安倍晋三元首相銃撃事件で逮捕された山上徹也容疑者(写真/共同通信)

 奈良市の近鉄大和西大寺駅前で街頭演説中の安倍晋三元首相(67)が銃撃され、死亡してから1か月がたった。逮捕された山上徹也容疑者の母親はメディアからの取材攻勢を避けるように自宅を離れ、親族宅に今も身を寄せている。

「山上容疑者は現在、鑑定留置中。刑事責任能力の有無などを判断するため11月29日まで続く。父親は幼いころに自殺しており、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)に多額の献金をしていた母親は、容疑者の妹とともに父親の兄にあたる伯父宅で生活している」(全国紙社会部記者)

 事件を起こすまで、容疑者は奈良市内の単身者向け賃貸マンションでひとり暮らしをしていた。母親の過剰献金による家庭崩壊の果て、実兄が約7年前に自殺して以降、家族と距離をとるようになったとされる。それでも母親がいた実家から遠くない場所で生活していたのは、関係を断ちがたい心情の表れともとれる。

 実家を訪ねると、インターホンに応答はなく、門扉は針金できつく縛られていた。物干し竿には洗濯物が干したまま。

 近所の女性は、

「もう、ずーっと留守ですよ。事件直後からマスコミが大挙して押し寄せ、周辺住民は辟易としているんです。インターホンを鳴らされないように電源を切ったお宅もある。しばらくパトカーの巡回が頻繁にあり、マスコミ対策もあったと思いますが、住民のあいだでは“安倍氏の信奉者が報復目的で実家を襲撃するのを警戒しているのではないか”と囁かれていました。巻き込まれたくないと、みんな怖がっていたんです」

 と、この1か月を振り返る。

 犯行動機は、母親が入信した旧統一教会への恨みだったとされる。相続した遺産・生命保険金などを原資とする総額1億円以上の献金で母親は自己破産に追い込まれ、一家は崩壊。容疑者は教団トップの襲撃も考えたが断念したという。代わりに「(旧統一教会と)つながりがあると思った」安倍氏を狙ったと供述している。

 事件後、安倍氏のほか主に自民党国会議員と同団体の関わりがクローズアップされ、献金の手法についても同団体に批判的な報道が相次いだ。脱会した元信者や被害者支援に取り組む弁護士らの証言などに基づき“旧統一教会バッシング”の勢いは増している。

 こうした状況を容疑者に近い人たちはどう見ているのか。

容疑者は賢い子やったから…

「容疑者の背景を知ってから気の毒に思えた部分はある。ただ、安倍氏は、命を奪わなければならないほど恨む相手だろうか。結果的に大きなダメージを教団に与えたわけで目的は果たしたのかもしれん。賢い子やったから、そこまで計算ずくだったとすればゾッとするけど」(実家近くの男性)

 母親は、事件後の報道などに接して今何を思うのか。同団体への信仰心に変化はあるのだろうか。

山上徹也容疑者の実家の門扉上部は針金で縛られていた

 様子を間近で見ている伯父に聞くと、

「母親は何も変わっていない。こんなことで信念が変わるような人と違います。一般的な見方をすれば、徹也(容疑者)は旧統一教会の被害者にはあたるかもしれません。しかし、母親自身は被害者とは思っていませんから」

 と話す。伯父からすれば、容疑者の母親は、亡くなった弟の妻で血縁関係にない。それでも事件後、あえて自宅に呼び寄せ保護するように同居している理由を尋ねると、

「呼び寄せたわけではないし、保護したつもりもない。検察が母親を事情聴取する機会を確保しただけです。まあ、広い意味で言えば保護にあたるのかもしれませんけど」

 と淡々と答えるのだった。

 首相経験者が銃撃され死亡したのは戦後初めて。大それた事件を起こした息子を心配したり、気にかけることはないのか。

息子を心配することなんかない

「心配することなんかありませんよ、そんなもん。息子を気にかけることもない。全く変わっていないと言うてますやん」(前出・伯父)

 信仰に生きる母親とそれを憎む息子との断絶は今なお続いているようだ。おそらく犯罪史に残るであろう事件を引き起こしても、親子の溝が埋まる気配はない。

 一方、現場の大和西大寺駅前を訪ねると、平静を取り戻したように見えた。

 長蛇の列をつくった献花台は7月19日に撤収され、今は周辺の随所に《お花やお供えなどは、故人へのお気持ちと共にお持ち帰りください》とはり紙があった。

 現場近くに勤務する男性によると、それにもかかわらず花を置いていく人が後を絶たないが、奈良市がこまめに回収しているため散らかることはないという。

「献花台がなくなってからも定期的に回収に行っています。朝、夕2回行く日もあり、行かない日はないくらいです。8月3日時点で回収した花は76束、ほかに手紙や缶コーヒー、ジュース、お酒など。花は施設で堆肥化しますが、飲み物は故人に捧げる意味合いか、飲み口が開けられていて処分するしかありません。道路管理上、散らかることのないようにしています」(同市の担当者)

 現場に手を合わせていた県内の女性は、

「安倍さんはさぞ無念だったでしょう。なにより昭恵夫人がかわいそう。首相を辞めて、これから夫婦の時間を楽しむつもりだったでしょうに」

 と夫人の心中を慮った。

 多くの国民がショックを受けた令和の大事件。全容解明にはまだ時間がかかりそうだが、山上容疑者に酌むべき家庭事情があったにせよ許される犯行ではない。

 母親が、取り返しのつかない過ちを犯した息子を見つめ直す日は来るのだろうか。

安倍元首相銃撃事件の現場。二発目の銃声が鳴る直前の女子高生の姿。その後、混乱に巻き込まれる(目撃者提供)
安倍元首相に発砲された瞬間、警護と思しき者は驚いて後ろを振り返り…(読者提供)

 

 

 

安倍元首相を銃撃し取り押さえられる山上容疑者(共同通信イメージズ)