私たちの生活にすっかり浸透した格安メガネ店、安さはうれしいが、その背景と上手なお付き合いの仕方も学んでおきたい(※画像はイメージです)

 10月10日は目の愛護デーということで、普段から近視や老眼で使用する人が多いメガネ。みんなはどこで買ってる?

「おしゃれだし、なんといっても安いから、ショッピングモールにあるJINSやZoffで買ってます」(30代女性)、「近視と乱視が強いので、老舗店でお金をかけて作ることにしています。やはりかけ心地や見え方に差を感じます」(50代女性)

 などと、お店を選ぶポイントはさまざま。でも、やっぱりお手軽に1万円以下でメガネが買えるお店は気になる存在。そこで、メガネ業界事情に詳しい“眼鏡評論家”の伊藤次郎さんに話を聞いた。

伊藤次郎さん

「メガネ店は大きく分けて4種類あります。まず、昔からおなじみの『パリミキ』や『メガネスーパー』、『メガネドラッグ』、『愛眼』といった“大手量販店”。それから、『イワキ』や『東京メガネ』などの“高級チェーン店”。そして商店街などにある“中小零細店”。かつては、大手量販店がメガネの売り上げの8割を占めていました。ところが、約20年前から、1万円以下の低価格で買える『Zoff』や『JINS』、『眼鏡市場』といった“プライスショップ”が続々と登場して大きく状況が変わった。レンズの度数にかかわらず一定価格だったりと、値段のわかりやすさと低価格で人気を集め、プライスショップ主要4社でメガネ市場の売り上げの6割を占めるまでに」

 プライスショップはなぜこんなに安いの? 品質に問題はない? 

「安さの理由は3つ。1つが視力測定する機械が進化したこと。2つ目、レンズを加工する機械が進化したこと。店頭での視力測定やレンズ加工が簡単にできるようになったことで、人件費を抑えることができるようになったんです。そして、3つ目は生産地として中国が台頭したことも大きいですね。フレームは機械を使って原価数百円で作れるようになりました」(伊藤さん、以下同)

安売り競争の結果、技術ある人材も

 確かに、最近メガネ店に置いてあるフレーム、日本製のものが減ってきているかも……。でも、機械の進化が理由なら、安いメガネでも問題ないと考えていいのだろうか。

「例えば樹脂製のフレームなら、国産だろうが安い中国産・韓国産だろうが、性能に大きな差はありません。ただ、メガネは、フレームだけではまだ半製品の状態です。店頭できちんと視力を測って見え方や使い方に合ったレンズを選び、フレームに合わせてレンズを加工。フレームを顔にフィッティングさせて初めて製品として完成します。それには、たとえ機械を使っていたとしても、お店のスタッフの技術が必要なのです

メガネ“プライスショップ”の台頭で日本人のメガネ事情が激変

 ところが、プライスショップの台頭で日本のメガネ業界全体が安売り競争に巻き込まれてしまった。それに伴いスタッフの人件費があまり上げられなくなり、技術のある人が業界から数多く去ってしまった……と伊藤さんは嘆く。

「50代くらいの技術のあるベテランが残っているのは、高級チェーン店を中心としたごく一部だけです」

 業界から腕のあるベテランが減ってしまった結果、機械任せにして合わないメガネをかけてしまっている人も増えてきているそう。

「多くの眼科医も指摘していることですが、合わないメガネをかけていることが、頭痛、肩こり、眼精疲労といった不定愁訴につながることも。日々の快適さや労働生産性にも影響しているわけです」

どう選ぶのが賢いの?メガネ店の使い分け術

 メガネ店を選ぶ以前に、忘れてはならないことがある。医師による診察だ。“前より見えづらくなった”と感じたときなど、目に関する不調は眼科に、頭痛などの不定愁訴を感じている場合は内科に。メガネでは治せない病気の可能性もあるからだ。

 これといった病気がなく、近視や老眼ということになればメガネ店へ。では、プライスショップや高級チェーン店など、店をどう使い分ければいいのか。

「度数が強くなく、左右の視力に差がなく、乱視などもない人。それから、これまでも安いメガネで不定愁訴を感じることがなかった人は、プライスショップのメガネでもトラブルなく過ごせる可能性が高いですね。今まで100円ショップやホームセンターで買った老眼鏡でしのいでいた人も、まずはプライスショップのメガネを試してみてください。視力に合ったメガネを作れてはるかに快適に過ごせます」

 メガネを使う時間が短い人も、高いメガネをあつらえるのは抵抗があるだろう。

「1日中、コンタクトレンズで過ごしていて、夜の数時間だけメガネで過ごす人は、プライスショップのメガネから試すのもいいですね」

 伊藤さんの会社では、全国の眼科医1009人を対象にアンケートを実施。「眼鏡を選ぶ際、押さえておくと良いポイントはどれですか?(複数回答可)」という質問に対しては、『目と目的に合わせたレンズを選ぶ(52・4%)』との回答が最も多く、次いで『(フレームを)瞳孔間距離だけでなく、顔幅サイズや骨格で選ぶ(49・8%)』『フレームのフィット感で選ぶ(35%)』といった答えが多かった。

 これらを実現するには、高い技術を持つスタッフのいる店を探したいところ。ただ、すでに述べたとおり、業界全体が腕のあるベテラン不足になっているという問題もあり、自分に合ったものがなかなか見つからず、メガネ難民になってしまっている人も多いのでは。

メガネは使い捨てのファッション雑貨ではない

「ひとつ明るい材料をあげるとすれば、今年から“眼鏡作製技能士”という国家資格が登場することでしょうか。これは、メガネ店の技術者が眼科医と連携しながら、多くの人により良いメガネを提供し、目の健康を守れるよう眼鏡作製の技能を高めていくことを目的とした資格です」

メガネの提供側にも国家資格が登場(※画像はイメージです)

 試験はメガネ店での「視力の測定」「レンズ加工」「フレームのフィッティング」などに関する学科と実技を実施。両方の試験に合格すると「眼鏡作製技能士」1級/2級の称号が与えられる。業界全体のレベルが底上げされることが期待されており、資格を持った人がいる店を探すのもひとつの手。

「ただ、メガネの使用感って、個人差がすごく大きいのです。眼鏡作製技能士1級の人や、高級店のベテランに任せたからといって、100%満足のいくものができるとは限らない。そこが難しいところなんです」

 店によっては、メガネを作って一定期間内ならレンズを交換できる保証制度もあるので、そうした保証を利用してみるのもあり。ちなみに伊藤さんの店(オプテリアグラシアス)では、自分の度数に合っているかなど、30日間メガネのかけ心地を試せるテストレンタル『メガテス』を実施している。

「メガネは使い捨てのファッション雑貨などではなく、生活の質を左右する医療器具だと考えて、慎重に選んでくださいね」

教えてくれたのは
 眼鏡評論家の伊藤次郎さん。東京・吉祥寺でメガネショップ『オプテリアグラシアス』を経営。メガネ業界の改革を目指し、セミナーやSNSなどで発信を続けている。

取材・文/吉田きんぎょ