介護のお金、仕組みを知ってやりくりしよう(写真はイメージです)

 親が倒れた……。“そのとき”は前触れもなく突然やってくる。パニック状態のまま、親の介護生活に突入。

 入院費用にヘルパーさん代、おむつ代、ベッド代とお金が次々と出ていくが「申請すればもらえるお金」や「書類を出すとガクッと安くなる費用」も結構ある。知らぬがゆえにソン、とならないようチェックを!

〈裏ワザ1〉「要介護」になったら非課税世帯になるかも

 いざ親の介護生活に突入すると知らないことだらけで、慣れない手続きに追われてすべてが受け身にまわりがち。だからこそ、予備知識を持っているかどうかで差が出る。

 例えば、親が住民税などを支払わなくていい「住民税非課税世帯※」であれば、低所得者ということで医療費や介護費などは大幅に安くなる。年金収入のみのひとり暮らしなら月額13万円弱が分かれ目だ。

介護保険料は非課税世帯になると大幅に下がる可能性が(写真はイメージです)

 ところが、それ以上の年金収入があっても非課税世帯となる場合があるという。それが自治体ごとの「介護保険の認定による障害者控除」だ。小難しい名前だが、いったいどういうものなのか。介護や暮らしに詳しいジャーナリストの太田差惠子さんに話を聞いた。

「自治体によっては、介護保険の『要介護度』が低くても『税法上の障害者』と認められて控除を受けられ、非課税世帯の対象になる場合も少なくありません。非課税世帯になれば介護保険料や介護施設の利用料がぐっと安くなります」

非課税世帯になると老人ホームの利用料金や介護保険料が半額になる

 あくまでも自治体によるが、例えば青森県青森市や埼玉県川越市などは要介護がまだ軽めの1でも対象となる。介護保険サービスを利用していると、障害福祉サービスのことまで頭が回らないが、両方申請することには、なんら問題はないのだそう。

「課税世帯の親のところには、年に1度必ず日本年金機構から『扶養親族等申告書』という返送必須の書類が送られてきます。

『税法上の障害者』に当てはまっているのなら該当欄にチェックが必要なのですが、これがよくわからなくてチェックしていないケースが多く、実にもったいない。ちゃんと確認してあげてください」(太田さん、以下同)

 親がすでに要介護1以上なら、さっそく親の住む自治体の障害福祉窓口などに問い合わせ、親が「障害者控除」の対象になるかどうか確認してみることを強くおすすめする。

※住民税非課税世帯……所得金額が各地方自治体の定める額より低かったり、生活保護を受けていたりする世帯が、税金や保険料などの負担が軽減される制度のこと

介護に必要な「モノ」や「時間」を手に入れる

 介護生活が始まると、デイサービスや介護ヘルパーの利用料といった介護サービス費にばかり目がいくが、これは介護保険である程度抑えられる。

〈裏ワザ2〉「自治体独自サービス」でおむつ代などを安く!

 実はばかにならないのがそれ以外の費用。日常生活で使うガーゼやおむつなどの介護用品代、食事を作ってもらうときの食材費、遠方介護の場合の交通費などは全額自己負担となるからだ。少しでも抑えるには、自治体が独自に実施している「地域支援事業」の利用は欠かせない。

自治体の独自施策でお得に利用できるサービスは少なくない(イラストはイメージです)

「さまざまな自治体が国の介護サービスとは別に独自の支援をしていますが、現物支給や購入費助成などで紙おむつの給付を行っているところは多い。毎日使うものですから、これは大きいです」

 担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに相談し、徹底的に利用すれば、お安く&少しでもラクな介護生活になること間違いなし!

〈裏ワザ3〉主婦のパートでも「介護休業」を使い倒すべし!

 親の介護生活に突入すると、迷惑をかけるから仕事を辞めなきゃ……と考える人は多いが、太田さんは反対する。

「子どもの収入がゼロになるのは大きな損失ですし、実は辞めたほうが介護の負担が増すことがデータでも出ています。それに、今は介護を理由に仕事を休むことは法律で認められています」

介護休業は主婦のパートでも申請できる(写真はイメージです)

 使える制度は2つあり、「介護休業」は介護対象者1人につき通算93日までの休みがとれる。これは原則、2週間前に書面などで勤務先に申請すればOKで、連続でとることも、3回まで分けて使うことも可能。

 また、もうひとつの「介護休暇」は介護対象者1人につき年5日、2人以上なら10日休める。

「どちらも雇用契約の内容によって、パートやアルバイトでも権利があります。パートだから無理とあきらめないで!」

 会社によっては手厚い補助があったりと、思わぬ得をすることがあるかも。まずは相談してみるべし。

書類を出すだけでお金がもらえる、戻ってくる

 介護の程度が進み、要介護認定が4または5など、ほぼ寝たきりになると、国からもらえる特別な手当があることは、実はあまり知られていない。

〈裏ワザ4〉「寝たきり」になるともらえる年32万円の手当金

要介護の段階認定で受けられる福祉サービスは自治体によって違うことも(イラストはイメージです)

「『特別障害者手当』といって、重度の介護を必要とする場合に受給できる可能性があります。これは行政でいうと介護ではなく障害福祉の管轄なので、ケアマネさんでも知らない人は大勢います

 対象者や扶養者の所得制限はありますが、月額2万7000円弱(2022年度)で、年額で32万円以上の手当になるので、もらわない手はありません」

 実際、太田さんの著書でこの制度のことを知り、寝たきりの父親を持つ息子さんがダメ元で役所の窓口に相談したところ、無事に受給できたという例もあるという。

 特別養護老人ホームに入っていると対象から外れるが、民間の有料老人ホームに入居している場合でももらえる。要介護4~5と認定されたら、ただちに親の住む自治体の障害福祉の窓口に相談を。

〈裏ワザ5〉父親が死んだら介護費が大幅減になる書類を出すべし!

 父親が亡くなり、母親が国民年金だけになると年金額はそれまでの約6割に減ってしまう。生活がたちゆかなくなるのではと心配だが、

「再婚していなくて世帯所得が500万円以下であれば『寡婦控除』を受けることができます。〈裏ワザ1〉で紹介した『税法上の障害者』と同じように『税法上の寡婦』となり、課税されている母親も非課税世帯になる可能性が高いです」

寡婦控除の申請をすることで介護費は大きく抑えられる(写真はイメージです)

 そうなれば医療費、介護費ともにぐんと安くなる。

「ですが、これも年1回送られてくる『扶養親族等申告書』の『寡婦』の欄にチェックしたうえで返送することが条件。親がよくわかっていない場合も多く、子どものサポートが大事です」

 たとえ母親がひとり残されても、金銭的な不安がかなり軽減されるのだから、難しそうな書類も敬遠せずに積極的に確認したい。

教えてくれたのは……

太田差惠子さん
「介護とお金」に詳しい介護・暮らしジャーナリスト。著書に『親が倒れた! 親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと』など多数。

取材・文/野沢恭恵