心斎橋ポップアップショップに置かれたモニュメント(南氏提供)

《中国発シーイン、ユニクロ超え》

《若年層から熱い支持 中国発「シーイン」が急成長》

《「ユニクロ超え」謎の中国アパレル・シーイン》

 最近、ファッション系メディアを中心に話題のアパレルブランドがある。『SHEIN』(以下、シーイン)という中国のブランドだ。

シーイン、初の実店舗は?

「特徴としてはまず実店舗がなくてネットのみで販売していること。そして価格が非常に安いこと。また、新企画の商品の企画から販売に至るまでのスピードが非常に早いことにも注目です」

 そう話すのは、アパレルジャーナリストの南充浩氏。シーインの価格帯は、Tシャツは500円以下から、デニムは1,000円以下からという激安設定。セールでは2点購入ごとに1点が“99%オフ”になるという値引きも。

 11月13日(日曜日)にシーインは、“世界初”となる常設の実店舗をオープンさせる。先立っては10月22日に大阪・心斎橋に日本初のポップアップショップをオープン。店は閉店した『ユニクロ心斎橋店』の1階フロアを使っている。その場では販売はしておらず、実物を触ったり試着できるという形態だ。南氏が実際に店舗を訪れてみると……。

「もうちょっと衝撃でしたね……」(前出・南氏、以下同)

 衝撃は、その安さかはたまた。

「まず、フロアの半分程度しか使われておらず、5分で見終わる程度の陳列量でした。日本で初めてのポップアップショップであり、またシーインの商品のバリエーションの多さ、各メディアによるこれまでのオープン当日の報道を見ていると、これほどこぢんまりとした売り場だとは到底想像できませんでした。

 オープン初日に行列ができましたが、こんなに小さな売り場ならば、たしかに入場制限をしないと恐ろしいほどの人口密度となってしいます。人気という要素だけでなく、行列ができたのも当然といえます」

 商品は1アイテムにつき1枚や2枚程度が置かれていた。店員が試着後に戻された商品を畳む作業はほぼなされないのか、商品によっては棚にぐちゃぐちゃの状態で置かれていた。

心斎橋店の棚(南氏提供)

シーインの服の“質”は?

「すべての服をチェックできたわけではないですが、日本ではあそこまで質の低い、チープな生地を使った商品はないですね。生地の素材も相当に安い。だから安くできるわけだなと。シーインを見た後では、ほかの低価格アパレルブランドの服が高品質に見えるでしょう」

 この時期のため、商品は冬物が多く並んでいた。

シーインは生地の質が低く、そして薄い。例えばメルトンやコーデュロイといった冬物の通常厚めの生地も薄い。また天然素材ではなく合成繊維の服が多い。メルトンを例に上げると、本来はウール100%もしくはウール80%、90%などの高混率で少々合成繊維を入れる。

 それを濡らして熱を入れることによって縮めて、がっしりとした分厚い生地にすることで冬でも暖かい生地にしています。しかし、それをウール100%で今作るとなると、生地の原材料が高騰しているので、すごく高くなる。

 だから、低価格といわれているブランドはウールを使わず、ほとんどポリエステルだけでメルトンっぽい生地を作っています。それでも日本の低価格ブランドでコートは1万円前後はする。一応分厚さはあるし、遠目ではわからない。触ってみると合成繊維だなとわかるくらいのもの。

 シーインもこのような“ウールっぽく作った合成繊維”の生地を使っているわけですが、遠目から見てもわかるレベルで薄く、合繊特有の光沢を消せていないのですぐ合成繊維だとわかる。ファーも見るからにフェイクという印象で、ファーというよりモップのようでした」

 店には10代後半から30代前半程度と思われる若い女性がほとんどだった。

「店にいた人たちは、シーインで使われている素材の何が悪いのかわからなかったのかもしれません。こんなもんか、安いし形はそこそこかわいいし、という感じなんだと思います。確かにシーインで服を見ていた女性は“これ良い”“かわいい”と言ってましたから」

 近日オープンする常設店はポップアップショップ同様に若い女性が行列をなすのか……。

「常設店を作るのは逆効果なんじゃないかと思いました(苦笑)。ネット通販専用ブランドの実店舗は、商品の実物を見てもらって試着することでネット通販でさらに売り上げを伸ばす目的があります。しかし、シーインに限って言えば、店舗で実際の商品を見た方がネット通販で買う気が無くなる人が多いのではないかと思います」

 日本の激安ブランドも、シーインのような質の低い生地が使われた商品もあるという。

「ただ、それは“中にはそういった物もある”という話です。シーインは現在、アメリカで売れています。おそらく、“安いならシーインレベルの商品でいい”と、多くの人が買っているようです。(世界売上高2兆8000億円で日本の売上高は数百億円という噂)しかし、あの品質レベルを見る限り、日本では若い層だけでとどまって、ネット通販がメインということもあり、ネット操作を苦手とする年配層には広がっていかないと思いますね」

ユニクロ、アマゾン超えるも公式発表はほぼなし

 ここまでは実店舗を構えず、急成長してきたのがシーイン。日本が世界に誇るアパレルブランドといえば、シーインと同じく“低価格衣料”を販売する『ユニクロ』だ。展開するファーストリテイリング社の'22年8月期連結の売り上げは2兆3,011億円。

「シーインは、'22年秋に世界売上高が2兆8,000億円に達したと“いわれて”います。日本のメディアは、こぞって『ユニクロ超え』と報じました」

 さらに10月22日に、冒頭にあるように南氏が訪れた日本で初めての期間限定店をオープンさせ、大行列で話題を集めた場所が『ユニクロ心斎橋店』の跡地だったため、よりユニクロ超えという“新旧交代”の印象を抱かせた。

シーインが跡地に出店した心斎橋店と同様に大規模店舗のユニクロ(吉祥寺店)

 また、超えたのはユニクロだけではない。シーインは昨年5月に最もダウンロードされたECアプリとして、『Amazon』を抜きトップに。

 ほとんどの販促・告知をTikTokやインスタグラムといった利用者に若者が多いSNSのみに集中させ、シェアを伸ばしたと“いわれている”シーイン。売り上げの多くはアメリカの若年層だそうだが、世界で2兆8,000億円も売れているとあって、シーインアプリの商品ページには、英語に日本語、スペイン語、アラビア語と多種多様の言語でレビューが投稿されており、1,000件を超えるレビューが投稿されるような人気商品も珍しくない。

「ブランド設立から、あっという間にここまでの世界売上高に到達したと“いわれている”シーインの成長のスピードは素晴らしいものでありますし、低価格帯のアパレルブランドにとって脅威であることは間違いない」

 ここまで数字の部分を、“いわれている”と強調していたのにはわけがある。ここ最近、シーインについては国内外で報じられている内容をまとめると以下のようなものだ。

●許仰天(クリス・シュー)氏が'08年に設立(当初はウエディング事業で、シーインは'12年ブランド開始)。
●'18年に資金を調達した際の企業価値は約3600億円だったが、現在は約14兆円に。
●'22年秋に、世界売上高が2兆8000億円に。
●商品の企画から販売までのスピードは3日程度。

「シーインはほとんど公式発表している情報がありません。上場していないので、売上高も公表していません。評価額なども含め、これらの情報は資金調達における調査会社やベンチャーキャピタルによるもの、またその関係者やスポークスマン的な人が話した、もしくは本当かウソかわからない“自称・取材をした人”によるものになります。日本のメディアはそれを翻訳して伝えています」

 当然、多額の資金調達を達成しているため、売上高はかなり多いのだろうが、もろもろの数字は“真偽不明”ということだ。

複数の訴訟を起こされているシーイン

 アパレル商品は通常、商品企画を立て、デザイナーがデザイン画を作り、さらにそれをもとにパタンナーが型紙に起こし、そしてサンプル作成に入る。サンプルが修正なしで製品化することはまれで必ずといっていいほど修正が入る。時に複数回の修正が入り、ようやく製品化、店頭に並ぶ。ユニクロは商品企画自体を半年前~1年前くらいから時間をかけて仕込むという。

「3日ほどという商品の投入スピードの早さも、そう“いわれている”話になるので定かではありません。3日が本当だとしたら通常のアパレルではありえない早さ。著作権侵害で訴えられている商品もあるので、すべてが“オリジナル”な商品ではなく、他社の商品をバラし、それを模倣する形で投入している商品もあるでしょう」

 訴訟問題は“らしい”ではなく、知的財産権を侵害しているとしてアーティストやブランドから複数の訴訟を起こされている事実である。

 ちなみにシーインの“安さ”の理由は、もう1つある。イギリスの『チャンネル4』と『The i newspaper』がシーインへ潜入調査を行い、結果を報じている。以下に抜粋する。

《販売される服を作っている労働者は、1着につきわずか4セント(約6円)しか得ていない》

《月4000元(約556ドル:約8万2,000円)の基本給をもらっている従業員は、1日少なくとも500着を作るが、初月の給料は保留にされた》

《1つのミスをすると日給の3分の2の罰金が科せられる》

「安い」には、“背景”がある。それをどういう考えで選ぶかは、消費者自身である。

 ここ数年、外資系の低価格ブランドは日本撤退や事業規模の縮小が相次いでいる。売上高世界1位のZARAですら店舗数を縮小している。本格的に日本上陸したシーインは根付くか……。

心斎橋店の棚(南氏提供)

 

ボアのついた冬物の重衣料すら2000円台と驚異の安さとなっている……(南氏提供)

 

シーインの店内(南氏提供)

 

激安のためか、その質に苦言を呈するレビューも少なくないのが現状だ(南氏提供)