中国の雑貨チェーン名創優品(公式HPより)

「無印良品とダイソーとユニクロを足して3で割った」雑貨店として揶揄される中国の雑貨チェーン名創優品(メイソウ、MINISO)が、日本企業を装っていた過去の戦略を謝罪し、「脱日本化」を宣言した。

 一見日本ブランドにも見える中国企業として、あまりにも有名な同社だが、中国国内での批判は今に始まったことではなく、最近はユニクロ風のロゴを除くと日本の要素は薄れていた。なぜこのタイミングで全面謝罪に追い込まれたのだろうか。

フェードアウトした日本人経営者

「名創優品」のブランド名は、無印良品の「品」、ダイソー(大創)の「創」、ユニクロ(中国名は優衣庫)の「優」と、日本の著名小売りチェーンから1文字ずつ取っているとされている。赤いロゴはユニクロを思わせるし、「10元(約200円)均一」の商品展開はダイソー的だ。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 2013年に設立され、同年秋に中国・広州市に1号店をオープンした同社は正真正銘の中国企業だが、2017年ごろまで公式サイトで「本社は東京・銀座」「2013年に中国に進出」と紹介されており、日本人デザイナー三宅順也氏を共同創業者として企業の顔にしていた。なお三宅氏のツイッターアカウントもあるが、2014年を最後に更新されていない。

 つまりメイソウは、中国でユニクロや無印良品の認知度が上昇していた2010年代に、日本ブランドを装ってチェーン展開を進めた雑貨店であり、同社も8月18日の謝罪声明で過去の偽装を初めて認めた。

 ただ、声明にあるように、メイソウは2019年から「脱日本」を着実に進めていた。

 かつて店内や商品ラベルにあふれていた珍妙な日本語は消え、多言語の商品説明に置き換えられた。三宅氏はフェードアウトし、代わりに実際に経営を担っていた創業者の葉国富氏が表に出てくるようになった。

創業時は意味不明な日本語が店内にあふれていた(写真:筆者提供/東洋経済オンライン)

 中国国内でも「無印やユニクロのパクリ」「恥ずかしい」との批判の声が高まり、オリジナリティーを示す必要が出てきたことに加え、同社が一定規模に成長し「日本」の看板がいらなくなったことも影響している。

 2017年には公式サイトで「無印良品、ユニクロ、ワトソンズから『世界で一番怖い競争相手』と称される」と豪語していたメイソウは怒涛の出店を続け、2021年末の店舗数は世界100カ国に5045店(中国国内が3168店で海外が1877店舗)と、「無印とユニクロを足した」数を上回るまでになった。

 2020年10月にはアメリカのニューヨーク証券取引所で上場し、2022年3月にニューヨークのマンハッタンにも出店している(アメリカ上場の記事:無印そっくり?「メイソウ」米国で上場の衝撃度)。

 メイソウが今頃になって「脱日本」を宣言したのは、SNSの炎上がきっかけだ。

 今年7月下旬、スペインのメイソウ代理店がインスタグラムにチャイナドレスを着たフィギュア6体の写真を投稿し、「日本の芸妓の衣装」との文を添えた。

「これは中国の衣装だ」と誤りを指摘するコメントが寄せられたが、メイソウアカウントは笑顔の絵文字で返しただけでスルーしたことから、中国のSNSウェイボー(微博)で8月に入って拡散、炎上した。

 メイソウはスペインの代理店が事実誤認の投稿をしたと謝罪したが、時すでに遅し。プロフィールに「私たちは日本で生まれ、世界展開しています」と記載されたバハマのメイソウインスタアカウントや、アメリカの店舗に掲示された「FROM JAPAN」の文字、さらには海外フランチャイズ契約の式典で会場に日本国旗が飾られた写真など、「日本企業を偽装する証拠」が次々に掘り出され、SNSに投稿された。

 ついには8月10日、中国共産党系メディアの人民網が一連の騒動を取り上げ、「ロゴや商品、すべてが日系の風格を帯びている。ユニクロ、無印良品を連想させる」と批判。スペインでの単純な「誤記載」が、初動のまずさゆえに政治的な問題に昇格してしまった。

トラブルも後を絶たなかった

 日本ブランド偽装からもわかるように、メイソウは以前からひんしゅくを買い続けてきた。ユニクロや無印だけでなく、人気が出た中国企業を模倣することも厭わず、さらにはメイソウを模倣する企業もアジア各所に出現している。

 昨年春には店内に仕掛けたカメラで来店客の顔情報を無断収集・分析していたことも判明し、猛批判を浴びた(顔データの無断採集の記事:中国人が顔データの「無断収集」に激怒するワケ)。

「勝てば官軍」の経営方針は品質やブランド、知的財産権の軽視と表裏一体であり、著名ブランドからの訴訟、顧客からのクレーム、行政指導も後を絶たない。

 2020年にアメリカで上場したときも、中国国内では「誇らしい」というより、「恥ずかしい」と受け止められたようだ。

 そのため今回のスペインでの一件も、当初は「メイソウがまたやらかした」程度の反応だった。

 スペイン人がチャイナドレスと着物の区別がつかないのは十分ありえる話でもある。だが台湾問題などを背景に反日ムードが高まっている最中に起きたメイソウのミスを、SNSはいつものようには捉えなかった。

 中国では7月以降、日本絡みの事件が度々SNSで炎上している。同月には江蘇省・南京市の寺に旧日本軍人の名が書かれた位牌が祭られていたことがわかり、奉納した中国人女性が拘束された。

 その後、日本の要素を取り入れた「夏祭り」が各地で中止され、8月には江蘇省・蘇州市で浴衣を着た若い女性が、警察に「君は中国人だろう!なぜ和服を着ているのか」と詰め寄られ、連行されたとする動画が拡散された。

 日本が対象となる事件が相次ぐ中で、叩けば埃が出るメイソウは格好の餌食になってしまったようだ。

業績悪化、上場廃止の懸念も

 今回の批判を受け、メイソウはユニクロ風のロゴも含め、2023年3月までに「日本風」を排除すると声明を出した。

 同社が「日本企業」を装っていた頃に、あのロゴと意味不明な日本語に惑わされた筆者は寂しさすら感じるが、コロナ禍以降業績悪化に歯止めがかからないメイソウは、一刻も早く騒動の幕引きを図りたかったのだろう。

 同社はコロナ禍で世界の小売店が苦しむ中でも出店しまくっていたが、感染拡大による店舗の休業や営業制限が相次ぎ、純損益は3期連続で赤字を計上した。3年の赤字額は合計20億元(約400億円)に迫る水準となっている。最近は上場廃止もささやかれ、今年7月にはリスク分散のため香港に重複上場した。

 直近の業績悪化とかねてから指摘される「ブランド力不足」、そして政治案件になってしまった「日本風という黒歴史の痕跡」。三重苦のメイソウは、創業以来最大の試練に直面している。

浦上 早苗(うらがみ さなえ)Sanae Uragami
経済ジャーナリスト
早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育など。中国メディアとの関わりが多いので、複数媒体で経済ニュースを翻訳、執筆。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。新書に『新型コロナVS中国14億人』(小学館新書)。Twitter: @sanadi37