2泊4日のイギリス訪問を終え、政府専用機で羽田空港に到着された雅子さま(9月20日)

 9月20日の午後8時過ぎ、皇居・二重橋付近には十数人の人々が集まっていた。気温は20℃を下回り、雨が降りしきる中、白バイやパトカーなどに続く形で両陛下を乗せた御料車が姿を見せると、どこからともなく「お疲れさまでした」との声が上がる。

 約15時間の長旅を終えた両陛下をひと目見ようと集まった人々は、カメラを向けたり、手を振ったり、思い思いに慰労の気持ちを表していた─。

皇后としての責務というお気持ちを

 沿道に集まった女性のひとりに両陛下のご様子について話を聞くと、

「雨にもかかわらず車窓を全開にし、ルームランプを灯してお手振りしてくださいました。車のスピードが速く、あまりご表情が見えなかったのは少し残念でしたね。とはいえ、雅子さまにとっては7年ぶりの海外訪問。長旅のお疲れがたまり、家路を急がれるのも納得できます」

 9月8日に96歳でお亡くなりになったイギリスのエリザベス女王。その国葬がロンドンのウェストミンスター寺院で開かれるにあたり、両陛下は9月17日から20日にかけて、“弾丸日程”でイギリスを訪問された。

「'20年5月、エリザベス女王の招待により両陛下はイギリスを訪問される予定でしたが、コロナ禍で延期に。雅子さまがエリザベス女王と初めて対面される場が葬儀になってしまったことは非常に残念でした」(皇室担当記者)

 国葬に参列された雅子さまの思いを、宮内庁OBで皇室ジャーナリストの山下晋司さんは、こう受け止めた。

「イギリス王室は日本の皇室にとって特別な存在です。交流の歴史は長く、公私にわたって多大なる影響を受けてきました。皇后陛下は皇室に入られてから幾度となく、天皇陛下や上皇・上皇后両陛下から、そのような話をお聞きになっていたことでしょう。

 女王陛下の突然の訃報を受けて、“天皇陛下とともに参列するのが皇后としての責務だ”という強いお気持ちを抱かれていたのだと思います」

 療養に入ってから19年目になる雅子さまのご体調には、いまだに波がおありだという。

「渡英前日の9月16日に行われた日本商工会議所創立100周年記念式典は、天皇陛下のみのご出席となり、雅子さまはご体調を考慮してお出ましになりませんでした」(前出・記者)

「両陛下そろってのご出席を前提」と発表

 国葬の前日にあたる9月18日に催されたチャールズ新国王主催のレセプションと、エリザベス女王の棺に拝礼する『正装安置』にも、雅子さまのお姿はなく、訪英の主目的である国葬に無事に参列するために“調整”された。

 ある皇室ジャーナリストは、「これまでにも同様のケースはあった」と前置きし、次のように語る。

「'13年4月、オランダの新国王の即位式に出席された際、雅子さまは体調を考慮され、メインとなる式典とレセプション以外の関連行事にはお出ましになりませんでした。'15年7月のトンガ訪問でも、雅子さまは王女主催の昼食会を欠席されています。
今回の訪英も前例どおりですが、大きく報道されただけに“雅子さまは回復途上である”と、国民に広く印象づけることになりました」

 両陛下の帰国から2日後の9月22日、宮内庁の西村泰彦長官は定例会見に臨んだ。

「片道15時間に及ぶ長距離移動や、ノーマスクが浸透しているイギリスでの感染対策、現地でのバス移動や雅子さまのご体調などを考慮したうえで、西村長官は“決して容易なご訪問ではなかった”と、振り返っていました。両陛下は、おふたりで参列できたことに安堵されたご様子だったといいます」(前出・記者)

雅子さまも臨まれる予定だった公務に単独で出席された天皇陛下(9月16日)

 心理学に詳しい東京未来大学こども心理学部長の出口保行教授は、雅子さまのご体調についてこう見解を示す。

「『適応障害』のいちばんの原因はストレスです。以前は、公務をこなされること自体がおつらいという時期もあったとお見受けしますが、今回のような突然の海外訪問をこなせたということは、それだけ症状が改善されていると推測できます」

 今回の海外訪問は、まさにターニングポイントとなった。そんな中、今後の公務についても大きな変化が。

「雅子さまの公務はこれまで“体調が許せば出席”との条件つきでしたが、今後の地方訪問についてはそのような条件をなくし、“両陛下そろってのご出席を前提とする”と、9月15日に宮内庁が発表したのです」(前出・記者)

 療養に入られてからの雅子さまのご体調は一進一退。参加を予定されていても直前に“ドタキャン”を余儀なくされることもあり、一部では“無責任”などと批判の声が上がることもあった。

「ドタキャンを避けるべく、少なくともこの10年間は、基本的に欠席を前提として、訪問できそうなら急きょ雅子さまもお出ましになるという“サプライズ出席”方式がとられていました」(同・記者)

ドタキャンできないプレッシャー

 来たる10月1日に栃木県で行われる『第77回国民体育大会』については、体調に支障がなければ雅子さまも陛下に同行するといわれているが、

「雅子さまは“何が何でも出席したい”というお気持ちでしょう。コロナ禍の影響で、東京都外にお出ましになるのは実に2年8か月ぶり。地元住民や、お迎えにあたる関係者をガッカリさせまいという思いはお強いはずです」(宮内庁関係者、以下同)

 国体と並ぶ四大行幸啓の『国民文化祭』は10月から11月にかけて沖縄県で、『全国豊かな海づくり大会』は11月に兵庫県で行われる予定だ。

「例に漏れず、両陛下そろってのご出席が予定され、ご宿泊を伴うスケジュールが組まれています。つまり、地方訪問が復活する“公務の秋”の皮切りとなるのが国体。何事も初めが肝心とはいいますが、まずは滞りなく、天皇ご一家のお出ましを“再始動”させることが目標です」

 イギリスから帰国してわずか10日後、新たなる試練を抱えておられる雅子さま。

'19年9月、茨城県で行われた国民体育大会の開会式には天皇皇后両陛下そろってお出ましになった

「公務に向けて数か月前から照準を合わせる雅子さまにとって、イレギュラーな海外訪問はご負担となりました。ただ、仮に国体を欠席されれば“イギリスには行けたのに”と厳しい声が上がるでしょう。ドタキャンできないプレッシャーと対峙する雅子さまが今、苦悶されていることは、想像に難くありません……」

 前出の出口教授は、責任感が強くてまじめな雅子さまのご性格をこう分析する。

「“やればできる”と国民から期待されることが、雅子さまのストレスになりえます。適応障害の心理状態には波があり、現実的にはドタキャンされる可能性もある。ただ、それによって、ご本人の忸怩たる思いが再燃するのは避けたいところです。療養において、焦燥と不安は禁物。雅子さまの使命感をあおらないように見守るべきでしょう」

 新時代の歯車は、少しずつではあるが、確かに動き始めている─。


山下晋司 皇室ジャーナリスト。23年間の宮内庁勤務の後、出版社役員を経て独立。書籍やテレビ番組の監修、執筆、講演などを行っている

出口保行 犯罪心理学者。東京未来大学こども心理学部長。これまで1万人の犯罪者・非行少年を心理分析し、多くの報道番組で解説を行う