藤ヶ谷太輔

「すごく嫌いなタイプで、僕の苦手な人、第1位くらい(笑)。こうしたらもっとイヤかなとか考えながらやっているので、面白いです」

 主演舞台『野鴨-Vildanden-』で自身が演じるグレーゲルスについて、こう語る藤ヶ谷太輔。“近代演劇の父”と称されるノルウェーの劇作家・イプセンが1884年に発表した戯曲に、体当たりで挑んでいる。

物差しは自分であるように

 理想を追い求め、真実こそが正義だと信じている“正義病”のグレーゲルス。妻子と幸せに暮らしている親友の家庭が、実は嘘で塗り固められた土台の上に成り立っていることを知り、友に真実を告げて真の幸福な家庭を手に入れてもらおうとするのだが……。

「グレーゲルスのように、自分の正義に相手を引っ張っていく人が苦手」

 という藤ヶ谷。それゆえ、自身が言葉を発する際にも、気をつかってしまうと苦笑する。

「例えば、Kis-My-Ft2のメンバーにメッセージやアドバイスを、と言われることがあるんですが、これが昔から震えるくらい苦手で。“もっとこういうこともやったらどう?”なんて、口が裂けても言えない。だからいつも、“ご飯ばかり食べないで、パンもたまには食べなさいよ”みたいに、ちょっと避けた感じで答えてます」

 だが、芸能界の第一線で活躍している中では、“こうあってほしい”と求められることも多いのでは?

「確かに、例えばあのときのビジュアルに戻ってほしいとか、ありますよね。僕らは求められる仕事だから、すごく難しいところだなと思います。ただ、物差しは自分であるようにしようと心がけていて。物差しがたくさんあるとわからなくなってしまうから。僕はネットとかもまったく見ないし、自分が楽しくありたいという思いでやっています。それが正解なのかどうかはわからないけど」

 作品の舞台は19世紀のヨーロッパ。産業革命で人々の生活や価値観が激変したこの時代について、感じたことを尋ねると。

「大量生産が可能になったことで自然破壊が起こったりというところは、今の時代にも通じるなと。この前、久しぶりにジブリの『平成狸合戦ぽんぽこ』を見たんですが、あの映画も多摩ニュータウンを舞台に自然との共存や生きるということがテーマになっていて。何かを得ようとすると、何かを失う。これは永遠なんだな、欲しいものを全部持って死ぬ人っていないんだろうなって、『野鴨』であらためて考えさせられました」

「難しいからこそやりたい」

 Kis-My-Ft2での活動やMC、そして舞台や映像作品など、多方面で活躍する藤ヶ谷。それぞれの仕事によって切り替えるのは得意なタイプなのだろうか?

「できたらいいなと思うんですけど、僕はなかなか難しくて。例えば、役についてのあれこれを必死に集めてつかみ始めたところで、もしライブをやったら、つかんだものが全部バーっとあふれちゃいそうな気がしてしまう。いろいろ詰め込みすぎると頭の中がストップしちゃうので、今回は整理すること、ゆっくり咀嚼することに重きを置いてやっていけたらと」

 そして、リラックスのために「週1か2で休日があったら、理想だな」とニヤリ。では、その休日をどんなふうに過ごしたいかを尋ねると。

「“ていねいに暮らす”というのが自分の理想。'20年のコロナ禍での自粛期間で仕事がストップしたときに、今まで忙しいからということを理由にやってこなかったことを始めたんです。読めなかった本を読んだり、見られなかった映画を見たり。料理を始めたのもそこから。

 スーパーで食材を買って、自分で調理して食べるって、大事だなと思ったんです。あと、レコードプレーヤーを買って。Bluetoothで飛ばすのも、もちろん好きですけど、ちゃんと向き合って音楽を聴く時間もいいものだなと感じてます。ジャケットもいいんですよね。こだわりがすごく感じられるし、大きくて飾りたくなります」

 ストレートプレイは'18年の舞台『そして僕は途方に暮れる』以来、4年ぶり。「表現をすることが好きなんです」と、充実した笑顔で語る。

ストレートプレイは、難しいと感じるからからこそやりたいんですよね。生でしか伝わらないものがあると思うので、大事にしていきたいです。舞台の魅力は、僕自身が現在進行形で感じている途中。なので、そういうところも伝えていけたらいいなと思っています。現代にも通じるテーマが詰まったこの作品。しっかり届けられるように頑張りますので、ぜひ劇場にいらしてください」

◎朝時間の過ごし方は?

「朝は早めに起きています。コーヒーを淹れて、レコードをかけて、育てているバラに水をあげて。で、コーヒーを飲みながら、朝ご飯を作る。こだわったものじゃないですけどね。玄米を炊いて、納豆とネギ、おみそ汁、グリルで焼いた魚、とか。あと、母のドライカレーが子どものころから好きで。レシピを聞いたので、ときどき作ってます。冷蔵庫に入れておけば、朝や仕事から帰ったときにすぐ食べられて便利ですよ」

(公演情報)
舞台『野鴨-Vildanden-』
9月3日〜18日 世田谷パブリックシアター
9月21日〜25日 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール


撮影/廣瀬靖士 スタイリスト/横田勝広(YKP) ヘアメイク/大島智恵美
衣装協力/SPiKe