「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。有名人の言動を鋭く分析するライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
美容家転身を伝える上原多香子(本人のインスタグラムより)

第75回 上原多香子

 元SPEEDの上原多香子が、自身のインスタグラムで美容家への転身を発表しました。
彼女は過去に大手化粧品会社のコマーシャルにも出ていましたが、2児の母となり、来年40歳となる今も変わらぬ美貌を保っていますから、美容との相性はよさそうです。でも、美容家となるとどうでしょうか。

 日本が誇る美容家と言えば、たかの友梨さん、IKKOさん、君島十和子さんが思い浮かびます。彼女たちの来し方に、美容家として成功するコツが隠れているように思いますので、書き出してみましょう。

美容家に求められるビジネス手腕や専門知識

(1)一番大事なのは、売り上げ

 美容家というとセンスが必要な職業だと思われがちですが、そこはビジネスですから、一番大事なのは売り上げです。

 2017年3月11日放送の『お客さまと10人』(フジテレビ系)では、IKKOさんの収入に対するからくりが垣間見えてきます。IKKOさんは化粧品をプロデュースしていますが「化粧品は私のほうには全部入ってこない。プロデュース料といっても、そこまでは……」と明言は避けたものの、「通常の人の倍くらいのパーセンテージ」と破格の待遇を受けていることがわかります。その特別扱いの理由は、なんといっても売り上げ。「通販番組の時間帯がよかったら1時間で5000万円以上いきます」「今までの最高は5時間で3億円くらい」なのだそうです。美容家はプロデュースして終わりではなく、化粧品を売る能力も求められるわけです。その代わりと言っては何ですが、売れればプロデュース料も通常の人の倍くらいになるし、通販番組でもいい時間帯に出演させてもらって、さらに売り上げが見込めるのでしょう。

 君島十和子さんは、夫である君島誉幸氏とコスメブランド「FTC」を立ち上げています。十和子さんは化粧品の開発の際、いい成分はどんどん入れたくなるタイプだそうですが、そうするとどうしても商品の値段が上がってしまいます。誉幸氏に「何万円もするクリームを、何人の人が買うの?」とたしなめられたことを2016年6月26日放送の『ボクらの時代』(フジテレビ系)で明かしていましたが、いいものを作ることと、売れることは別というというビジネスの難しさがうかがえます。

(2)専門知識

 女優やモデルであれば、きれいにしてもらって表舞台に出るのがお仕事ですが、美容家は知識が求められます。たかの友梨センセイはエステティックという概念がなかった時代にフランスに留学してフェイシャルをマスターしてきたパイオアニアですし、最近はタレントとしてのイメージも強いIKKOさんは、石橋貴明のYouTubeチャンネル「貴ちゃんねるず」で、化粧品と手技でADの女性を韓国の女優のような透明感ある肌に変化させています。君島さんも美容雑誌の常連で、新しい美容法、美容スポットの知識量の多さに驚かされます。

美容家にとっては化粧品だけでなく、人生も売り物

(3)挫折と成功

 女性の支持を得るためには、美容家自身がどんな人生を送ってきたのかもポイントになります。挫折と成功のある人生がウケるのではないでしょうか。挫折だけ、成功だけではダメで、自分自身で苦難を乗り越える強さが女性の共感を呼ぶと言えるでしょう。美容家にとっては、化粧品だけでなく、人生も売り物と言えるのかもしれません。

 たかの友梨センセイは生みの親に捨てられ、親戚をたらいまわしにされ、手に職をつけるべきだと高校進学も許されず理容師となります。しかし、センセイはここでめげなかった。上京し、外資系化粧品会社に転職します。新聞で知ったエステティックという言葉に「これだ!」とひらめいた友梨センセイは渡仏。帰国して、「たかの友梨ビューティークリニック」を立ち上げるなど、目を見張るほどの行動力です。

 君島十和子さんの人生もなかなか激しいものがあります。吉川十和子という名前で女優として活動していましたが、オートクチュールブランド「KIMIJIMA」のブライダルモデルをしたことがきっかけで、次期後継者である誉幸氏と出会い、結婚します。オートクチュール界の雄と美人女優という華やかなカップルでしたが、婚約後に誉幸氏は婚外子であったこと、さらに結婚という形はとらなかったものの、誉幸氏にはお子さんがいたことが明るみに出るのです。意地の悪い言い方をすると、隠し子だった誉幸氏に隠し子がいたわけです。婚約を破棄するのではないというか周囲の予想を裏切って、十和子さんは結婚します。「KIMIJIMA」と言えば、ご成婚前の雅子さまもお召しになった高級ブランドでしたが、連日の報道にブランドイメージは急激に低下してしまいます。誉幸氏の父で、ブランド創設者の君島一郎さんが急逝したこともあり、ブティックはすべて閉店。アパレルとしての「KIMIJIMA」は消滅します。

君島十和子

 しかし、十和子さんは強かった。女優時代から有り余るほどの美容についての知識を『25ans』(ハースト婦人画報社)で披露していましたが、夫の誉幸氏と二人で作ったのが、現在の会社「FTC」です。十和子さんはクリエイティブディレクターという裏方ですが、十和子さんの美しさが商品に最大の説得力を与えていますし、彼女も美をキープするための努力は惜しみません。「KIMIJIMA」がピンチに陥るたびに離婚するのではないかと言われていましたが、今も誉幸氏とは仲が良く、お子さんは宝塚歌劇団で活躍しています。

 誰の人生にも思いもよらないことがあると思いますが、基本は「自分の力で頑張りぬく」のが女性ウケする人生だと思うのです。「経営がうまくいかない時は、お金持ちのパパに助けてもらいました」とか「大手化粧品会社が、クリエイティブディレクターの椅子を用意してくれて、化粧品を開発しました」では、ここまでの支持を得られたか疑問です。

過去のことで彼女のすべてを否定するのはいかがなものか

 話を上原多香子に戻しましょう。美容家は化粧品開発や売り上げの管理など裏方の仕事もありますし、自分や自分の人生を売り物にするために前に出る必要もあります。ずっとアイドルや女優として表でスポットライトをあびてきたお多香さんに、それができるかというと疑問です。こう書くと、お多香さんに美容家としての資質がないと言っているように聞こえるかもしれませんが、そうではないのです。彼女が断然輝くのは、表でスポットライトを浴びること、すなわち芸能界だと思うのです。

 お多香さんが何か新しい活動を始めるたびに「表に出てくるな」という声が上がります。それは彼女のかつての夫とのことが無関係ではないでしょう。確かに自分がご遺族の立場だったら、感情的にやりきれないものがあると思います。最近のテレビはコンプライアンスを重視していますから、お多香さんがテレビに出られないのも仕方ないと思います。

'21年12月下旬、第2子を乗せたベビーカーを押して買い物から自宅に戻る上原多香子

 けれど、過去のことで、お多香さんのすべてを否定するのはいかがなものでしょうか。

 私は男女の関係を左右するのは、タイミングだと思っています。たとえば、繊細な男性とニブい女性というカップルは、平時であれば相性がいいと言えるでしょう。何かと傷つきやすい男性は、細かいことは気にしない女性に癒やされるでしょうし、女性は相手のことを“ちょっと細かいけど頼れる”と思うはず。しかし、タイミングが狂って、思いもよらない出来事が起きると、男性は繊細さ故にいろいろなことを一人で抱え込んでしまいますし、女性はなんせニブいので男性が悩んでいることにすら気づかず、男性から見て無神経な行動を取って追い詰めてしまうことがあります。こうなると、悲劇的な結末につながってしまうかもしれません。

 お多香さんと元夫に関しては、表に出ていないことだってあるはずで、元夫がこの世にいない以上、道義的に考えて、お多香さんは反論することが難しいでしょう。そこを考慮せずに、“例の件”を責め立てるのは視野が狭すぎるのではないでしょうか。テレビは難しいにしても、映画や美容など「興味のある客が、自腹を切る」経済活動に対して文句を言うのは筋違いだと思います。

 しかしながら、十代で頂点を極めた彼女だからこそ、復帰は難しいのかもしれないと思うのです。なぜなら、こういうピンチの時に手を差し伸べてくる人は、本当に彼女のことを思っている人もいるでしょうが、彼女の抜群の知名度を今こそ利用したいとたくらむ、ヤバい人もいないとは言いきれないからです。

 言うまでもなく、スターになる人というのはほんの一握りの選ばれし人なわけですが、スターにとって難しいのは、平穏に平凡に生きることなのかもしれないと思わされるのでした。


<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」

 
 
'21年12月下旬、第2子を乗せたベビーカーを押して買い物から自宅に戻る上原多香子

 

第2子を乗せたベビーカーを押す上原多香子('21年12月)

 

ベビーカーを押す上原多香子。買い物帰りか、手元のバックにはネギが('21年12月)

 

上原多香子('21年12月)

 

 

'19年12月中旬、子どもを抱えて帰宅した上原多香子