発売15周年の際にリニューアルした四角パッケージや『雪見だいふく』の前身だった『わたぼうし』など

「アイスは夏に売れるもの」との常識は、もう古いようだ。

 近年、秋冬におけるアイスの売上高は右肩上がり。総務省統計局の家計調査(2人以上世帯)によると、寒くなる10月〜3月のアイスクリーム月別支出金額の合計は、2017年の3004円から2021年には3551円に。今年も各メーカーからバラエティー豊かな“冬季限定”アイスが発売され、店頭で早くも人気を集めている。

逆転の発想から生まれた冬アイス

「冬アイス」が定着した理由のひとつが、家庭での暖房性能の向上にあるという。アイスが最も売れる気温は25℃前後とされ、30℃を超えるような猛暑では、アイスよりもむしろ冷たい飲料の需要が高まる。たとえ寒い季節であっても、暖房がほどよく効いたぽかぽかの室内は、アイスをおいしく味わうにはうってつけの環境なのだ。

 そんな冬季限定アイスの先駆けといえば'81年に発売されたロッテの『雪見だいふく』だろう。'18年に通年販売を始めるまで、寒い時季にだけ味わうことができる特別な存在だった。11月18日の『雪見だいふくの日』(※)も近づくいま、40年以上ものロングセラーを誇る『雪見だいふく』の人気の秘密に迫った。

※11月の(いい)と読む語呂合わせと、パッケージを開けたときに、付属のスティックと2つの雪見だいふくが18に見えることからロッテが制定

「他社に遅れて参入したアイスクリーム市場で、なんとか勝負したいという思いで生まれた商品が『雪見だいふく』だったんです」

 と語るのは、ロッテマーケティング本部ブランド戦略部アイス企画課の大塚雄記さん。'48年に創業した菓子メーカーのロッテは、チューインガムやチョコレートを主力商品として業績を伸ばしてきた。

 '70年代初頭にアイスクリーム市場に参入するも、すでに多数の競合他社がシェアを占めていた。

「後発メーカーのわれわれは普通のことをしていては太刀打ちできません。だからこそ逆転の発想で、アイスが売れないといわれていた冬にこそ食べたくなるような冬限定アイスが開発されました」(大塚さん、以下同)

 実は『雪見だいふく』に先駆け、見た目がそっくりのアイス『わたぼうし』が'80年にロッテから発売されている。アラフィフ以上の人なら、手に取った記憶がある人もいるのでは。

「アイスをマシュマロで包んだもので、当時のマシュマロブームも後押しとなり、若い世代を中心に大変好評でした。しかし、もっと日本人の好みに合うようにと改良を検討した結果、アイスを包む生地をマシュマロからおもちへ変更することになり、『雪見だいふく』が誕生したんです」

 とはいえ冷凍の状態でおもちのやわらかさを保つことは予想以上に難しく、開発は難航した。

これまで50種類以上を販売

「冷凍によるパサつきや、おもちを固くさせる“でんぷんの老化”を防ぐ技術を確立するため、発売までに1年近い期間を要しました」

『雪見だいふく』のもち生地に使われる原料には、もち粉の中でも上質な羽二重粉。産地まで限定するこだわりようだ。羽二重粉はきめ細かくなめらかな粒子が特徴で、高級和菓子などでも使用されている。冷凍下でも生地のもちもち食感を保つには、この羽二重粉と糖類の配合バランスが鍵を握る。何度も試作を重ねて生み出された配合技術は特許を取得し、約40年間、ロッテ独自の技術として守られてきた。

「この40年のあいだにも、もち生地は少しずつ改良を重ね、発売当初よりもさらにもちもち感がアップしています。よりおもちらしい弾力や食感を楽しんでください」

 毎年、「期間限定雪見だいふく」が発表されるのも、ファンを飽きさせない楽しみのひとつ。

初の期間限定商品の『月見だいふく』と『梅見だいふく』

「'92年に、小豆アイスをよもぎ入りの草もちで包んだ『月見だいふく』、白味噌あん入りアイスを梅じそ風味のおもちで包んだ『梅見だいふく』が初めて発表されました。これまで50種類以上が発売されましたが、すべておもちとの相性を第一に考えられています」

 これまでの期間限定商品の売り上げランキングトップ3は左のとおり。第2位の『おいしい苺』('04年、'05年)は、アイスの中にソースを入れた初めての商品として人気を集めた。

 50種類以上ともなるとそろそろネタ切れが心配になるが、昨年からは有名和菓子店とのコラボが話題に。常に新しい試みにチャレンジし続けている。

「個人的には、2016年に発売された『雪見だいふく 黄金のみたらし 厚もち仕立て』がお気に入りでした(笑)。今年の10月に『菊乃井無碍山房監修 雪見だいふく 匠のみたらし』として新たに復活できたことを、うれしく思っています」

 もはや国民的アイスともいえる存在だが、40年間ずっと順風満帆だったわけではない。実は知られざる黒歴史があった……!

「心が温かくなるような、まあるい癒しの存在であることをコンセプトにしている『雪見だいふく』は、パッケージにも温かみのある赤色を使用し、丸みを帯びたデザインとしています。しかし過去に一度だけ、'95年から'98年までの期間、四角いパッケージにリニューアルしたことがあったんです。これが原因で、売り上げが一気に落ちてしまいました」

『雪見だいふく』サイズ縮小疑惑の真相

 スーパーの冷凍ショーケースの中で目立つようにと配慮されたリニューアルだったが、結果的には失敗。その後、従来の丸いパッケージに戻したことで売り上げは復活した。それにしても、パッケージが丸か四角かの違いだけで売り上げに大きな差が生じるとは、デザインの力恐るべし、である。

 最近では、SNSなどでアレンジレシピも話題に。中でも食パンに雪見だいふくを1つ丸ごとのせ、チーズをかけてトーストする“禁断の雪見トースト”が「おいしい」と評判に。

40年以上愛され続ける『雪見だいふく』

「意外な組み合わせですが、やわらかく溶けた雪見だいふくと、チーズの塩気のバランスが甘じょっぱく、おいしくいただけますよ」

 最後に、ちょっぴり聞きにくい質問をぶつけてみた。気のせいか、雪見だいふく、昔より小さくなってません?

「お客様からもたびたび尋ねられるのですが、実は発売以来、大きさは変わっていないんです」

 そうなんですか!? SNSなどでも

「雪見だいふく、あきらかに小さくなったよな」

「がんばればひと口でいけるサイズまで小さくなってる」

 などの意見があふれていますが……。

「お客様がみなさん大人に成長されて、そう感じられるのかもしれませんね(笑)」

『雪見だいふく』の名誉のために繰り返す。みなさん、勘違いですっ!

 昭和、平成、令和と時代を駆け抜けてきた『雪見だいふく』。昨年は、なんと発売40年目にして売り上げ最高記録を達成! みんなの心をまあるく温めるやさしい味は、時代が変わっても愛され続ける。

◆期間限定品売り上げTOP3

1位 雪見だいふく生チョコレート

雪見だいふく生チョコレート


2位 雪見だいふくおいしい苺

雪見だいふくおいしい苺


3位 雪見だいふくティラミス

雪見だいふくティラミス

取材・文/植木淳子