建築家になりきる!?小学生に仕事を教える塾 撮影/渡邉智裕

 先生の説明に耳を傾け、机にかじりついてドリルや問題集をこつこつ解く……。おもしろくない、我慢の時間─。大人世代にとって「勉強」とはそんなイメージではないだろうか。

 だが、従来の勉強法とは一線を画する「勉強法」が今、話題を集めている。小学生が仕事を学んでいるというのだ。

 ファッションデザイナー、栄養士、貿易商、経営コンサルタント、投資家の仕事を学びながら、算数の力をつけるプログラム。料理家、コピーライター、研究者、ジャーナリスト、医師・看護師、経営者などになりきって「考え・創り・伝える力」を培うプログラムなど、多様な職種の授業が用意されているという。

夏休みの5日間特別授業『おしごと探究・建築家』

 訪れたのは、東京都文京区、東京大学のすぐそばにあるアウトプット型・探究学習塾エイスクール。夏休みの5日間特別授業、『おしごと探究・建築家』に密着した。

「世の中にはいろいろな建物があるよね。それをつくるのが建築家。今日はお昼まで建物について学んで、午後は建物の模型をチームでつくるよ。まずはクイズ!」

 教室で講師が授業を盛り上げている。参加していたのは、7~12歳の子どもたち。

 ちょっぴり緊張した様子の子どもたちも、「人が建物をつくるようになった理由は?「次の写真の有名建築物を高い順に並べてみよう」「三角、四角、五画、六角、丈夫な建物をつくるのに重要な図形は?」といったクイズを解きながら、自由に発言するように。

 柱と梁を用いて強い骨組みをつくる『ラーメン構造』や貝殻のような曲面を持つ『シェル構造』など、本格的な建築強度についても学んでいく。

知識だけでなく手も動かす!

手を動かすワークに挑戦する子供たち 撮影/渡邉智裕

 建築家の基礎を押さえたら、知識を活かして手を動かすワークにも挑戦!

「2チームに分かれて、紙でタワーをつくるよ。20枚のA4の紙を使って、高い建物をつくったほうが勝ち。紙は折っても切ってもいいけど、はさみやテープは使わない。高さは10秒キープできればOKです」

 作戦タイムが3分、建築タイムが7分。道具も使わずにどうやって?と取材陣が戸惑っているうちに、子どもたちは話し合い、どんどん手を動かす。

 Aチームは、三角形の丈夫なブロックを作って積み上げる作戦。Bチームは、紙を丸めた柱を何本か立て、その上に紙1枚の天井をのせ、さらに柱をのせていく作戦。結果は、素早く高さを作ったBチームの勝ち!

紙だけでタワーを建築するゲームに挑戦。柱を効果的に用いたBチームの勝ち! 撮影/渡邉智裕

 紙しか使わせない意図について、講師は「あえて材料を制限することで、発想を促しています」と話す。

 午後は、ニューヨークにあるグッゲンハイム美術館の建築図面(平面図・立面図)が配布され、図面の見方を学ぶ。 

 続いて午前中とは違う2チームに分かれ、戸建て住宅の図面をもとに、プロも使用する厚紙、スチレンボードで建築模型をつくっていく。
課題のレベルに合わせたチーム分けで学習効果を高める工夫も施されていた。

「お仕事」を通じて勉強そのものが好きに

 1日目は『模型』、2日目は『建築』、3日目は『都市計画』について学びを深め、その集大成となる4、5日目。いよいよ“自分の理想とする建物やまちの模型づくり”に挑戦する。

 講師が「自分が住みたい家や住みたいまちの企画書を書いてみよう!」と呼びかけると、子どもたちはぐいぐい企画書を書いていく。悩んでしまった子には講師が質問をしながら、「つくりたい」気持ちを引き出していく。

「何が好き?」

「お菓子屋さんとか、ケーキ屋さん……」

「じゃあ、こんなお店があったらいいな、っていう建物の模型は? 好きなお店があるまちの模型でもいいね」

 低学年の女の子は、アイスクリーム店の建物の模型をつくることに。店舗面積をイメージするため、塾の床の均等に並ぶ木目を数えて歩きながら、縮率を図面に書き込んでいく。

 低学年の男の子は、コンビニや学校、病院が1つあると何人集まるまちになるか、など『都市計画』で学んだ知識を活かし、50万人が住む大都市をレゴブロックでつくるという。

 企画書ができたら、それぞれが完成を目指し、黙々と手を動かす。

 建物の図面を描き、模型をつくるには、算数の比や割合、四則演算、図形の知識なども必要になる。「詰め込み授業が嫌で算数が苦手になった子も、手を動かしてモノをつくりながらだと、感覚的に理解できるようになります」と講師。まだ比や割合、割り算を学んでいない子には、塗り絵やブロックを使って理解をサポートする。

3階の天井から屋上プールの底が見える斬新な建築模型を考案した子も 撮影/渡邉智裕

 そして迎えた発表タイム。保護者やみんなの前で、企画や工夫した点について説明していく。高学年組のうち、サワさんは「おばあちゃんの家がモデル。一部改良して、屋根裏部屋をつくった。屋根は皇居を参考にした」と発表。アンナさんは「3階建ての家。屋上はプールで、その底は透明なので2階の天井から水が見える」とこだわった点を話す。どちらも精密な模型に仕上げ、保護者からも歓声が上がった。

家でもできる!探究学習

 実は、エイスクールでの授業プログラムは“探究学習”という学びの一種だ。探究とは、自分で課題を見つけ、解決を目指す能力を育てる学習と定義されている。2022年度には、「探究」が高校の必修科目にもなった。

 エイスクール代表の岩田拓真さんは「探究」を学習塾で提供する理由をこう話す。

「答えのない時代になって、仕事でも人生でも自分なりに課題を発見して、解決法を探る力が求められるようになっています。その力をつけるための探究学習なのですが、日本ではまだ十分に普及していません。小学生から探究学習を体験するきっかけになればと思い、活動しています」

 仕事に触れるプログラムをメインに据えたのは、現代の子どもたちに、多様な仕事についてもっと知り、考えてほしいからだという。

「仕事を通じて世の中に興味を持つことで、視野が広がります。なぜ算数の図形を学ぶ必要があるのか、なぜ国語の読解力が必要なのか、勉強をする意味もよくわかり、勉強そのものが好きになります。いろんな職業を疑似体験する機会と、今、学んでいることが実社会ではどう役立つのか、子どもたちが結びつけて考えられる学習の場が必要だと思ったんです

 そんな最先端の学習法が注目され、6月には子ども向けの書き込み式ワーク『おしごと算数ドリル ビジネス×計算』と『デザイン×図形』が出版された。

「コンビニ店長になりきり、経営を学びながら、在庫・売り上げの計算(足し算、引き算)、利益の計算(掛け算)などに取り組むドリル。それから、ロゴデザイナーになりきり、図形を学ぶドリルの2種に分けました。ご家庭で塾の授業を体感していただけると思います」

 そのほか、日常的に子どもの探究心を育てるための親向けの本も。『「勉強しなさい」より「一緒にゲームしない?」』は中国でも話題となり、翻訳出版された。

ご家庭でも親子の会話をちょっと工夫するだけで子どもの探究心は育ちます。例えば、買い物で家族全員が満足するための方法や、苦手な片づけを楽しくする方法など、“困り事を解決するプランナー”になりきって、親子で話し合うことも探究学習になります。お風呂や夕食の時間にも学びのチャンスはたくさんある。上から目線で親が“勉強させる”のではなく、楽しいと思える学びの機会をつくってあげてほしいと思います

おうちで授業を体験できる本を発売中!

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 自宅で親子一緒に「探究心」を伸ばせる学習ゲームを30種紹介。楽しく学ぶ習慣が身につくヒントが満載!

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 書き込み式の『おしごと算数ドリル』は「ビジネス×計算」、「デザイン×図形」の2シリーズを発売中!

<取材・文/鷺島鈴香>