(左から)『六本木クラス』の竹内涼真、『オールドルーキー』の綾野剛、『ちむどんどん』の黒島結菜

 放送前は話題作や力作ぞろいといわれ、注目を集めた'22年夏ドラマ。しかしいざ蓋を開けると平均視聴率10%を超えたのは『オールドルーキー』(TBS系)だけ。『初恋の悪魔』(日本テレビ系)、『テッパチ!』(フジテレビ系)は4%台、『純愛ディソナンス』(フジテレビ系)に至っては3%台を連発するといった、惨憺たる結果に──。

夏ドラマはがっかりが多かった!?

「今期はどの局もラインナップに力を入れていて、大御所脚本家やいい役者がたくさんそろっていた。でも話題作が話題にならず、数字を取れないままいまひとつ盛り上がらずに終わってしまった」

 とはドラマ評論家の田幸和歌子さん。期待が大きかったぶん、ガッカリ度も大きいと話す。その最たる作品が竹内涼真(29)主演の『六本木クラス』(テレビ朝日系)。韓国の大ヒットドラマ『梨泰院クラス』のリメイクとして話題を集めるも、放送開始当初の評判が悪かった。

「セットからカメラワークまで本家とそっくり。なのに主人公がどん底から苦労して這い上がっていくという肝心の物語の核の部分が掘り下げられていない。こんなにサクサク進んでいいのかというくらいあっさりいろいろな物事が解決しすぎて、うまくいったときの感慨が薄い」(田幸さん、以下同)

 そして、キャラ設定にもこう疑問を呈す。

「本家の主人公は復讐心を燃やし続けてすごみがあるけれど、竹内さんが演じる宮部新は、うるうるの涙目で頼りなくて全体的に薄味。見た目をそっくりに作るより、内容にもっとアレンジを加えてオリジナル色を出してもよかったのでは」

 遊川和彦のオリジナル脚本、『家政婦のミタ』のスタッフ再集結と鳴り物入りで始まったのが『家庭教師のトラコ』(日本テレビ系)。主演は橋本愛(26)で、合格率100%の家庭教師を演じた。

「教育格差というテーマは今どきでいいけれど、メッセージがストレートに台詞にされすぎて押し付けがましさを感じた。橋本愛さんのコスプレはそこまで必要だったのかというのも疑問で、コミカルな演出とメッセージ性のバランスの悪さも見受けられました。

 今の視聴者はドラマにリアリティーを求める人と、エンタメとして楽しみたい人に二極化しているけど、この作品はどちらの層にも当てはまらない。リアリティーを求める人にはドタバタのコメディーの見にくさがあり、エンタメを求める人には“また説教が始まった”と受け止められた部分があった」

 続いてのガッカリドラマは『ユニコーンに乗って』(TBS系)。スタートアップ企業のCEOの奮闘を、永野芽郁(23)主演、杉野遥亮(27)、西島秀俊(51)共演で描いた。

「西島さん扮する中年の新入社員のキャラは魅力的だし、杉野さんは単なるイケメンではなく演技もうまい。ただスタートアップ企業という新たな題材を取り上げているのに、仕事面の描き方が古くさい。しかも仕事の話は簡単に着地してしまい、あとはふわふわした恋愛やキャラ萌えで引っ張るばかり。1話を見て“何だこれ?”と離れた人も多かった」

 テーマは良くても恋愛要素をねじ込むことで、物語の魅力を半減させてしまう。田幸さんいわく「これは最近のドラマのガッカリな傾向」で、同様の例はほかにもあると話す。まずは『魔法のリノベ』(カンテレ・フジテレビ系)。

「リノベという題材の目の付け所は面白く、波瑠さん(31)と間宮祥太朗さん(29)の掛け合いのテンポもよかったけれど、どんどん恋愛に傾いて“リノベはどこにいったんだ?”と。

 フジテレビの『テッパチ!』も自衛隊の話なのに、あんなに恋愛要素は必要だったのか。自衛隊の全面協力と謳うなら、シャワーシーンより、自衛隊のリアルな奮闘を見せてほしかった」

 一方、恋愛に頼らず題材ありきで描いたのが『石子と羽男』(TBS系)。主人公2人は仕事の相棒に終始し、その関係性の描き方を田幸さんは評価する。

「非常に丁寧な脚本で、身近な出来事が犯罪になりうるという面白さがありました。恋愛もベタな三角関係にせず、主人公2人を同僚で互いにかけがえのない存在として描いているのも良いところ。

 中村倫也さん(35)、有村架純さん(29)、その恋人役の赤楚衛二さん(28)が3人でハグするシーンはとりわけ印象的。なぜこの作品が視聴率2桁いかないんだろうという意味でガッカリドラマ。タイトルで法律モノではなく、恋愛モノと思われ、“見なくていいリスト”に入れた層が多かったのでは」

「#ちむどんどん反省会」SNS盛り上げるも……

 逆にSNSで話題になり途中から盛り上がるケースも多い。だが、

「今期は話題といえば朝ドラ『ちむどんどん』(NHK)一色。あらすじや設定もめちゃくちゃで連日SNSをにぎわし、“ちむどん祭り”にほかがのみ込まれた感が。ある意味今年の夏ドラとは“ちむどん”の被害者」と分析する。

 出だしでつまずき、イメージを挽回できないまま最終回を迎えたのが『純愛ディソナンス』『初恋の悪魔』の2作。

「『純愛ディソナンス』の惨敗の理由のひとつが恋愛ものにしか見えないタイトルで、

 “ディソナンスって何?”とわかりにくさも追い打ちをかけた。教師と生徒の禁断の愛というテーマに嫌悪感を抱く人も多く、“またこれをやるのか”と敬遠されたようです。でも教師役の中島裕翔さん(29)、生徒役の吉川愛さん(22)など、役者も役柄にはまっていたし、サスペンス的な展開もあって、個人的には面白く見てました。

『初恋の悪魔』は坂元裕二脚本で、キャストも林遣都さん(31)、仲野太賀さん(29)をはじめうまい人ばかり。欠点のない布陣で臨んだけれど、本当に面白くなるのは4回目くらいからで、ライトなドラマ視聴者には取っつきにくさがあったのかも。両方とも見れば面白いのにみんな見なかった。そういう意味でガッカリドラマ

 視聴率には恵まれなかったものの、一部のコアなファンから支持を集めたのが『新・信長公記』(日本テレビ系)と『雪女と蟹を食う』(テレビ東京)。いずれも漫画原作からのドラマ化。

『新・信長公記』は戦国武将が学園のトップを争うというバカバカしいおかしさがあった。小澤征悦さん(48)、濱田岳さん(34)などバイプレーヤー勢も豪華で、深夜の30分枠でやったほうがその面白さが出たのでは。

『雪女と蟹を食う』は映像も映画的で美しくキャストもぴったり。グルメあり、旅ありと、テレ東らしさが贅沢に詰まった作品で、それでいて生と死を丁寧に描いていた。もともと深夜帯で数字の取れる枠ではないけれど、よくできた作品だったと思います」

『オールドルーキー』の勝因は?

 惨敗ぞろいの夏ドラマの中で、日曜劇場『オールドルーキー』だけが2桁の大台に乗った。その勝因は何だったのだろう。

「日曜劇場が好きという人はいろいろなドラマを見ているドラマ好きとは明らかに層が違って、普段あまりドラマを見ない中年男性が主な層になっている。

『オールドルーキー』にしても展開がイージーだったり、見せ場にここぞとばかり派手な音楽を流したりと、日曜劇場の伝統芸がふんだんに盛り込まれていて通常のドラマ好きは引いてしまいがち。

 でもそのわかりやすさが好きという人は一定数いて、かつての時代劇のような役割を担っている。こういう作品の需要は確かにあって、すみわけのうまさが数字として表れた」

 前評判とは裏腹に、ガッカリ続きだった'22年の夏ドラマ。もうすぐ始まる秋ドラマ、はたして期待できるのか──?

「楽しみにしていた作品があったのに、夏ドラマは期待外れに終わり寂しい限りでした。でも秋ドラマは面白そう。長澤まさみさん(35)の4年半ぶりの連続ドラマ主演作、カンテレ・フジテレビ系の『エルピス』や仲野太賀さん主演のシチュエーションコメディー、テレビ朝日系の『ジャパニーズスタイル』など注目作も控えています。期待しましょう!」

'22年夏ドラ平均視聴率ランキング(9/13付)

順位 タイトル 平均視聴率
1 オールドルーキー(TBS系)10.4%
2 六本木クラス(テレビ朝日系)9.1%
3 競争の番人(フジテレビ系)8.8%
4 ユニコーンに乗って(TBS系)8.0%
5 石子と羽男(TBS系)7.2%
6 魔法のリノベ(カンテレ・フジテレビ系)6.4%
7 家庭教師のトラコ(日本テレビ系)5.9%
8 テッパチ!(フジテレビ系)4.8%
8 初恋の悪魔(日本テレビ系)4.8%
10 新・信長公記(日本テレビ系)4.6%

田幸和歌子(たこう・わかこ)●週刊誌や月刊誌、Webメディアなどで俳優や脚本家のインタビューや、ドラマに関する記事を執筆。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など

(取材・文/小野寺悦子)

竹内涼真

 

5月中旬、六本木近くの商店街で撮影に臨んだ竹内涼真

 

ドラマ『六本木クラス』ロケ、パンダの着ぐるみをきる竹内涼真(2022年5月)

 

綾野剛が主演ドラマ『オールドルーキー』の撮影で神奈川県のサッカースタジアムに

 

『純愛ディソナンス』公式ツイッターより。視聴者からは「こんな仲良い感じであの撮影をしてたとは」といったコメントも

 

'22年夏ドラ平均視聴率ランキング(9/13付)