パパ活には、買う側も売る側もリスクがいっぱいーー(※写真はイメージです)

 とうとうこんな事件が起こったか──。

 2022年8月に発生した川崎市「パパ活狩り」事件を知った際の感想である。

 16歳の女子高生がパパ活相手をTwitterで募集し、それに応じた30歳の男性が川崎市内で17~19歳の少年ら5人に脅迫され、二百数十万円相当を脅し取られた事件だ。

川崎市「パパ活狩り」事件の詳細

 男性は22日の未明、車に女子高生を乗せて多摩区の公園「生田緑地」にいたところ、「俺の女に手を出しやがって」「警察に行くか100万円払うかどっちだ」などと少年らに脅迫され、車を奪われたうえ、グループの1人の自宅に軟禁されるなど、17時間も連れ回された。

 途中、ATMや消費者金融で現金を調達させられて百数十万円を奪われたほか、イヤホンなど十数万円相当の買い物までさせられたという。

生田緑地HPより(https://www.ikutaryokuti.jp/)

 朝日新聞の報道では、少年らは「パパ活を悪用して金品を巻き上げることを『パパ活狩り』と呼んでいた」とある。そんなネーミングをつけるあたり、今回はたまたま明るみになっただけで、余罪がある可能性も。

 女性を利用して男性を脅迫し金品を騙し取る犯罪は、美人局(つつもたせ)と呼ばれる。昔からある犯罪行為で、援助交際やパパ活においても散発的に起きていた。

 しかし、今回の事件の特徴は、被疑者が少年・少女であることや、軟禁したうえで二百数十万円相当も奪取するという凶悪性、そして、それらを「パパ活狩り」と呼ぶゲーム感覚にある。

 この事件の発生は、とうとうパパ活男性が不良グループの本格的なターゲットになったことを示すだろう。パパ活は、性的関係を持てば買春行為であり、家族や職場に知られるのをおそれ、黙って金品を払う男性も多い。特に未成年とのパパ活は児童買春罪で逮捕が確実なだけあって、脅迫行為の格好の餌食だ。

「パパ活狩り」の予兆

パパ活狩り」事件の予兆はすでにあった。同様の事件が、近年起こり始めていたのである。

 例えば2021年1月、22歳の男と少年2人が、出会い系アプリで女性を装って男性を誘い出し、大阪市の路上で男性に暴行を加え、現金約2万円などが入ったカバンを奪って逮捕された。

 この22歳の男は、東京・渋谷区でも30代男性を美人局行為で脅迫し、1万円とキャッシュカードを奪った余罪があるという。被疑者らは大阪で有名な半グレ集団のメンバーである。

 2022年5月には、静岡県内で35歳の高校教師の男が「児童買春・児童ポルノ禁止法」違反の容疑で逮捕された。逮捕のきっかけは美人局被害だ。

 高校教諭の男がSNSで知り合った女子高生と会うために待ち合わせ場所に行くと、女子高生と少年ら4人に脅迫され、現金8万5,000円を騙し取られた。それを警察に通報した結果、本人も逮捕されたという訳である。

 この種の犯罪は、今後ますます広がるだろう。すでに水面下ではかなり広がっているのかもしれない。

「パパ活狩り」の背景

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 多くのパパ活は、ある意味、社会的な経験値が乏しい若い女性の性を、大人の男が金銭で搾取する卑劣な行為である。

 プロや半プロの女性の場合は、単純なトレード(商行為)として考えられる。しかし、ブームに乗せられて、あるいは学費や生活費に困ってやってくる、世間知らずのパパ活女子(PJという)に対する場合は、「搾取」という言葉がぴったりとはまるように思う。

 今回の事件は、そんな搾取を享受してきたパパ活男たちに対する一種の「懲罰」のように思えるのである。もちろん、今回の件は単純な犯罪行為であり、圧倒的に被疑者らが悪いことは、誤解のないように申し添えておく。

「パパ活」とは?

 そもそも「パパ活」とは、何だろうか。大手メディアは、「デートの見返りに金品をもらう行為」などと曖昧に濁すが、ここ数年のパパ活はほぼ「性行為を伴うもの」である。簡単に言えば、個人間の買売春だ。

「パパ活」という言葉は、2010年代に生まれたとされる。SNSや出会い系サイトでの個人売春(サポ活と呼んだ)に押されて愛人や援助交際の斡旋業が低調になるなか、大手交際クラブ(デート倶楽部)がPRのために生み出した言葉だという。必ずしも性的関係を前提としないデートの見返りに、父親ほど年の離れた男性からお小遣いをもらう活動という訳だ。

 大手交際クラブは、時代の変化に対応した軽いニュアンスの新しい言葉で、愛人や援助交際には縁がなかった若い女性を広く呼び込もうとしたのだろう。ネーミングは、欧米ですでに広がっていた「シュガーダディ」という言葉をまねたのかも知れない。

 この「パパ活」は、見事に時代にマッチした。すぐに一般の若いОL、女子大生に広がり出し、2017年には野島伸司の脚本、渡部篤郎、飯豊まりえ主演で、ズバリ『パパ活』というネット配信ドラマまで作られるほどになった。パパ活専用のマッチングアプリも多く登場し、アプリには街中で普通に見かけるような清楚系の女子たちがあふれ出した。

「パパ活」の変貌

 当初はデートが中心だったパパ活は次第に「性行為を伴うもの」になり、これまで悪い遊びなどは縁がなかったであろう若い女性たちが性の対象として消費されるようになった。その傾向が顕著になったのは3年ほど前だ。なかには援助交際やサポ活に慣れた悪い男たちに騙され、ひどい目に遭う女性も現れはじめた。

筆者も、そんな被害に遭った女性たちの話を何度か聞いた。

「性行為はないと思っていたのに『そんなのは当然だ』と説教され、強引にホテルに連れて行かれた」

「6万円もらえると聞いていたのに半分しかくれなかった」

「1か月契約にしたい、後でまとめて振り込むと言われたが、1回関係を持ったら連絡が取れなくなった」などである。

 彼女たちの多くは、家族や職場・学校に知られるのをおそれて泣き寝入りしていた。また、警察に行くと売春行為で逮捕されるのではというおそれも持っていた。女性たちのおそれに付け込む、パパ活慣れした悪い輩はどんどん増えていったのである。

「パパ活」の拡大と狂乱

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 水面下でそのような被害やトラブルが広がりつつも、近年の若者の貧困を背景にして、パパ活は驚くほどの広がりを見せた。筆者の個人的な感覚では、女子大生の10人に1人は経験があるのではないだろうか。それほどの広がりだ。

 パパ活専用のマッチングアプリは、完全に男性の買い手市場であり、登録するとたくさんの若い女性から「いいね」やメッセージが集まる。ごく普通の10代・20代の女性たちが自分を何とか「買ってもらおう」と、写真やプロフィールでさかんにアピールする狂乱ぶりだ。

 コロナ禍に入ってからは、ますますパパ活女子のすそ野が広がった。夜職の女性や風俗嬢、30代・40代の主婦、女子高生、果ては女子中学生までが、パパ活に参入するようになってきた。社会的にブームが広がったということもあるし、仕事やアルバイトが減り、金銭に困ったという背景もあるだろう。実際、「パパ活」が主な収入源という女性さえ、多くあらわれた。

 女子高生、女子中学生などの18歳未満の場合は、アプリには登録できないためTwitterを使用することが多い。実際、Twitterで「P募集 JK・JC限定」(Pはパパ活、JKは女子高生、JCは女子中学生の略称)などとツイートすれば、多くのアカウントからメッセージが届く。

 パパを募集する女子高校生・女子中学生を名乗るアカウントも多く、大抵の場合、千以上のパパ活男のフォロワーがついているほどである。

 今年5月に児童買春・ポルノ禁止法違反(買春)の疑いで警視庁高井戸署に逮捕された映像ディレクター大島潤容疑者は、「PJ募集アカウント」を作って女性を引っ掛けていた。あいみょんのライブDVDやOfficial髭男dism、高橋優のMV制作にも携わっていた有名ディレクターである。

「パパ活」にからむ犯罪の多発

 パパ活がここまで社会的に多くの層に広がれば、当然に犯罪も多くなる。実際に「パパ活」に関係する事件は、後を絶たない。

 2022年1月には、池袋のラブホテルの一室で24歳の女が82歳の男性をカッターナイフで殺害した事件が起き、「池袋パパ活殺人事件」として世間を騒がせた。女が男性の財布から金を盗もうとしてトラブルになったという。

 このほか、多くの若い女性を食い物にした卑劣な犯罪も多数起きている。

 2021年1月には東京都文京区の49歳の男がTwitterで知り合った10代の女性に睡眠薬を飲ませて乱暴したとして逮捕された。余罪は50件以上に上るという。

 また、2022年4月には、SNSで知り合った女子中学、高校生らを車に乗せ、「俺、ヤクザやねん」などと脅して乱暴した39歳の無職の男の初公判が開かれた。男は2015~2020年に滋賀県内で起こした8件の強制性交事件で起訴されている。

 これまで挙げたのは、特に凶悪な事件だけである。これ以外にもパパ活がらみの強制性交、薬物、脅迫、盗撮、盗難、詐欺などの事件は、毎月いくつも報道されており、とても把握しきれないほどだ。

次は「パパ活男」が喰いものにされる番?

※画像はイメージです

 恐ろしいのは、警察沙汰になり報道ベースに上る事件は「氷山のほんの一角に過ぎない」ということだ。きっと我々の知らないところで、多くの若い女性が被害に遭っている。先ほど挙げた以外にも、「お金をくれなかった」「財布を盗まれた」「盗撮されてアダルト動画投稿サイトにアップされた」などの話を聞く。

 注目して欲しいのは、これまで挙げた事件の被害者の多くが女性という点である。池袋パパ活殺人事件の被害者は男性だが、犯人の女には軽度の知的障害があり、元カレにパパ活をさせられ、金を貢がされていた。

 投資詐欺や窃盗、勧誘、ぼったくりなどの被害には男性も多いが、事件やトラブルの被害に遭うのは圧倒的に女性が多い。

 最近はパパ活のお手当(対価の金銭)のデフレが進んできており、ホテルに行って2万円以下というケースもある。そのような状況に付け込んで、安く買いたたくだけでなく、変態的行為を要求されることもある。女性は、パパ活で性的に消費されるだけでなく、たくさん泣かされているのだ。

 このような状況下で、川崎市「パパ活狩り」事件が起こった。

 これまで喰う側だった男が、女性をだしに喰われたのである。どうしても頭に浮かぶのは「懲罰」という2文字だ。

 思い起こせば、1990年代にブルセラブーム、援助交際ブームがあった。女子高生が使用済みの制服や下着、性を売る行為が流行し、社会現象になった。

 現在のパパ活同様、ブームに乗って普通の真面目な女子高生まで参加するようになり、犯罪やトラブルに巻き込まれるケースも多々あった。女子高生を買ったのは、主に中高年男性、いわゆる「おじさん」である。

 この時、少し遅れて「おやじ狩り」ブームが生まれた。「女子高生を買う存在」として中高年男性が不良たちの軽侮の対象になり、「どうせ、パンツ買ってんだろう」「エンコウしてんだろ」などと嘲笑されながら路上で殴られ、金品を奪われる事件が多発した。

「喰うもの」「喰われるもの」が入り乱れ、援助交際の市場は荒れ、次第にブームは去った。「パパ活狩り」の登場は、きっとパパ活ブームの終わりの始まりになるだろう。