専門医が「受けたくない」がん検診(※画像はイメージです)

「私はすべてのがん検診を受けていませんし、家族も受けていません」

 と語ったのは、がん検診や治療の問題に取り組む医師、近藤誠先生だ。

近藤誠医師、近藤誠がん研究所所長(撮影/齋藤周造)

「近年、がん検診も健診も有害無益、欧米ではがん検診を否定する潮流が生まれています」(近藤先生、以下同)

 日本では早期発見、早期治療が推奨され、がん検診を受けることを正しいと信じている人がほとんどだ。

「みなさんは何のためにがん検診を受けるのですか? がんで死なないためですよね。実は、がん検診の受診率が上がっても、がんによる死亡数は減っていません。むしろがん検診を受けたほうが死亡率が高い、というデータが日本だけでなく世界中であがっています

 検診を受けたために、死亡することがあるというのだ。

「有名人の中にもいます。歌舞伎役者の中村勘三郎、坂東三津五郎、作家の渡辺淳一、棋士の米長邦雄、大相撲の千代の富士(先代九重親方)、女優の川島なお美さんらは人間ドックでがんが発見されたために命を縮めました。人間ドックを受けていなかったら、このうちの何人かは今も活躍していたかもしれません」

スイスでは乳がんマンモグラフィ検診が廃止

乳がんの発見数と死亡数

 スイスでは2014年に乳がんマンモグラフィ検診が廃止と決まった。しかし、その情報は日本で広まっていない。

「乳がんだけではありません。前立腺がん検診は、そもそも欧米諸国ではほとんど実施されていません。前立腺がん検診はPSA検査という腫瘍マーカー検査が行われ、米国では盛んな時期もありましたが、2012年、政府機関が前立腺がん検診への“反対”を推奨、カナダでも2014年に反対を推奨している。つまり“検診を受けるな”ということです」

 なぜ検診に反対するのか? その理由は死亡率にある。

「乳がんも前立腺がんも検診で死亡率が減るどころか上昇していることがわかったのです。乳がんは、乳房を切除したり再建手術を行ったり、患者さんの苦痛は大きい。前立腺がんの手術も、結構な割合で排尿障害や勃起障害が発生します。男性機能を喪失する大きなリスクを伴い、さらに死亡率も高まる。この現実は欧米では認知されています」

検診受診率が上がると急増するがん患者

 子宮頸がんや前立腺がんが増えているというニュースを耳にすることが多い。しかし、そこにもカラクリがある。

「検診率が増えたら、がんと診断される人は増える。実際に子宮頸がんは、検診が国策となった'80年代から急増しています。発見数の倍率でいうと、1975年と2012年を比較すると20代前半が27倍、20代後半はなんと37倍です。さらに、死亡数は検診がスタートした時期から急上昇し、およそ3倍に上昇しました。

 実は、子宮頸がんによる死亡数は戦後から減少傾向にあり約3分の1ほどに減少していました。ところが、検診が国策になったときから再び上昇し、およそ3倍に膨れ上がり、現在は戦後と同じ状況になってしまったのです」

 早期に見つかれば、早期に治療できるので死亡数が減るのではないか、と考えるがそこにあったのは……。

「治療死です。手術と抗がん剤による死亡です」

 病気の治療のはずが、死に至るとは?

治療しなくてもいい「がんもどき」で治療死

「がんは放っておくと転移が生じて人の命を奪うと考えられていました。しかし、検診をしても死亡数が減らないことから、がんにはタチのいいものと悪いものがあり、それぞれ運命が決まっていると考えられます」

 ここでの転移は臓器の転移であり、リンパへの転移は含めない。その理由は、

「リンパ転移は放置しても死なないし、リンパ節は臓器に転移するのを防ぐ関所になっているという考え方もあります。

 がんでタチの悪いものを“本物のがん”とするならば、タチのいいものは“がんもどき”といっていいでしょう。どちらも検診ではひとくくりにがんと診断されますが、その性質は異なります」

 事故死や不審死をした人を解剖すると、がんが見つかることがある。これは“がんもどき”が潜在がんとして共存していたからだという。

「PSA検査がなかった1975年は、前立腺がんによる死亡は全男性死因のわずか0・3%でした。潜在がんは放っておいても転移しないし人を殺さない、ニセモノのがんなのです」

 しかし、がんもどきを検診で見つけ出し、治療を行うことで死亡することがあるという。

「抗がん剤は薬ではなく“毒”。検診で見つかったがんもどきにも、抗がん剤が使われますが、その副作用はひどいものです」

 抗がん剤治療を受けると、元気な人でも心臓、肺、骨髄、腎臓などの機能が低下して、急死する例も多い。先ほどあげた多くの芸能人も抗がん剤で急死している。

「がん治療中に多臓器不全で急死するのは、抗がん剤による毒性死です。一方、がんの転移によって亡くなる人は、穏やかな過程をたどり、自然に枯れて老衰のように亡くなります」

 また、がんの手術による死亡もあるという。

「中村勘三郎さんは人間ドックで小さな食道がんが見つかり、食道を全摘し胃袋を胸まで引っぱり上げる手術を行った。そのため小腸の消化液が喉まで逆流、誤嚥し呼吸不全のため亡くなりました。あきらかに治療死です。食道がんに限らず、胸やお腹の手術では感染症や出血による合併症でたくさんの患者さんが亡くなっています」

手術によって目覚める休眠がん

がんになっても終わらない、無限ループ

 検診で見つけたがんをむやみに手術して、本物にして“本物のがん”が暴れ出すことも多い。

「手術をすることで暴れ出すがんを休眠がんと呼んでいます。再発や転移の兆候のないがん患者でも、術後血液中にがん細胞がただよっているケースは少なくありません。ということは、どこかにがん細胞を血液中に送り出している病巣があるはずですが、臓器転移が出現してきません。これらは休眠がんで、検査で発見できる大きさには増大していないものなのです」

 休眠がんが手術によって暴れ出すのは、新型コロナの重症化で話題となったサイトカインが起因しているという。サイトカインとは免疫システムの物質の1つで、免疫細胞の活性化、動員、分裂などに働く。

「がん細胞はサイトカインに反応し、活発に分裂を始めます。手術は大きなケガと同じ。大量のサイトカインが分泌されます。このことは外科医たちは知っていますが、完全に黙っているのです」

 転移がんでも、放置しておくだけで消えるがんもあるという。

「再発を早期に見つけるため、がん検診はエンドレスに続きます。臓器転移が自然に消えていく現象も見られるのに、また同じことを繰り返します」

 つまり、検診でがんもどきを見つけられて無用の治療に追いこまれ、本物のがんは手術で休眠がんが暴れ出し、再び検診で見つかり、手術や抗がん剤で治療死につながる地獄のループとなるのだ。

見逃せない検診の放射線被ばく

【要注意】放射線に弱い臓器はこの5つ!

 がんが見つからなくても、さらに検診にはデメリットがある。それは、

「検診による放射線被ばくです。日本は世界一の医療被ばく大国です」

 検査による放射線量は発がんの心配はない、とよく耳にするが、それは間違い?

「間違いです。CTは1部位10ミリシーベルト被ばくすると考えられます。胸部、腹部、骨盤と3か所行えば30ミリシーベルトで、福島原発事故の居住制限となった年間20ミリシーベルトの積算線量を超えてしまいます。しかも検査機器によって被ばく量が異なるため、装置や施設によってはこの数倍被ばくする可能性もあります」

 地方自治体や企業の集団健診に入っている胸部エックス線や胃のバリウム検査は?

「バリウム検査も被ばく線量が高い検査です。線量を測定した研究では3ミリシーベルトでしたが、検診車が異なれば被ばく量も異なり、別の調査では10倍もの差がありました。つまり、1回で最大30ミリシーベルト、被ばくする可能性があるということです」

ときには1度で30ミリシーベルトもの被ばくの可能性も

 さらに、バリウムそのもので死亡することもあるという。

「バリウムが固まって腸閉塞が生じ、腸管が破裂し死亡することもあります」

 放射線にとくに弱い臓器を知っておくことも大事。

「胃袋は放射線によってがんになりやすい臓器です。しかも、検診では胃袋全体が照射されるので発がんリスクは極めて高くなります。ほかにも放射線で発がんしやすい臓器は、骨髄、乳房、肺、大腸です」

 肺は胸部エックス線検査、乳房はマンモグラフィ、最近は人間ドックに大腸CT検査が登場し、放射線に弱い臓器であるにもかかわらず、検診によって放射線にさらされる機会が多いということだ。

検診は医師や技師の失業対策

 では、なぜデメリットの多い検診が続けられているのか? その理由は日本の医療システムにあった。

近藤誠医師、近藤誠がん研究所所長(撮影/齋藤周造)

「検診や人間ドックは無効であるというデータがありながら、医師はインチキ発言を繰り返しています」

 その理由は、なんと医師の失業対策だというのだ。

「日本の人口は減少の一途である一方、医師の数は右肩上がりに増えています。さらに最近医学部が増設され、医師の数の増加は加速する一方です。そこで健康診断やがん検診のシステムを増大させることが大事な戦略となる。もっとも実入りがいいのは、がん検診でしょう。がんはいわば老化現象の1つ。それに病名をつけて病人にすれば、自動的に医療費が増えるのです」

 検査自体の手間はわずかでも、所見を見つければ、CT、内視鏡、組織検査など高額請求が可能になる。

「がんと診断すれば手術、抗がん剤、放射線治療、入院、投薬、リハビリと医療収入はアップします。さらに、治療後、定期的な検査を行い、安定収入につながります」

健康なときに医師には近づかない

 健診やがん検診が正義であるかのように感じていた一般人は、どうしたらいいのか?

安全に長生きするためには健康なときに検査を受けないこと、医師に近づかないことにつきます。健康というのは、元気で体調がよく、ごはんがおいしくて、日常生活の動作に不自由がないときです。老化現象による腰の痛みなど多少の症状があっても、元気に生活ができていれば“健康”。日常生活に支障が出るほどの重い症状が出てから、検査や治療の必要性が出てきます」

 自営業や専業主婦は健診を受けなくてもすむが、やっかいなのは職場健診だ。

「全面的に健診を拒否することでいちばん安全に長生きができます。しかし、健診を受けさせようとする人事部との抗戦が待ち受けているかもしれません。その時は、健診は受けるけれども、検査数を減らす方法があります。身長と体重だけ測定するというのでは気が引けるなら、血液検査だけと申し出てみてはいかがですか? たとえ結果が異常値であっても理屈がわかっていれば無視することができます」

 医師や検診から離れたら、われわれはどのように生活したらいいのか?

「健やかに長生きするには平凡ですが、食を見直し、いきいきと生活を送ることです。バランスのよい食事をとって、よく頭を使い身体を動かしましょう」

教えてくれたのは…近藤誠先生
医師。近藤誠がん研究所所長。1948年生まれ。慶應義塾大学医学部卒業後、同医学部放射線科に入局、その後、同医学部講師となる。乳房温存療法のパイオニアであり、1996年に出版した『患者よ、がんと闘うな』(文藝春秋)がベストセラーとなり、ライフワークとして抗がん剤やがんの標準治療の問題告発に精力的に取り組む。

<取材・文/週刊女性取材班>