羽生結弦

 7月18日、報道関係者に届いたのは、羽生結弦のマネジメント会社『Team Sirius』からの記者会見の案内だった。

「そこには“弊社がマネジメントしている羽生結弦(ANA所属)による決意表明の場として下記のとおり記者会見を開催いたします”とありました。具体的に何を話すかは明かされておらず、現役を続けて4回転半に挑み続ける決意なのか、引退して新たなフィールドに行く決意なのか、さまざまな臆測を呼びました」(スポーツ紙記者、以下同)

 記者会見当日の19日朝、『日刊スポーツ』が報じたのが“羽生結弦引退”だ。

現役を引退して、プロに転向する意思を固めたという内容でした。記事によると、羽生選手には自身が座長を務めるアイスショーを創設する夢もあると書かれていました

 そして、17時から都内のホテルで羽生の“決意表明”の会見が行われた。

「会見が始まる数時間前から、190席が用意された会場には多くの報道陣が詰めかけていました。“羽生結弦引退”の報道を受けて、いったい羽生選手は何を語るのかという緊張感が漂っていましたね」

プロ転向を伝えたのは“数日前”

 語られたのは、次のような内容だった。

「まだまだ未熟な自分ですけれども、プロのアスリートとして、スケートを続けていくことを決意いたしました。(中略)これからはプロのアスリートとして、そして、スポーツであるフィギュアスケートを大切にしながら、加えて、羽生結弦の理想を追い求めながら、頑張っていきます。どうか、これからも戦い抜く姿を、応援してください」

 羽生は、フィギュアスケートの新シーズンが始まる7月1日に更新された日本スケート連盟(以下、スケ連)の公式サイトに、特別強化選手として“今シーズンもより高みを目指して頑張ります”というコメントとともに掲載されていた。これを“現役続行”と受け取るファンも多かったが……。

この時点で、一部の関係者は羽生選手のプロ転向の決断を耳にしていたそうです。しかし、スケ連に伝えたのは会見数日前。スケ連の関係者数名と、羽生選手のご家族、羽生選手のマネージャーなどが参加する話し合いの場が設けられたそうです」(フィギュアスケート関係者、以下同)

 あまりに直前となった報告に、不穏な空気が漂っている。

「スケ連は羽生選手の競技生活を多方面からサポートしてきましたし、今シーズンの試合の出場の調整などもありますから、プロ転向を考え始めた段階で相談してもおかしくないはず。それなのに会見直前まで伝えなかったのは、やはりスケ連との間に何か因縁を感じますよね……」

スケ連と羽生の仲が悪くなる要素がない

 羽生のファンが続ける。

「羽生選手は今回の会見で、“心が空っぽになってしまう前に自分自身を大切にしないといけない”と口にしました。'19年に選手への誹謗中傷が問題になった際、スケ連は“必要な措置をとる”とコメントしていたのにこんなことを言わせてしまったのは、スケ連が羽生選手を守ってこなかったからではないでしょうか。羽生選手がスケ連を信頼できなくなるのもうなずけます」

 フィギュア事情に詳しいスポーツライターの梅田香子さんに羽生とスケ連の関係について聞くと、

「関係が悪いなんてことはまったくないですよ(笑)」

 と、実情を明かしてくれた。

「'94年から'06年まで、スケ連のフィギュア強化部長を務めた城田憲子さんが、現在は羽生選手のスタッフをしていて、スケ連との交渉ごとは城田さんが行っています。現在の強化部長である竹内洋輔さんは、'02年ソルトレークシティー五輪に出場しており、このときの監督が城田さんだったこともあり、彼女から見れば子どものような存在。それもあって、スケ連と羽生選手の仲が悪くなる要素がないのです」(梅田さん、以下同)

北京五輪のエキシビションでカメラに手を振る羽生結弦

 また、トラブルの種は時代とともに減っている。

荒川静香さんや村主章枝さんが活躍していたころは、“振り付けのために費用をください”などと、選手の両親やコーチが直接スケ連に強化費用の交渉をしていました。しかし、家庭の懐事情を担当者が主観で判断していたので、裕福な家庭には費用が出づらいなどの不公平感がありました。今では、スポンサーの有無なども考慮して選手間で公平に割り振られていますから、金銭面での関係悪化はありません

 とはいえ、プロ転向によって羽生は広告契約の収入の10%をスケ連に収める必要がなくなり、スケ連は大幅な収入減となるので、痛手を負うことになりそうなもの。

もちろん、羽生選手のプロ転向で収益が減る可能性はあります。しかし、羽生選手は多くの功績を残しており、スケ連側もそれを称える気持ちがありますから、“引退しないで”なんて言えません。いちいちプロ転向の許可を取る必要もありませんし、報告さえすればよかったのです

 つまり、羽生とスケ連は良好な関係を築いていたのだ。実際、会見の翌日に羽生はスケ連を訪問して感謝を伝えている。

『FaOI』静岡公演では、羽生結弦らは和風の高級ホテルに宿泊(ジェイソン・ブラウンのSNSより)

アイスショーの需要は日本以外の世界にも

 今後について羽生は、4回転半への挑戦を続ける意欲を見せ、会見でこう語った。

「スケートを見たことない方々も含めて、“これだったら見たいかもな”と思うようなショーであったり、応援してくださる方々が納得できるような場所だったり演技だったり、そういったものを続けていきたいなと思っている」

 梅田さんも、その活躍に期待を寄せる。

今後は世界中でひっぱりだこだと思います。アイスショーの需要は日本以外に、アメリカやヨーロッパ、カリブ海諸国などに広くありますから

 新たなフィールドでも、“羽生結弦のスケート”を堪能できそうだ

 では、プライベートは?

学生時代に交際していたのは、派手な顔立ちではないけれど目鼻立ちの整ったかわいらしい子。現在はスケートから離れていますが当時は選手で、少し気の強いところもありましたね。羽生選手はお母さんだけには内緒にしていたようですが、周囲は公認のお付き合いでした。

 ずっとスケートのことを考えていたいタイプなので、スケート好きで技術的なこともわかる人じゃないと、交際には至らないでしょう。とはいえ、相手をとっかえひっかえするタイプでもないですし、あっさり結婚なんてこともあるかもしれません」(梅田さん)

梅田香子 '09年から在米。著作に今川友子との共著『フィギュアスケートの魔力』(文春新書)など多数。長女は米国認定フィギュアスケート・インストラクターとして活動中