あふれる紙類。手紙の下書きや書き損じも取ってあった(ブログ「それでも実家は売れました~施設に入所した親の家の片づけと見守り介護日記~」より)

 子どもには不要なモノに見えても、親にとっては思い出の品だったりもする。一筋縄ではいかない「実家の片付け」問題。そんな中、遠く離れた親の家の片付けを成功させたという主婦ブロガーのうきさん。途中、号泣したことも…。1人でやり遂げた今、思うこととは。

几帳面だからこそ捨てられなかった母

 富山の実家まで片道6時間の道のりを通い、1人で親の家の片づけを成し遂げた主婦ブロガーのうきさん。そこには、想像を超える孤独な闘いと両親への思いがあった。

「父亡き後、実家で生活するのは母1人でした。87歳と高齢で身体が弱くなった母を、自分の住む関西に呼び寄せることを決断。そうなると実家は空き家になるため、どうにかしなければならない。片づけを迫られた形ですね」

 当時は息子が小学校に入学する時期だった。子育てや家事で忙しい中、夫の協力を得て片づけのため、1人遠距離を通った。2019年3月のことだ。

「18歳で親元を離れ、実家に帰省するのは年1~2回しかない。誰もいない実家でいざ片づけに取りかかると、モノの多さにびっくりしました。『母はこれまで一度もモノを捨てたことがないのでは!?』というくらいのすごい量で……」

 ゴミ屋敷だったわけではない。母親は几帳面な性格ゆえに何でも取っておき、家の中はモノであふれ返っていたとうきさんは話す。

「特に多かったのは『紙、写真、布』です。紙は50年分の年賀状をはじめ各種郵便物、18歳からの日記や家計簿など。写真はアルバム60冊。布は私の学生服や体操着、布おむつまであった。これらが段ボールにキレイに収まっていたので、中を確認し、捨てるものを仕分けしていきました」

片づけ業者委託に300万円のケースも

 1人で大量の荷物に向き合う孤独な作業。誰にも褒められることなく、ただ黙々と作業しなければならなかった。

「はたから見たら、『子どもなんだから当然でしょ』と思うのかもしれません。一方で了解を得たとはいえ、母の大切なものを捨てる心理的な葛藤もありました。つらい思いを緩和するため、友人に片づけの写真をメールで送って褒めてもらっていましたね(笑)」

 それでも当初は作業がはかどらず、2020年2月に小休止。コロナによる緊急事態宣言を受け、同年3~9月は片づけを中断している。

「再開し、一気に進めて半年後の2021年3月に終了しました。心機一転、『コロナ禍で時間のあるうちに終わらせるぞ!』と自らを鼓舞したのが良かったのでしょう」

 このマインドチェンジには、中断時、専門業者に見積もりをとったことも関係している。

「業者に片づけを丸ごと頼んだら、いくらなのか。行き詰まって2社に見積もりを依頼したら1社は50万円、もう1社は100万円。友人の例では300万円かかったなんて話も。自分がやっている作業の価値を認識し、前を向けたんです」

 実家には自治体のゴミの収集日を選んで帰省。まとめたゴミ袋を両手に持ち、集積所まで何度も往復した。

「毎回約70袋のゴミが出る。それを全部捨てるのに1時間余り。必死にやって歯を食いしばっていたせいか、顎関節症になってしまいました」

布類のゴミの量。運ぶ際の食いしばりとストレスで顎関節症に(ブログ「それでも実家は売れました~施設に入所した親の家の片づけと見守り介護日記~」より)

親の歴史を見届けて…

 不要な家具や家電、布団なども自治体の有料回収を利用。結果、費用はトータル18万円程度と安く抑えられた。

「母が通っていたデイサービスに声をかけ、不要品をタダで引き取ってもらったことも。いちばんかかったのは、往復2万円近くの交通費です」

 片づけ終了まで実家の往復は15回に及んだ。手間と時間を費やし、1人でやり抜いたうきさん。一体どんな思いが?

「両親が何を大切に思って、この家で暮らしていたのかを知りたかったんです。業者に頼めば一気に片づきますが、心の整理はできません」

 全部見たからこそ、貴重な品々に出会えたという。

「例えば、母が父にあてたラブレター。母はよく手紙を書く人でしたから。かたや父は正反対の筆無精。そんな父が、家族にあてて書いた手紙が出てきたんです。入院中、病院のパンフレットに残したメモのようなもの。発見したときは夜中に号泣しました」

 うきさんにとって思い出の品にも巡り合えた。

「小学校時代に使っていた歴代のスクールバッグがそのひとつです。すべて母のお手製。どれもキレイな刺繍が施されていました。これら思い出の品と向き合い、自分が大切に育てられたことを実感できた。その気持ちのおかげで、母に寄り添うことができ、何でも許せたんだと思います」

服や小物を手作りしてくれた思い出が蘇る(ブログ「それでも実家は売れました~施設に入所した親の家の片づけと見守り介護日記~」より)

 取材後、最愛の母を90歳で見送ったうきさん。

「母との思い出は、モノではなくいまも心の中にあります。ただ今回、父の遺品が全部残されていた。いま振り返ると、母が元気なうちに父の思い出話をしながら、一緒に片づけてあげたかったです」

うきさん

うきさん
 関西在住の50代主婦。ブログ「それでも実家は売れました~施設に入所した親の家の片づけと見守り介護日記~」は、なぜか笑えてちょっと泣ける実家片づけ奮闘記。
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取材・文/百瀬康司