※写真はイメージです

 子どもたちにとっては待望の夏休み。だが「やる気が出ない」「ダラダラと過ごしてしまう」という子どもに悩む親は多いだろう。夏休みの終盤に、後回しにしていた宿題を一気にやっている……。そんな状況を避けるには、呼びかけるいつもの言葉に注意。ちょっと言い方を換えれば、魔法のように行動が変わるはず!

 夏休み真っただ中は、言うことを聞かない子どもへのイライラが募りやすい時期。

「子どもは親の言葉に大きく影響を受けます。ですから感情的に叱りたくなる場面であってもグッとこらえて、言い方を工夫するのがおすすめ。少し呼びかけを変えるだけで、子どものやる気を促すことができます」

 そう話すのは、AERA dot.での教育コラムが100万PVを連発している東大卒のママで作家の杉山奈津子さん。夏休みにありがちな7つの場面での具体的な言い換え方を教えてもらった。

「宿題は毎日、少しずつやりなさい」→「3問終えたら、シールを貼っていこう」

 大量にある夏休みの宿題。夏休み終盤にあわててやるのではなく、計画的に取り組んでもらうには?

「親が『やりなさい』と言うと、子どもはかえってやる気を失いがち。これは人間には自分の行動は自分で決めたいという『心理的リアクタンス』という本能が備わっているからです」(杉山さん、以下同)

 そこでおすすめなのが、宿題を小分けにして、少しずつ終えるたびにシールを貼る方法。これで宿題にゲーム性を持たせることができる。

「パソコンでも簡単にシール作成ができます。よりやる気を引き出すために、子どもの好きなキャラクターをシールにするといいでしょう」

 シールを貼る宿題進行表をリビングに置くことで、宿題の進み具合も一目瞭然に。

「シールを貼るたびに子どもは達成感が得られます。親はその都度褒めて、子どもの自己肯定感を育みましょう」

「最初のやる気はどこいったの?」→「これが終わったら、プールに行こう」

 夏休みが始まった当初は張り切って勉強していたのに、しばらくすると宿題などほったらかしでダラダラ。これも夏休みあるあるパターン。

「やる気が続かないことを嫌みのように指摘しても、子どもはイラッとするだけ。それよりは『3ページも終わらせたんだね』と、できている部分に着目して褒めたほうが、子どもの向上心は刺激されます」

 そのうえで、やりたくないことへのモチベーションを高める奥の手を活用。

「行動後に報酬があることによって、やる気が高まることを『エンハンシング効果』といいます。例えば、気分がのらない仕事を何とかこなせるのは、給料という報酬があるから。これを活用して、ドリルを1ページ終えたらプールに行くなど、勉強後の楽しみを提示するといいでしょう」

 ダラダラ具合が目に余るときは、その状態を客観視させる言葉がけも有効。

「『今、あなたの中のナマケモノが出てるね』とユーモラスに指摘することで、子ども自身が自分は今サボっている、と気づきます。このように自分の状態を客観的に把握する感覚を身につけることで、自分の行動を制御する能力は育まれていきます」

好ましくない行動をしている状態に名前をつけることで、自分を客観視する力が身につき、自らの行動をコントロールしやすくなる

「これをやりなさい」→「何をやればいいか考えてみよう」

 夏休みの宿題の定番である自由研究。テーマを思いつかず悩む子どもを見ていると、「これにすれば」とついつい口を出したくなるが……。

「子どもが困っているから、と親が一から十までやり方を教えると、自分で意思決定ができず、主体性のない人間になるおそれが。『教えてあげる愛情』はその時点ではよくても、子どもの将来まで見据えると、弊害が多いといえます」

 自主性を育むため、親はヒントを与える役割に徹したい。

「『何にしようか』という言葉をかけて、一緒に考えることで親子の距離が縮まります。子どもが何も思いつかない場合は、『これはどう?』と複数の案を提示。子どもの興味を優先してテーマを選択させると、主体性が育ち、自己肯定感も高まるでしょう」

『東大ママの「子どもを伸ばす言葉」事典』(講談社ビーシー/講談社)より

「もう寝なさい」→「早く寝たら、朝に〇〇ができるよ」

 夜ふかしして朝寝坊。その結果、寝る時間が後ろにずれ込み、生活リズムが崩れるのも夏休みにありがちな悩み。

「子どもにしてみれば、早く寝たところで自分に何のメリットもありません。ですからただ単に『寝なさい』と言っても、子どもに響かないのです」

 この場合、子どもにとっての早寝早起きのメリットを示すのが正解。

「うちの息子はプラモデルが大好き。そこで、『早く寝たら、学童のお迎えまでにプラモデルができるよ』と言葉がけしたら、自分から早く寝るようになりました」

「LINEやめて」→「15分後に終わらせてケーキ食べよう」

 延々と続けている友達とのLINE。うまくやめさせるにはどうしたらいい?

「LINEだけでなく、ゲームや漫画全般にいえることですが、『やめなさい』と突然、行為を中断するのはNG。『ザイガニック効果』という、脳が気持ち悪さを感じて、かえってそちらに注意が向く仕組みを発動させてしまいます」

 そこで有効なのが、終了後の楽しみを提示しつつ、時間を指定する方法。

「15分後に終了、と猶予をもたせることで、頭の切り替えができます。『親がケーキ食べようって言ってるから、もう終わりにするね』と友達に断りやすくなるのも利点です」

「早く支度して」→「お出かけメモをチェックしよう」

 夏休みの楽しみといえば、旅行やお出かけ。しかし、子どもがモタモタして、なかなか出発できないことがある。

「『支度して』という言葉は漠然としていて、具体的に何をしたらいいのかわかりません。そこで、持ち物と出発するまでにすべきことを明記したお出かけメモを事前に作っておくと便利。外出前にはそれをチェックするように促すと、子どもはスムーズに準備が進められます」

 子どもと一緒に、持ち物や準備を考えること自体が楽しい時間となるはず。

「お出かけ帳があると、準備が早くなるし、忘れ物も予防できます。夏のお出かけだけでなく、普段からぜひ活用してみてください」

「ここができてないね」→「どこができたの? 教えて」

 夏休み中に模試にチャレンジする子どももいる。結果が悪い場合、親はどんな言葉をかけたらいい?

「模試の結果が悪いと、親としてはショックですよね。しかし何より避けたいのは、子どもが落胆して自信とやる気を失ってしまうこと。そこで、親はできていない部分ではなく、できたところに着目して、『この漢字、難しいのにきれいに書けてるね』などと具体的に褒めるといいでしょう」

 子どもの自己肯定感を上げるためには、「ここがよくできてるけど、教えて」と説明してもらうのもいい方法。

「人に説明することには、『自分はできる』という自信を持たせる効果があります。それで子どもが前向きな気持ちになれた時点で初めて、できていないところに触れましょう」

 このときもただ単に指摘するのではなく、子どもを勇気づける言葉がけを。

「『こんなに難しい問題が解けているのに、ここがもったいないね』と子どもの能力を評価してから、『どうしたらできるようになると思う?』と苦手を克服する方法を一緒に考えるといいでしょう」

 親子で過ごす時間が長い夏休みだからこそ、呼びかけを変えるのは効果大。夏休みのイライラはこれで撃退しよう。

「字が上手」と漠然と褒めるより、どこがよいのか具体的に伝えることで、子どもは「親は自分をよく見て、評価してくれている」という気持ちに

お話を伺ったのは
杉山奈津子さん


東京大学薬学部卒業。1児の母。作家、イラストレーター、心理カウンセラーとして活動。『偏差値29の私が東大に合格した超独学勉強法』(角川SSC新書)など著書多数。

『東大ママの「子どもを伸ばす言葉」事典』(講談社ビーシー/講談社)※記事の中の写真をクリックするとAmazonの購入ページにジャンプします

『東大ママの「子どもを伸ばす言葉」事典』(講談社ビーシー/講談社)

取材・文/中西美紀