して物がたくさん売れるという保証にはなりません。もちろんフォロワー数は少ないよりも多いほうが売れる可能性は高いでしょう。しかし、タレントやインフルエンサーのファンは、その人の容姿や演技、歌、パフォーマンスなどのファンなのであって、その人が作る洋服を求めているとは限らない。

 タレントのファンクラブ会員でも、物販でお金を落としてくれる比率は会員全体の1~5%程度と言われています。本人の知名度の高さに反して年間売上高が非常に少ないというブランドもよく耳にします。知名度だけでは売れにくいのです

 今後も有名人ブランドは有象無象生まれるだろう。そのうち5年保つのは果たして――。

 
2020年10月、息子と散歩する佐々木希

 

 

2020年10月、息子と散歩する佐々木希

 

 

2010年時の佐々木希

 

 

2019年に都内の神社で行われたお祭りにお忍びで参加した渡部建と佐々木希は、社に向かって遠巻きに手を合わせていた