(左から)DISHの北村匠海、あいみょん、つんく♂

「ここ2~3年で、デュエット曲はあまり歌われなくなってきています。コロナの影響から密な環境で歌うことを控えているのでしょう。『カラオケ白書』のデータを見ると、その時代の流行や社会風潮が顕著に表れていることがわかります」

 こう話すのは、全国カラオケ事業者協会事務局の片岡史朗さん。『カラオケ白書』とは、同協会が年に1度、メーカー、事業者、設置施設、利用者からアンケートを取り、カラオケ業界の現状把握を目的とする基礎統計資料のことだ。

 興味深いのは、全国にあるカラオケボックス8190施設('21年度)のデータに加え、機器を導入するスナックやバーなどの酒場13万2008軒('21年度)のデータも集計している点。

 冒頭の片岡さんの指摘は、とりわけ酒場では顕著だ。例えば'15年度の酒場ランキングトップ10には、デュエット曲が3曲もランクインしているにもかかわらず、直近'21年度の酒場ランキングトップ10では、なんとゼロ! かろうじて29位に『ロンリー・チャップリン』(鈴木聖美 with ラッツ&スター)が入っているのみだ。

サザン、ミスチル、GLAYのがランキング外

 まさに、“歌は世につれ世は歌につれ”。カラオケを通じて時流が見えてくるのだから、カラオケ=国民的娯楽といっても過言ではないだろう。

「『カラオケ白書』では、“カラオケボックス”と“酒場”、そしてその2つを合わせた“総合”、3つのトップ30を算出しています。過去の総合トップ30には、演歌や歌謡曲も散見されていたのですが、最近は見当たらない」

 と、片岡さんが話すように、ここ数年で人気カラオケ曲も激変。その言葉を端的に表しているのが、過去6年間の総合をまとめた別表「カラオケ演奏回数2015~2021年度ランキング」だ。歌謡曲だけでなく、サザンオールスターズやMr.Children、GLAYといったアーティストの名前がないことに驚く人も多いはずだ。

カラオケ総合ランキング(2015~2022年)

カラオケボックスを利用している層は、立地によって差異はありますが、約半分を『中高生』、『大学生』、『(若い)勤め人』が占めます。現役の若者世代の曲が反映されやすい」(片岡さん)

テクニカルな採点、ガイドボーカルなど高機能システムの導入で

 実際、'21年度のカラオケボックスランキングを見ると、若い世代の曲がずらりと並ぶ。

「YouTubeやTikTokなどSNSをきっかけにヒットした曲が目立ちますよね。Adoさんの『うっせぇわ』、優里さんの『ドライフラワー』、ちょっと前だと瑛人さんの『香水』もそう」

2021年度カラオケランキング

 と話すのは、明石家さんまのものまねでおなじみのほいけんたさん。実はほいさん、カラオケ採点で100点を弾き出した回数がなんと1000回(!!)を超える、カラオケマニアでもある。

 たしかに、歌ってみた動画の投稿がTikTokに相次いだことでブレイクした『ドライフラワー』など、最近の流行歌はテレビ発ではなく、SNS発が珍しくない。裏を返せば、“若者の〇〇離れ”といったワードが叫ばれがちな昨今にあって、カラオケに関しては若者離れが起きていないということ。むしろ、ランキングからもわかるように、若者がカラオケ市場を下支えしている感すらある。

 歌われている人気曲について、ほいさんはこう見解を述べる。

歌のうまい素人さんや、ファルセット(裏声)やミックスボイス(地声と裏声がまざったような声)を使いこなせる素人さんが増えた

ほいけんた

 米津玄師やOfficial髭男dismなどが、ランクインしているというのは、その証左だろう。

「テクニカルな採点やガイドボーカルなど高機能のカラオケシステムの普及、また発声法の指南動画がYouTubeなどにアップされていることによって、歌のうまい若い人たちが増えていると感じます。素人とプロの違いというのが、昔よりも薄くなっている。ものまね番組やカラオケ番組でも、“YouTubeで人気の─”という人が増えているでしょ?」(ほいさん)

 また、「ひとりカラオケが当たり前になったことも大きいと思う」と続ける。

僕もひとりでフリータイムを活用して9時間ぐらい歌い続けるときがある(笑)。少し前までは、コミュニケーションとしてのカラオケが一般的だったけど、今は趣味や練習、自己満足としてひとりカラオケに行く人も多い」(ほいさん)

 難しい曲を歌えるようになりたいから同じ曲を何度も入れる、あるいは誰もいないから好きな曲を繰り返し歌う。そうした動機が、ランキングに反映されているところもあるだろう。

「ランキングを見ていると、ストレスを発散したり、みんなで盛り上がる曲が少ないですよね。カラオケのあり方の変化を感じます」(ほいさん)

 そうした変化の中でも『残酷な天使のテーゼ』が強いのは、発散したい、盛り上がりたい層の支持を得ているからかもしれない。

酒場で歌う人は“十八番”を持っている

 一方、酒場の客層はというと、40代以上が約8割を占める。だが、

「昨今は、カラオケボックスと酒場のランキングの上位を占める曲が似通ってきている。中島みゆきさんの『糸』のような往年の名曲もあれば、あいみょんさんの『マリーゴールド』のような最近のヒット曲もある」

 とは、前出の片岡さん。

2021年酒場ランキング

 そのうえで、'21年度の酒場トップ10に、『最後の雨』(中西保志)、『シングルベッド』(シャ乱Q)が残っているのも酒場ならでは。

酒場で歌う人って、自分の十八番や持ち歌を持っている人が多い(笑)。でも、それがカラオケボックスとは違う酒場の面白さ」(ほいさん)

「カラオケボックスで歌われる曲は流行り廃りが激しいため、上位にあった曲が翌年には下位に沈んでいることもよくあります。しかし、酒場にはずっと愛されるロングランの曲がある」(片岡さん)

 酒場の雰囲気は、無形文化財ともいうべき、その土地ならではの生活感がある。酒場ランキングの変遷もまた、カラオケボックスとは異なる発見をもたらしてくれる。

 ほいさんは、「いつの時代も幅広い年代層が楽しめるからカラオケは廃れない」とカラオケ愛を惜しみなく語る。

アニメソング、CMソング、メドレー……本当に多種多様な楽しみ方ができますよね。最近はAIによる採点機能も実装され、ものまねをしていることを機器が判別することもできるくらい。進化し続けているのも、カラオケのすごいところ。コロナ禍で、カラオケボックスは大きなダメージを受けた。ですから、カラオケボックスに還元するため、頻繁に出かけるようにしています」(ほいさん)

 片岡さんが話す。

「コロナによる影響で、カラオケ業界の年間売り上げは、'20年度は前年度より50%ダウン、'21年度は20%ダウンしました。しかし、今年は4月以降、上昇傾向にあり、客足が戻ってきている。それだけ娯楽として定着しているということ。心の健康のためにも多くの方に楽しんでいただきたいです」

 コロナ禍を経て、いろいろなものが変わった。だが、カラオケ人気は変わらない。

ほい・けんた 1965年東京都生まれ。1983年役者デビュー。1988年お笑い活動を開始。明石家さんまをはじめ、多数のものまねレパートリーを持ち、テレビ、舞台などで活躍中。

全国カラオケ事業者協会では、昨年に引き続き10月17日から、医療従事者応援ソング『感謝の手紙』をカラオケで歌われた回数とYouTubeの再生回数に応じた金額を「カラオケ文化の日」基金として医療従事者支援に役立てるチャリティープロジェクトを実施。

 
カラオケ総合ランキング(2015~2022年)
2021年度カラオケランキング

 

 

 

2021年酒場ランキング