お笑い芸人で脚本家のかもめんたる・岩崎う大

 かもめんたる・岩崎う大(44)が、近々話題になりそうなお笑い芸人を予想する連載企画がスタート! 今回の芸人はかが屋

第1回『かが屋』

 僕が彼らの噂を聞くようになったのは、遡ること約5年、まだ第7世代という言葉が聞かれる前でした。「かが屋」というコンビが面白いコントをすると聞いて、YouTubeでネタを見たのを覚えています。

かが屋(左から)加賀翔(かがしょう)、賀屋壮也(かやそうや)

 純朴なルックスの若者2人が演じるコントは演技も台本も洗練されていて、まるでコントを奏でるように演じる。と、評するこちら側の背筋も伸びるような上質のコントに驚きました。

 大抵の面白い無名の若手芸人は、発想がずば抜けていたり、キャラクターが強烈であったりする一方で、そのネタは粗削りで、その伸び代込みで評価されるものですが、彼らのコントには長くその道を歩んだ者にしか出せない、落ち着きと2人が共通で目指す確固たるゴールがあるように見えました。

 ロン毛の賀屋君も短髪の加賀君も同じレベルですごい。「こいつら、どっか別の国でずっとコントやってたんじゃない?」とうたぐりたくなるほど小道具の使い方から何からオシャレで、可愛げないぐらいの円熟味があったのです。

 なので「コイツら絶対内面は純朴じゃないぞ! 2人で『かもめんたるなんて古いっしょ』って、そこでも意気投合してるはずだ」と勝手に震えていました。

「どっか別の国でコントやってたんじゃない?」と疑う円熟味

 実は、僕はかが屋の2人の連絡先は知らないのですが、賀屋君とは、TwitterのDMでやりとりしているので、一番古いやりとりを見返してみました。

 僕とかが屋の2人は2018年のキングオブコントの準決勝で、初めて会って話をしたようです。正直その時の記憶はありません。というのも、その準決勝で、かが屋もかもめんたるも敗退しているので、ショックで記憶がないんだと思われます。

 で、同じ年の暮れにやった劇団かもめんたるの公演に、賀屋君を招待したところ、「相方も誘っていいですか?」と言われ、かが屋の2人で見にきてくれたんです。

 新型コロナもないころですから、公演後2人が楽屋に来てくれました。2人は満面の笑みで、開口一番「めちゃくちゃ面白かったです!! なんですかあれ!」と興奮した顔を見せてくれました。

 僕は「ああ、やっぱりこの2人は純粋に面白いものが好きで、自分たちもそれがやりたくて、しゃかりきに頑張ってるやつらなんだ! だからあんな素晴らしいコントができるんだ!」と、勝手にすがすがしい気持ちになったのを鮮明に覚えています。

 かが屋はその後、すぐキングオブコントの決勝に進んで、若手コント師の先頭を走るような活躍をしますが、いったん活動休止をしてしまいます。晴れ晴れと雲ひとつないように見えた彼らのサクセスロードに、突然暗雲が立ちこめた瞬間だったのではないでしょうか。

「かが屋」のネタは台本の流れに無理がないのも特徴です。これは、コントにありがちな「笑いのために登場人物の生理を無視した展開」が排除されている結果です。2人は実際にネタをやりながら「登場人物として気持ち悪い」と感じる箇所がないように細心の注意を払いながら作っているといいます。

 登場人物の心情ファーストのコント作りが行われているわけです。それが2人のコントの肝である「日常の中にある人間ドラマ」を、成り立たせている理由です。

 そのようなコントを作るのに人生経験が必須なのは想像に難くありません。雨降って地固まる。一見、不幸な「活動休止」が、見事に復活を遂げた「かが屋」の生み出すコントの糧になっていないわけがありません。

 雨の日を経験し、再びキングオブコント決勝の舞台に戻ってきた2人。彼らが晴れの舞台で奏でるコントがどんな光りを放つのか、楽しみでなりません。

岩崎う大(いわさきうだい)●1978年東京都生まれ。早稲田大学卒。かもめんたるとして槙尾ユウスケとコンビを結成。キングオブコント2013優勝。お笑い芸人だけでなく、脚本家、放送作家、漫画家として多才に活躍中