2021年から活動拠点をアメリカに移した渡辺直美さん。きっかけは2014年のアメリカ留学でした

 新型コロナウィルスの感染拡大から2年半以上が経ち、ようやく海外への留学の動きも本格化してきています。

 先日10月10日にはタレントの風見しんごさんが年内で芸能活動を休止し、アメリカのロサンゼルスに語学留学をすることを発表しました。つらい経験もされた風見さんの60歳での新たな挑戦には、同年代の社会人からの応援メッセージがあふれています。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 また8月には、小島瑠璃子さんが中国での活動を見据えて2023年から中国の大学に留学することを発表しています。

「28歳、一度ゼロからチャレンジしてみようと思います!!」という小島さんのメッセージは、彼女が長期スパンで中国でのキャリアの構築に挑戦しようという意気込みを表しています。

 自由に海外に渡航できるようになった今、芸能人が将来を見据えて短期および長期で留学することはさらに増えていくことが予想されます。

 当たり前になりつつある芸能人留学。その大きなきっかけを作ったのが、渡辺直美さんのニューヨークでの成功ではないでしょうか。

 今回は渡辺直美さんのニューヨーク留学への挑戦の軌跡から、人生100年時代のオトナ留学の意味や成功の秘訣について考察してみたいと思います。

最初のニューヨーク留学は周囲の大反対からのスタート

 渡辺さんは7月に出演したNHK特番「笑いの正体」の中で、最初の留学について振り返っています。

「3カ月留学に行きたいんですけどって伝えた時、かなり吉本も怒っていたというか」。「3カ月間も休むってお前、何言ってるかわかってるのか」と言われたそうです。

 渡辺さんは、最初のお試し留学として2014年5月から3カ月間、ニューヨークに渡米しました。ちょうど、『笑っていいとも!』(フジテレビ系)のレギュラー出演が終わった時期です。

 当時はすでにレギュラー番組が数本あったにもかかわらず、語学留学の決断をするのは、とても勇気のいることだったと推測できます。事務所から猛反対にあったというのも納得できます。

 実は、渡辺さんのニューヨークでの挑戦の中でいくつかオトナ留学成功のポイントがあるのですが、最初の箇所がここです。

「私は留学に行かなかったらもっと大変になるだろうなと思った。自分で壁にぶつかってしまうし、お笑いって何だろうなってなりそうだなと思った」(NHK特番「笑いの正体」)

ニューヨークでの留学はどのようなものだったのか

 社会人が現場を離れることに関しては、どの組織でも反対や壁はつきものです。ましてやバケーション文化のない日本では、まだまだ短期といえども留学にいくことに対してはネガティブな印象を持たれがちです。

 渡辺さんが留学の目的や強い覚悟があった点が、ポイントの第一なのです。オトナ留学においては決断し、選択することが最も大切な瞬間と言えます。

 ニューヨークでの3カ月間の留学は、どのようなものだったのでしょうか。

 留学のカテゴリーで言うと語学留学にあたるのですが、グループクラスでの授業というより、主にマンツーマンレッスンを中心にみっちり英会話を学んだようです。ここが2つ目の成功のポイントです。

 アメリカは滞在が90日以内で学校の授業が週18時間未満であれば、学生ビザ(F-1)の取得なしでESTAという電子ビザだけで渡航することができます。

 マンツーマンレッスンは、日本人が苦手としているスピーキングやヒアリングを徹底的に鍛えることができるので、渡辺さんだけでなく、一般の社会人にもお勧めです。

 3カ月間という期間も理にかなっています。前述のビザの話だけでなく、英語の伸びを実感するのも3カ月くらいを要すると言われており、語学学習の効果を感じられる最少単位がちょうど渡辺さんの留学期間です。ただ、これは個人差があります。3カ月でも伸びを実感しない人もいますので、可能であれば1週間でも留学期間が長いほうが有利となります。

 2022年10月現在、同じような留学をした場合の費用感は大よそこのような感じです。

*レートや学校・コースによって変動があります。

<3カ月間ニューヨークの語学学校に通った場合>
語学学校の入学金+授業料(3カ月分) 60〜80万円
滞在費用(ホームステイ・1日2食)50〜60万円
航空券+燃油サーチャージ 15〜20万円
空港送迎(片道) 2〜3万円
海外旅行保険(3カ月間)5〜6万円
留学費用計 132〜169万円

 渡辺さんはマンツーマンレッスンを受けているとすれば、ニューヨークだと1回につき平均1万円くらいかかるので、1週間あたり5回受けたとして5万円、12週間だと60万円とかなり高額になります。

効率よく学べる選択肢が増えている

 現在は円安と燃油サーチャージの高騰により渡辺さんが渡航した2014年に比べて費用が高くなっています。対策としては、滞在方法でルームシェアを選び自炊するとか航空券でLCCを活用するなどの工夫をしても良いかもしれません。

 またマンツーマンレッスンは、欧米は費用が高いため、最初からマンツーマンレッスンを希望する方はフィリピン留学からスタートするとかなりコストパフォーマンスは良くなります。

 また2014年にはあまりなかったことですが、現在はオンライン留学のバリエーションも豊かになっています。対面のコースを数週間オンラインに切り替えるだけで、対面での英語コースよりも授業料が抑えられるうえ、滞在費用もその間はかかりません。

 英語力向上のために少しでも長く英語授業を受けたいという場合は、「オンライン留学+現地授業」というハイブリッド型で学ぶことで効率よく学べる選択肢が増えてきているのです。

 渡辺さんはアメリカでの成功、小島さんはマーケットが大きい中国への進出というように、留学のデスティネーション(目的地)選びにはそれぞれの思いがこめられているのも事実です。効率性と留学先への思いのバランスがこれから必要なことかもしれません。

 渡辺直美さんの最初の3カ月間の短期留学の成果はどうだったのでしょう。

 英語力に関しては、インタビューの中で次のように答えています。

「留学当時は、ゼロからのスタートでしたけど、いまは中2レベルくらいまではいけます(笑)。そこから勉強していないので、次は実践に移したいなと思っています」(女性自身2018年9月18日号)

 実際の英語レベルは判断が難しいですが、ゼロからのスタートだったのが、着実にレベルアップしている様子は窺えます。その後の仕事振りも、帰国後すぐの9月には「第19回 東京ガールズコレクション 2014 AUTUMN/WINTER」に自身のブランド「PUNYUS」を初出展。芸歴10周年を迎えた2016年秋には、ワールドツアー『Naomi Watanabe WORLD TOUR』をニューヨーク、ロサンゼルス、台湾の世界3都市で成功させています。

 世界を舞台にした華々しい活躍ぶりは、2回目の留学を経て今日まで続いているのは、皆さんもご存じのとおりです。

オトナにお勧めしたいお試しプチ留学

 人生100年時代と言われる現在、日本の社会人の働き方やライフスタイルは、より多様性のあるマルチステージへと変化しています。

 より長いスパンで仕事や人生を考えた場合に、しかるべきタイミングで自分自身のアップデートを効率よくできるのがオトナ留学です。

 渡辺直美さんのオトナ留学は、彼女ならではの行動力に基づいていますが、整理してみると、まず適性をはかるために3カ月間のお試し留学(観光ビザ)があり、数年してから満を持して長期専門留学(Oビザ)に行くという、留学の王道の道筋であることがわかります。留学に際してその土地の気候や学校の学習スタイルなどに相性や適性があるため、一度お試しでプチ留学に行くことは賢い選択と言えます。

 一般の社会人にとっては、現在はまだハードルが高いと思われがちなオトナ留学ですが、リモートワークやワーケーションはその可能性を広げています。筆者は5年後そして10年後は、社会の変化がさらに進み、オトナ留学が当たり前になるのではと予測しています。

 現在も渡航している渡辺直美さん、ピース綾部さん、光浦靖子さんに加えて、来年は氷川きよしさん、風見しんごさん、小島瑠璃子さんと芸能人留学のラッシュは今後さらに続きます。

 世界が劇的に変化しているこのタイミングは、学び直しに適した時期なのかもしれません。


大川 彰一(おおかわ しょういち)Shoichi Okawa
留学ソムリエ 代表取締役
日本認定留学カウンセラー協会幹事、TAFE Queensland駐日代表。1970年京都市生まれ。セールス&マーケティングに約10年間携わり、カナダに渡航。帰国後、留学カウンセラーとして4年間で約1000名以上の留学やワーキングホリデーに関わる。その後、米国の教育系NPOのアジア統括ディレクターとして約6年間、グローバル人材育成に尽力。海外インターンシップを大学の単位認定科目としての導入に成功、東北復興プロジェクト、アジアの国際協力プログラム開発にも携わる。現在は「留学ソムリエ(R)」として国際教育事業コンサルティングや留学の情報を発信。留学ソムリエの詳細はHPFacebookから。著書に『オトナ留学のススメ』(辰巳出版)。