今年で30年目を迎えるJR東海の「そうだ京都、行こう。」キャンペーン

“そうだ 京都、行こう。”。この秀逸コピーのもと、JR東海の京都キャンペーンが始まって、今年で30年目。“次にスポットが当たるのはどこ?”と楽しみにしている人も多いはず。

30年撮影し続けた“京都の秋”

 実はこのキャンペーン、カメラマンの高崎勝二さんが一貫して撮り続けている。

「30年って長いですから。こんなに自分が携わり続けるとは思ってなかったですよね、正直(笑)。京都ファンが多いので続いているんだと思います。そして、それなりに歴史が残っていく喜びはやっぱりありますよね」

「神護寺」'22年秋。“「秋が待ち遠しかった」と語る人は今年きっと多い。私がそうであるように。”

 現在75歳の高崎さんに、特にお気に入りの紅葉10か所をセレクトしてもらい、JR東海担当者も交えて撮影の裏側を聞くと……。

「桜のシーズンは曇りがちなんですが、秋の紅葉はだいたい思いどおりに晴れますね。この30年、いちばん苦労しなかったのは、天気かもしれません(笑)」

 と、高崎さんは目尻を下げる。JR東海“そうだ 京都、行こう。”キャンペーン担当の小池さんによると、ポスター撮影は例年、1年前。

「1年前の最高の紅葉を撮影するために、検討は約1年半前から。撮影箇所は、当社が込めるその年のメッセージのもとに決めています」(小池さん、以下同)

 例えば、今秋は神護寺などの高雄エリア。

「京都の紅葉は11月下旬が見頃だと思われがちですが、実は碁盤の目を離れたエリアの紅葉はもっと早くから色づいています。“京都にはいろんな時期に、いろんな紅葉がある”が今秋のメッセージ。それがいちばん伝わると選んだのが、高雄エリアです」

 担当者同士で意見がぶつかることも少なくなく、熱い議論が展開されるという。やっと撮影箇所が決まると、次に行うのはロケハン。

撮影でいちばんの苦労は「寒さ」

「スムーズに行けば2回、多いと5回くらい訪れます」

 どのポスターにも人はまったく写り込んでいないが、やっぱり撮影は寺社を数日貸し切って?

「いえいえ。貸し切ることはありません。拝観時間前や後に入れていただいて撮影しています」

「撮影はだいたい1日。拝観時間中にも撮りますが、それは引きの画ではなく、庭や仏像などの寄りの画ですね」(高崎さん、以下同)

「東寺」'17年秋。“ニンゲンは、ちょっとしゃべりすぎかな。もの言わぬ景色の、なんと雄弁なことだろう。”

 撮影でのいちばんの苦労点を聞くと、

「紅葉の撮影はすごく寒いんですよ、極寒。秋はまだ身体が寒さに慣れていないうえに、早朝4時集合などですから(笑)」

 30年も撮り続ける中、ぶっちゃけネタ切れの心配は?

「ないですね。同じ寺社でも時間帯、アングルなどまた違った形で写真は撮れる。必ず新しい何かが見つかると思いますし、これからもそんな情景をお届けできればと思っています」

 改めて、高崎さんに京都の魅力を尋ねると、

子どものころに修学旅行で京都に行かれている方も多いと思いますが、“どこ行ったっけ?”って感じでしょ? 大人になってじっくり見ると、全然違うはずです。特に、人がいない緊張した朝。身が引き締まります。そんな空気感はきっと心に残るでしょう

 ここからは、高崎さん厳選の10か所を見ていこう。

高崎さんの写真が「映えスポット」にも!

 '93年の清水寺はキャンペーンの原点。

「清水寺」'93年秋。(キャッチコピー、以下同)“パリやロスにちょっと詳しいより、京都にうんと詳しいほうがかっこいいかもしれないな。”

「急に決まったので準備期間がなくて。実はこれ、夏に撮っているんです。清水寺の夕暮れは秋っぽいでしょ?(笑)。逆に今秋の神護寺は、3年前に撮影したもの。コロナ禍で2年間、キャンペーンを中止していたので、やっと出すことができました」

 '97年の東福寺、この1枚は特に有名だ。

「東福寺」'97年秋。“六百年前、桜を全部、切りました。春より秋を選んだお寺です。”

実はこれ、3台のカメラで同時撮影をし、3枚の写真を柱の部分でつなげているんですよ。だから両脇が変形していない。当時はまだデジタルではなく、フィルムを使っていました」

 '99年の法然院は、

「手前の白砂壇と紅葉のコントラストが魅力的。個人的に好きですね。 '96年の高桐院は、庭全体に広がる落ち紅葉がとても美しい。'17年の東寺は夜のライトアップ中に。五重塔のスケール感&池の両側の紅葉。この景色は東寺にしかないですね

 '04年はライトアップされた清水寺。

「奥の院から撮っています。あんまり左側を入れてしまうと、京都の街の看板が写ってしまうので、ギリギリを狙って。三重塔のトップが見えるように意識しました」

「清水寺」'04年秋。“清水さんも、ちょっと夜更かしする。それが秋なんですね。”

 その後、奥の院からの清水の舞台を狙う人が急増。今も変わらぬ人気フォトスポットだ。'14年の源光庵は、丸窓“悟りの窓”と角窓“迷いの窓”がキャンペーンでより有名に。また'07年の大覚寺の撮影で、高崎さんは携帯電話を落として非常に困ったと苦笑い。

「まだ暗い拝観時間前からスタンバイし、日が出たら一気に撮りました。やっぱり、この青空は日中じゃないと。醍醐寺('01年)は桜で有名ですが、桜は外側。中の紅葉もいいんです。これはイントレ(組み立て式の足場)の上から撮っています。

 みなさん、スマホで紅葉を撮影される際は、自分の目線だけじゃなく、高くあげてみたり、下におろしたりして撮ってみると、きっと魅力的な1枚になると思いますよ

 
「法然院」'99年秋。“会議室でエンエン議論、データとにらめっこの効率計算。どうですか、いいアイデア出ましたか?”

 

「高桐院」'96年秋。“人気のオープンエアでした。お抹茶をお願いしました。”※拝観休止中(拝観再開時期は未定)

 

「源光庵」'14年秋。“紅葉が、宇宙や人生の話になってしまうとはね。”

 

「大覚寺(旧嵯峨御所 大本山大覚寺)」'07年秋。“美しい景色は人がつくり上げるものです。この当たり前のことに、一〇〇〇年たった今、ドキリとするのはどうしてだろう。”

 

「醍醐寺」'01年秋。“「醍醐寺と醍醐味」は、きっとカンケイがあると、思っていました。”