「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。有名人の言動を鋭く分析するライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
菜々緒

第77回 菜々緒

 映画『七人の秘書 THE MOVIE』の公開直前イベントが開かれ、女優・菜々緒らが出席し、「秘書のお悩み相談会」としてSNSで募った一般人のお悩みに答えたそうです。

「靴下を脱ぎっぱなしの旦那をこらしらめるには?」というお悩みに対し、菜々緒は「そういう旦那さんを選んだのは、自業自得。でも、靴下を片づけてくれる人を選んだわけじゃないので、話し合って解決策を探すのがいい」と答えたそうです。

ダメな夫を選んだのは自業自得なのか

 菜々緒は女優として、強い女、一筋縄ではいかない女を演じていることから、キャラに沿って、お悩みを一刀両断して見せたのでしょう。しかし、「そういう夫を選んだのは自業自得」発言は好感度が落ちかねないのではないでしょうか。一般人の世界でも、これを言えば友達と決裂する遠因ともなりますし、何より自分自身をも追い詰めてしまう可能性があるヤバいひと言なのです。今回はなぜ「そういう夫を選んだのは、自業自得」と言ってはいけないかについて、考えたいと思います。

 第一志望だった会社に入ったとか、憧れの職業についたものの、いざ働きはじめたら「あれ、何だか思っていたのと違う」と思うことはあるでしょう。これは会社や仕事を選び間違ってしまったという自業自得なのでしょうか? 私はそうは思いません。「理想と現実」という言葉があるように、どんな会社、仕事にも「オモテとウラ」があり、概して外には「いい面」しか出てこないものです。ですから、「実際に働いてみないと、わからないことがある」のは当たり前だと思います。

 それは、結婚も一緒だと思うのです。結婚前はお互いをよく見せようと努力しますが、結婚とは男女が“楽屋”を一緒にするようなものですから、だらしなさも含めたお互いの意外な一面に結婚後に気づくということは、どこの夫婦にもあることではないでしょうか。そんなときに「夫を選んだのは、自業自得」発言を独身女性がした場合、既婚女性は「結婚していない人には、わからないだろうな」と感じるでしょうし、場合によってはそれを率直に口にするかもしれません。そうすると、独身女性は「マウンティングされた」とイラっとするでしょう。既婚女性も「こういう話はやっぱり結婚している人に聞いてもらおう」と距離を取る決断をしないとも言い切れない。「自業自得」発言は、友情を分断する遠因となりうるのです。

六本木で開催された志村けん誕生日会に参加する菜々緒(2013年)

「自業自得」発言がヤバい理由は、他にもあります。たとえば、夫が何の計画も相談もなしに仕事をやめてしまったとしましょう。一般論で言えば、黙って仕事をやめてしまった夫は何を考えているんだろうと言われるでしょう。しかし、菜々緒のような「自業自得論」で言うと、それは「そういう夫を選んだのは、自分が悪い」わけですから、夫の不始末は、全部妻の責任となってしまうので、結果的に夫はやりたい放題になってしまうのです。

 仕事を急にやめないとか、大きな買い物をするときは相談するとか、不倫はしないなど、夫婦によっていろいろなルールがあると思いますが、「自業自得理論」では、ルールを破った人がトクをし、ルールを守る側が精神的に追い込まれてしまうのです。

悪いことをすると本当にバチがあたるのか?

 自業自得と言えば、心理学には「公正世界仮説」というバイアス(思い込み)があります。子どものころ、「悪いことをするとバチがあたるよ」と言われたことがある人は多いと思いますが、「良いことをすると、良いことがある。悪いことをすると、悪いことが起きる」という考え方が「公正世界仮説」です。四字熟語に置き換えると、「自業自得」のほかに「因果応報」もあてはまると言えるでしょう。「良いことをすると、良いことがある。悪いことをすると、悪いことが起きる」のは真実で、思い込みなんかじゃないという人もいるでしょう。しかし、部下にセクハラ、パワハラを働いていた上司が出世を遂げるなど、世の中に理不尽なことは多々あります。それなのに、どうして「良いことをすると、良いことがある。悪いことをすると、悪いことが起きる」と信じてしまう人がいるのか。それは、人が持つ潜在的な不安が影響していると言われています。

「良いことをしたら、良いことがあるとは限らない」と考えるより、「良いことをしたら、良いことがある」と信じるほうが、不安にならないで行動できるでしょう。なので、強い不安を抱えている人ほど「良いことをしたから、いい結果が出た。悪いことが起きるのは、本人に悪い部分があった」と信じたいのです。個人の倫理観として「良いことをすると、良いことがある。悪いことをすると、悪いことが起きる」と信じて行動することに何ら問題はありません。

 しかし、自分が抱えている不安から逃れるために「良いことをすると、良いことがある。悪いことをすると、悪いことが起きる」と信じた場合、たとえば「貧困家庭は、本人たちの努力不足」とか「女性が性被害に合うのは、女性がそれを誘発するような行動をしたからだ」と見当違いな他責につながる可能性があるのです。

菜々緒

他罰や他責の思考はヤバいブーメラン

 もう一つ「自業自得論」の怖いところは、他責が強い人ほど、自分がアクシデントにみまわれたとき、立ち直れなくなってしまうこと。なぜなら、「悪いことが起きたのは、自分か悪いからだ」と思うわけですから、問題を人に相談したり、助けを求めることができなくなってしまうのです。「自業自得」という言葉を使う人は、心理学的な観点から見ると不安が強いと言えますが、強い女ウリしている菜々緒も、実は不安の強い人なのかもしれません。

 因果応報は「因果はめぐる」というふうに言い換えられることもあります。因果応報が本当にあるのか私にはわかりませんが、他罰や他責というヤバさはめぐりめぐって自分に返ってくるのではないでしょうか。人を責めたいときは、自分が不安な状態にあるのか考えてみるといいかもしれません。