田口翔被告(左)とヒカル(ヒカル公式Twitterより)

 8月1日、人気YouTuberのヒカルが自身のチャンネル内にて「4630万円誤送金問題の田口翔を保釈直後に独占インタビューしました」と題し、給付金4630万円を誤送金された田口翔氏へのインタビュー動画を公開した。

 動画は9月9日現在、約540万回の再生数をマーク。田口氏はヒカルが役員をつとめる株式会社ReZARDと資本業務提携を結ぶ株式会社DORAYAKIに雇用され、Twitterで研修状況を報告している。

YouTuberヒカルの思惑

 事情があったとは言え“やらかして”しまった田口氏にとって、YouTube界の大物が働き口を作ってくれたのは救いだったはず。ヒカル側も、渦中の田口氏を自身のチャンネルに引っ張り出せば話題作りになる。そういった点でもWIN-WINな展開に持ち込めたのではないか。ただ現在は騒動もすっかり収まり、次の一手を待っている状況である。本人的にも一旦、世間にクールダウンしてもらう方が今後活動しやすいのかもしれない。

 ただ筆者は、同件を見て「こういう手があったか」と驚く部分が多々あった。

 以前までは、へずまりゅうのように確信犯的に迷惑事を起こすことで話題をあつめ、数字を伸ばそうとする炎上系YouTuberがたくさんいた。へずまは愛知県岡崎市のスーパーで会計前の魚の切り身を食べて盗んだことなどで、本当に逮捕、立件されてしまい懲役1年6月、保護観察付き執行猶予4年の判決を受けた。

 へずまは何度もBAN(配信停止)を食らって現在YouTubeに投稿できない状況だが、他のYouTuberのチャンネルに顔を出したり、tiktokerとして活発に活動している。

 しかし田口氏の場合は、詐欺の額も莫大な上、これから裁判も控えているほどの“ガチ”の不祥事だ。そんな人物に影響力のあるYouTuberが手を伸ばしたのである。たしかにそこで、ある程度の理解を得ながら不祥事について発言すれば、悪い印象を変えることができるかもしれない。実際に田口氏も、ヒカルとの対談のなかで「自分も言いたいことはたくさんある」と話していた。

 ヒカル自身も意見をしっかり聞きいれながら、「想像していた人物像とは違う。メディアが(田口像を)作り上げたんじゃないか」としきりに口にしていた。

 動画のコメント欄も「反省して頑張ってほしい」「社会貢献や救うみたいなこそばゆい言葉がなく『これで自分も稼ぐ』と言い切るのがまた良い」など再起に向けてエールをおくる内容が多かった。

逃げ道としての「YouTube」は正解か

 不祥事を起こした者がYouTubeを起点に再起を図るのはそもそも芸能人のやり方だった。手越祐也は見事だった。

 新型コロナの緊急事態宣言状況下での度重なる“ステイホーム破り”が明らかになったことで、2020年5月にジャニーズ事務所から活動自粛の処分を受け、翌月に退所。独立会見では、リポーターらの質問に応じながらもひたすら喋りまくってツッコまれる隙をほぼ与えなかった。さらに同時期にYouTubeチャンネルを立ち上げて、誤解を生まないように自分で発言できる場所を作った。

 筆者も手越を後日インタビューしたが、自分のやりたいことに対してとても素直な印象を受けた。

 彼の「タブーやNGは、エンタメを楽しくするための障害でしかない気がする。ルールはもちろん必要ですけど。格好良いエンタメを作るためならなんだってどんどんやるべき。「あれはダメ、これはダメ」と事務所が言うのは確かにしょうがないけど、観てくれる人たちには関係ない。自由度が高くて、純粋に楽しめるエンタメを取り戻すにはどうしたら良いか。ほんの少しでも「最近のエンタメは楽しい」と言わせたら勝ち。僕はそういう風に変えていきたい」という言葉を聞いて、YouTubeはぴったりのフィールドだと感じた。

 元雨上がり決死隊の宮迫博之も闇営業問題とその記者会見が波紋を呼んだが、YouTuberとして返り咲いた。こちらでもヒカルの存在が一役買っていた。そして、不祥事をうまく逆手に取ることができた。宮迫に対して反感を持つ人も多いが、それでも世間を賑わせたスキャンダラスな部分に惹きつけられ、つい動画を再生してしまうのは人間の性分。宮迫は自虐もからめながら、視聴者の興味をくすぐっていった。

 良くも悪くも、YouTubeは再起場所になっている。ただ、不祥事やトラブルの逃げ道となっている現状もある。SNS上では「企画力がないと飽きられるが、最初のうちの興味深さだけの視聴だけでも結構稼げるのでは?便利な世の中やな」「ちゃんと謹慎して反省して芸能界に戻って欲しいしYouTubeを逃げ道として使わないで欲しい 芸能界に戻って1から頑張って信頼取り戻せばいいのに」と疑問の声も挙がっている。

さらに「前からYouTubeでやってきた人はどう思うんだろう」「マジメにYouTuberとして活躍している人にも失礼」と、以前からYouTubeに取り組んできた投稿者らの気持ちを慮る意見も多い。

 今後もYouTubeの“逃げ道化”は拍車が掛かるだろう。YouTuberも、ヒカルが田口氏をゲットして話題や数字を稼いだことを見て、“第2の田口翔探し”をしているはず。

 特に注目されているのが、持続化給付金を騙しとったとして逮捕された元不動産会社勤務・佐藤凜果被告の今後だ。ネット上で反響をあつめたのは、逮捕時の移送のニュース映像。そのルックスが評判となった。

 しかし、その後の取り調べで語られた「老後のために2000万円が必要だと聞いて不安になった」という犯行理由も、現代の若者たちの意見として考えさせるものがあった。そんな彼女にアプローチをかけようとしているYouTuberは少なくないのではないか。

 不祥事を起こしても、結局は生きていかなければならない。そのためには稼がなくてはならない。そういった手段のひとつとしてYouTubeが選択されるのは、時代の流れとして当然なのかもしれない。ただ、そこには必ず被害者が存在する。自分がやったことに対して反省を示したとしても、パブリックな存在となる以上、是非は常に問われるだろう。

移送される佐藤凜花被告(YouTube TBS NEWS DIG Powered by JNNより)
佐藤凜花被告(不動産会社HPより)

 

 

 

 

保釈間もない田口翔被告と対面するヒカル(公式ツイッターより)
田口翔被告が描いたと思われる奇妙な絵(インスタグラムより)
真っ白な愛車のランボルギーニで銀座を訪れた手越祐也