『純愛ディソナンス』で、ヒロイン(吉川愛)の母親・静を演じる富田靖子

 ここ数年、ドラマでは数多くの毒母が描かれてきた。毒父もいるが、毒母に苦しめられる娘の構図が断然多い。ざっくり分類するなら、主に3つのタイプがある。

(1)比較的裕福だが、管理と支配と過干渉で価値観を押し付けてくる「教育ママ」タイプ

(2)金銭的あるいは性的にだらしがなく、娘を稼ぎ頭として依存する「ヒモ母」タイプ

(3)自己中心的かつ育児・教育に無関心、闇が最も深い「虐待母」タイプ

強烈な印象を残した毒母たち

 作品で見ていくと、(1)の母が圧倒的に多い。品の良い常識的な母ほど、娘を精神的に苦しめているという絵が描けるからだろう。

『お母さん、娘をやめていいですか?』(2017年・NHK)の斉藤由貴、『明日の約束』(2017年・フジテレビ系)の手塚理美、『過保護のカホコ』(2017年・日本テレビ系)の黒木瞳、やや症状が軽めの『私の家政夫ナギサさん』(2020年・TBS系)の草刈民代あたりが毒母役として強烈な印象を残した。

 『ポイズンドーター・ホーリーマザー』(2019年・WOWOW)1・2話の寺島しのぶも(1)のタイプだが、毒母も裏を返せば聖母という表裏一体の構図を描く挑戦的な物語だった(3話の坂井真紀も罪深い母親としては鳥肌モノだよ!)。

(2)の母は、『いつかこの雨がやむ日まで』(2018年・フジテレビ系)の斉藤由貴、『闇金ウシジマくん Season3』(2016年・TBS系)の倖田李梨あたりの記憶が濃い。えげつない依存体質にワナワナしたっけ。そして、(3)は『ファーストラヴ』(2020年・NHK)の黒木瞳。娘を嫌悪すらしている、救いのない闇を抱えた母親で断トツにひどかった。

 いずれもパッキリ分類できるとは限らず、多少重なるところもあるが、視聴者をゾワゾワさせたりモヤモヤさせる存在であることは間違いない。

「やべえぞ」としか言いようのない毒母

 で、今回のお題は富田靖子。現在放送中の『純愛ディソナンス』(フジテレビ系)で、ヒロイン(吉川愛)の母親を演じているが、もう、靖子、やべえぞとしか言いようがなかった。

 主人公は中島裕翔。亡くなった兄の恋人で大学時代の先輩(筧美和子)が、勤めていた高校を辞めるにあたって後任に誘われる。そもそも中島は学校法人を経営する一家に生まれたものの、優秀な兄と比べられ、父から疎まれてきたため、基本的に人間不信なキャラクターだ。筧の後任として高校の音楽教師になる中島。筧になついていた生徒(吉川)と接するうちに、お互い親とうまくいっていない共通項から、次第に心を通わせることに。

 このドラマは、純愛とうたいながらもドロドロの恋愛怨恨サスペンス。殺人事件やブラック企業などの要素も盛り込みつつ、テンポのいい展開で話題を呼んでいる。

 物語はさておき、靖子が気になる。靖子演じる母は、夫に逃げられたシングルマザー。娘にべったりとまとわりつき、詮索して監視して干渉する。仮病を使って「お母さん死んじゃうかも……」とLINEを送り、学校を早退してかけつけた娘に「ケーキでも食べに行こうよー」とねだる。

 「いや、もう、相手にすんなや!」と思っちゃうほど面倒臭い。しかも、娘の話を一秒も聞かない。問い詰めるとキレて皿を床に叩き落したりして。はい、もうここでオンナアラート発動です。「そんな母なら捨てちゃいな!」だよ。

『純愛ディソナンス』公式ツイッターより。視聴者からは「こんな仲良い感じであの撮影をしてたとは」といったコメントも

 靖子は夜の仕事をしていたが、とにかく男にだらしがなく、しかも男を見る目がない。持論は「いい男を見つければ全部うまくいく」である。

 しかしだな、「女の人生は男の選択で決まる」と豪語する割に、クズばかり掴んでくるわけよ。

 娘が必死でためてきた貯金79万円を勝手におろして男に貢いだり、娘の誕生日を覚えていないどころか、入学式などの行事も男とデートするためにドタキャンやすっぽかしが当たり前。別に、母は恋愛をするな、というわけではない。クズ男に貢ぐ頭の悪さと良心の欠如が問題なのだ。

 それだけでは終わらない。指定校推薦で大学に行けるほど優秀な娘の進学希望に対しても難癖をつける。「大学に行くより大切なことがたくさんある。誰かのためにお料理したり、家をきれいにしたり、そういう小さな幸せを大切にすること」と娘の希望を潰し、「どんな時代でも女はひとりでは幸せになんてなれないの」と暴言を吐く。完全に間違った前近代的な人生観をぐいぐい押し付け、娘の自立を阻むのだ。

 さらには、中島と吉川の夜の密会に対して、クレーマーとして学校の職員室に乗り込む靖子。白い日傘をさして、ルンルンランランと鼻歌を歌いながら。もう絵ヅラとしても「やべえ」。

 靖子が時折見せる真顔と笑顔は、不協和音の舞台装置として十分。乗り込んでいって、娘が密かに書いていた小説をばらまき、中島を糾弾する。もういろいろと間違っていて、とっちらかったまま爆走する靖子。

 逆に、中島からは「こんなの母親のすることじゃない。あんたは母親を武器にしているだけだ」「娘を所有物とでも思ってるんだろう? 今あんたができることはひとつ。さっさと娘を解放してやれ!」と反撃される始末。結果、吉川に「毒母からの卒業と自立」の決意をさせるという展開になった。

 つまりは、(1)過干渉、自立を阻む支配 (2)金にも男にもだらしない体質 (3)娘の教育の機会を奪うという、すべての毒母要素をコンプリートしているのが靖子であり、ハイブリッドな毒母なのだ(盛り込みすぎて、もはや滑稽の域に達しているとも言える)。

 ここまでが2話。そして第3話ではいきなり5年もの時が流れている。吉川は無事に毒母のもとを逃げ出して、シェアハウスに住んでいるようだ。あれ? 靖子、もう終わり!? 

 そんなはずがない。おそらく今後、再び靖子が来りてホラを吹き、嵐を呼び、搾取や略奪をしていくであろうと予測できる。愛とか絆とか恩で、いとも簡単に毒母の毒を抜けるはずもない。真の意味で、毒母からの卒業を描いてくれるだろうと信じている。

吉田 潮(よしだ・うしお)
 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。『週刊フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『くさらないイケメン図鑑』(河出書房新社)、『産まないことは「逃げ」ですか?』『親の介護をしないとダメですか?』(KKベストセラーズ)などがある。