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 夏本番を迎え、過酷な暑さに見舞われている日本列島。最高気温が40℃を超える予想の地域も珍しくない。

異常気象がもたらす猛暑や豪雨

 気象情報会社『ウェザーマップ』所属の気象予報士・三ヶ尻知子さんが解説する。

「赤道付近の海面水温が平年より低くなる『ラニーニャ現象』によって、太平洋高気圧とチベット高気圧が強まり、日本付近で重なった状態になっています。そのため熱い空気が地上付近にどんどんたまり、気温が高くなっているのです。また、偏西風が通常の位置より北に蛇行して、暖かい空気を北へ押し上げている影響もあります」

 こうした条件が重なり、6月下旬には観測史上最速の梅雨明けをもたらした。

「記録的に早い梅雨明けとなった理由は、6月なのに真夏の気圧配置になったから。このため猛暑にさらされる期間が長期化しました。今後も8月中は35℃前後の暑さが続きそうです」(三ヶ尻さん、以下同)

 猛暑日が増えると、大気中の水蒸気の量が多くなる。水蒸気は雨雲をつくり出す。

「水蒸気の量が増えると、大雨が起きやすくなります。それも広い範囲というより、ゲリラ雷雨のように局地的に強い雨を降らせるのです」

 8月4日には「いつ終わるのか明確に答えられない」(気象庁)ほどの大雨に見舞われ、山形、新潟の両県に特別警報が出されたばかり。

「こうした大雨や豪雨に伴う災害のリスクが今後、高まっていく可能性があります」

 酷暑も災害と捉えるべき、と指摘するのは、医学博士・医学ジャーナリストの植田美津恵さんだ。

「これほどの猛烈な暑さが長期にわたり続くことは、かつて日本では誰も経験したことがありません。災害級の事態であると自覚し、命を守る行動を心がけるべきです」

 通常ならば、人間の身体は汗をかいたり皮膚の血管を拡張させたりして、少しずつ暑さに慣れていくもの。

「ところが今年は梅雨明けが早かったせいで、暑さに慣れる猶予期間がありませんでした。そのため、よりダメージを受けやすくなっています」(植田さん、以下同)

熱中症は命の危険も、コロナ禍で医療ひっ迫

 この時期、灼熱列島で特に気をつけたいのが熱中症だ。

「たかが熱中症と思うかもしれませんが、ここ数年、年間1000人以上もの人が命を落としています。なかには脳の神経中枢障害といった後遺症に悩まされる人も。特にダメージを受けやすいのは高齢者や子どもです。

 高齢になると、皮膚の温度を感じるセンサーが衰え暑さを感じにくいうえ、体温調節機能が低下し体内に熱がたまりやすくなります。子どもの場合、汗をかく機能が未発達で、熱が体内にこもりやすいのです」

 熱中症で救急搬送された人の数は、今年6月だけで全国で1万5969人。前年同月に比べて1万1024人も増えている。

「問題は、新型コロナ第7波で医療体制が逼迫していて、救急車を呼んでもすぐに来てくれないおそれがあること。そもそも日本の医療は地域格差が大きい。病院や医師の数自体、西日本のほうが多く東日本は少ない“西高東低”。都市部だから安心、というわけではないのです」

 高温多湿の環境下では、体内の水分や塩分が失われ、脱水状態を起こしやすくなる。それを放っていると、身体から熱を逃がす機能が弱まり、体温が下げられなくなって熱中症に移行していく。

「脱水症状が引き起こす恐ろしい病気は、ほかにもあります。例えば脳梗塞。めまいやしびれ、吐き気など、症状が熱中症とよく似ていて、判別しにくいので厄介です。脱水症状を起こしやすい夏場は注意しなければなりません」

 2018年に亡くなった西城秀樹さん(享年63)は、2度の脳梗塞に襲われ、入退院を繰り返したことで知られている。西城さんはサウナ愛好家で、水を飲まずにサウナに入ることが常だったと生前、ラジオ番組で明かしていた。

2018年に亡くなった西城秀樹さん

「体内の水分不足は脳梗塞のリスクを高めます。脱水症状を起こすと血流が悪くなり、いわゆる“血液ドロドロ”の状態に。

 そうして血管が詰まると脳梗塞を起こしやすくなるのです。これを防ぐにはこまめな水分補給が重要。就寝中も汗で水分は失われていくので、枕元にペットボトルの水を置き、起きたら少量ずつ飲むよう心がけましょう」

 猛暑で上がっていくのは気温だけではない。春先から続く物価高も天井知らずの勢いだ。生活経済ジャーナリストのあんびるえつこさんによると、「天候不良の影響で玉ねぎは高値が続いていますし、大根も高騰。生鮮食品は魚介類も高値の傾向。昨年は記録的不漁だった秋の味覚・サンマは、今年も低水準の漁獲量になると予想されています」

猛暑でエネルギーと生鮮食品にもダメージ

 問題は、6月末以降の猛暑の影響が表れ始めるのは、これからだということ。

「野菜が市場に出回るのは、作付けから数か月後。育てる期間が猛暑の時季と重なった場合、高温でダメージを受け生育不良になり、価格が高騰するリスクをはらんでいます。そのうえ、豪雨や台風が増えていくタイミング。悪天候の影響も受けやすくなるなど、秋以降、物価を押し上げる懸念要素が多くあります」(あんびるさん、以下同)

記録的不漁で高値が続くサンマ。7月中旬、初競りにかけられた際は1匹1万円だった

 通常の暑さであれば、ビールがよく売れたり、エアコン需要が高まったりして個人消費を増やし、経済にプラスになると言われているが、

「こう暑すぎるとマイナスに。コロナ第7波も重なったことで外出を控えるようになり、ようやく持ち直してきた飲食店や旅行業界ではキャンセルが続出しています。エアコン需要は高まっていますが、半導体など材料の不足から供給が追いついていません」

 帝国データバンクによると今後、値上げを予定しているのは、8月だけで食品をはじめ2400品目。年内には2万品に上る見通しというから、おそろしい……。

「総務省が発表した消費者物価指数では、'22年6月は前年同月に比べて2.4%も物価が上昇していますが、このうち大半を占めているのが原油などのエネルギーと生鮮食品。つまり、生きることに直結するものばかりです」

 この物価高は、急速に進む円安と原油価格の高騰が原因だといわれている。

「円安はアメリカの金融政策の影響を受けたもので、食料や工業製品の原料を輸入に頼る日本では打撃が大きい。そこへさらに追い打ちをかけたのが、ロシアのウクライナ侵攻。原油や穀物の供給が滞る不安から、どちらも価格が高騰しました。そのため電気代も上がり、過去5年で最も高い水準になっています」

 6月の猛暑では電力不足が心配されたものの、「発電所が点検中で稼働できなかったのが原因。7月に入り順次再開しているので、すぐに電力逼迫になる状況ではありません」(前出・三ヶ尻さん)。

 ただ、経済産業省が示した7月~9月の電力需給見通しを見ると、決して余裕があるわけではない。電力の余力を示す「供給予備率」は3%が必要最低ラインとされているが、東北・東京・中部電力管内では、7月に3.7%、8月が5.7%と綱渡り状態。

「猛暑も物価高も、低所得者や年金生活の高齢者ほど打撃を受ける。早急な手当てが必要です」(あんびるさん)