今年は同時流行が現実に!?

 第8波の予兆はすでに表れている。10月20日に開催された厚生労働省のアドバイザリーボード会議では、新型コロナの新規感染者数が全国で増加に転じたと報告された。さらに同会議では、この冬の新型コロナと季節性インフルエンザの同時流行についても指摘。

 新型コロナの患者が45万人、インフルエンザの患者が30万人と、ピーク時には1日75万人の感染者が生じる可能性も想定されている。

コロナとインフルエンザ同時流行の可能性

 コロナ第7波のピーク時の感染者数が1日26万人弱、直近でインフルエンザが流行した'18〜'19年のピーク週の感染者数が28万人超だったことと比べると、その脅威は計り知れない。

「コロナ禍以降、毎年冬になると新型コロナとインフルエンザの同時流行が繰り返し懸念されてきました。ただ、昨年までは危惧されていたほどのインフルエンザの流行は起こらなかったので、“今年も大丈夫だろう”と楽観視する人は多いかもしれません。

 しかし、この冬に同時流行する要因は昨年以上に整っているとも考えられるため、やはり十分な警戒が必要です」

 こう語るのは、江東豊洲はるそらクリニックの土屋裕先生。昨年までと異なる同時流行の懸念点とはどのようなものだろうか。

「この夏、オーストラリアで新型コロナと季節性インフルエンザが同時流行しました。南半球に位置するオーストラリアは夏場に最も寒い時期を迎えますが、この2年間起こっていなかったインフルエンザの大流行が発生し、今年に入ってから10月までのインフルエンザの感染者は22万5000人余り、死者も308人出ています。

 去年のインフルエンザによる死者数は0でした。同様に、日本でも2シーズン連続でインフルエンザは流行しておらず、インフルエンザに対する集団免疫が低下し、今年に新型コロナとインフルエンザの同時流行が起こることは十分に考えられます」(土屋先生、以下同)

 コロナ禍以降、マスクの着用や手洗い、アルコール消毒などの感染対策が徹底されてきたことで、インフルエンザの流行も抑えられてきた。一方で、ウイルスに対する抵抗力も同時に低下してきており、オーストラリアと同様にインフルエンザがこの冬に流行する可能性は高いという。

「今年の夏にはRSウイルスやエンテロウイルス、アデノウイルスによる感染症が子どもたちの間で流行しましたが、これについても同様の理由が考えられます。

 これまで流行が抑えられてきたさまざまなウイルスに対して我々の集団免疫が落ちてきているという状況について、十分な備えが必要となるでしょう」

 さらに今年は、10月11日以降に水際対策の緩和が実施されたことで、国際的な人の往来も活発化しつつある。また、現状の「室外でのマスクは原則不要」という政府の呼びかけについても、感染対策の面では不安が生じる一要因だ。

「インフルエンザは基本的に人から人への流入が感染経路となります。渡航規制やマスク着用のルールなどの感染対策は新型コロナだけでなくインフルエンザに対しても効果がありましたが、緩和が進むことで当然流行の可能性は高くなってしまいます。その点でも、今年は例年以上にインフルエンザに対しての警戒を怠らないことが重要です」

 新型コロナとインフルエンザの同時流行に伴って懸念されるのが、2種類のウイルスの重複感染──いわゆる「フルロナ」だ。今年イギリスから発表された研究論文によると、新型コロナ感染者7000人のうち3.2%にインフルエンザとの重複感染が見られたという。

発熱のほか、呼吸が苦しくなることも

「新型コロナの単独感染と比べて、重複感染の場合は人工呼吸器を必要とするリスクが4.14倍、死亡するリスクが2.35倍に上昇するというデータも出ています。ただし、現在流行しているオミクロン株とインフルエンザウイルスとの重複感染では、重症化の知見はまだ十分ではありません」

 そもそも新型コロナとインフルエンザの症状は似通っており重複感染特有の症状はなく、検査をしてみないと重複感染をしているかどうかはわからないという。

「共通する症状としては、発熱、倦怠感、節々や筋肉の痛み、咳、痰、鼻水、喉の痛みなどが挙げられます。重複感染で重症化すると呼吸困難や意識障害などの重篤な症状が出ることもあります。

 軽症であればどちらも症状は一般的な風邪と似ていますが、感染力の強さや肺炎などの重篤な合併症を引き起こす可能性の高さなどは、風邪とは明確に異なる点です。さらに同時に感染した場合、肺炎による呼吸不全や持病の悪化のリスクが高くなるため、特に高齢者や合併症のある方は十分な注意が必要です」

 では、いざこういった症状が出た場合、どう行動することが望ましいのだろうか。

「政府の方針としては、65歳以上の方や基礎疾患のある方など、重症化リスクが高い方については、これまでどおり発熱外来の受診をすすめています。

 一方で、若年層などの重症化リスクが低い方については、まずは市販のキットなどを使って自分で新型コロナの検査をして、陽性の場合は健康フォローアップセンターへの登録後、自宅療養をしていただくことになります。陰性の場合は、改めて診察やオンライン診療などを受け、インフルエンザと診断された場合はできるだけ速やかに治療を受ける流れになっています」

この冬の同時流行に備え、国はワクチン接種のほか、検査キットや解熱鎮痛薬などの常備、電話相談窓口の事前確認を推奨している

 医療機関の逼迫を避けるための苦肉の措置ではあるが、市販のキットによる自己診断やオンライン診療、慣れない自宅療養などには不安を抱く人も多いだろう。

「重症化リスクが低い方は発熱外来を受けてはいけないということではありません。本当につらい症状などのときには医療機関を受診し、適切な治療を受けることも必要です。

 一方、第7波のときに医療現場は本当に切実な状況だったことも理解していただいたうえで、軽症でリスクの低い方には自宅療養やオンライン診療といった選択を考えてもらうことも必要になってきているなと実感しています」

軽症なら内服治療、重症はエクモ使用も

 もし重複感染がわかった場合、どのような治療を受けることになるのだろうか。

「軽症の場合は発熱や咳などに対する対症療法とインフルエンザ治療が基本となりますが、重症化のリスクがあると判断された場合は新型コロナとインフルエンザ、それぞれの抗ウイルス薬が処方されることもあります。

 コロナ治療薬がインフルエンザにも効いたり、またはその逆で抗インフルエンザ薬がコロナにも効くということはないので、重複感染の場合はそれぞれの薬を併用することになります」

 さらに重篤化した場合は、それぞれの抗ウイルス薬の点滴やステロイドの投与などが行われることもある。

「ほかにも、重症化が進めば人工呼吸管理や体外式膜型人工肺(ECMO)などの専門的な医療も使用されます。軽症ですむことが多いとはいえ、新型コロナもインフルエンザも死亡リスクのある感染症であることをしっかりと理解し、何よりもまずは予防に努めていただくことが重要です」

 新型コロナとインフルエンザの同時流行に備えて、今できることは何だろうか。

「こまめな手洗いやうがい、アルコール消毒、人混みでのマスクの着用など、基本的な感染対策はこれまでと同様に継続していただきたいと思います。また、現在は新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンの同時接種が可能となっています。

 どちらも接種後すぐに免疫がつくわけではないので、特に重症化リスクが高い方については、接種できるタイミングで早めに両方接種しておくことも考えておいてください」

 感染予防のほかにも、感染した場合に慌てないための十分な備えも重要だ。

「特にコロナの検査キットはぜひ常備しておいてください。最近は研究用などのいろいろなキットも出回っていますが、購入の目安として“第1類医薬品”と書かれた、国が承認しているものを選ぶことが大切です。厚労省のサイトに案内があります。

 また、解熱鎮痛薬や咳止めなどの常備薬は第7波の時にどこの薬局も品切れになりました。第8波に差しかかった現在、流行のピーク前に購入しておくのがいいでしょう。体温計、衛生用品などもストックを確認しておくとよいでしょう」

 ほかにも、食料品や経口補水液などの飲料を含め、急な感染時にも自宅療養ができる備えをしておくと安心だ。

「症状がある際に出歩かないことは、感染拡大防止の観点でも非常に重要です。地震などの防災訓練と同じく、もし家族や自分が感染したときにどう行動するかを事前にシミュレーションしておくことも、いざというときに慌てないためにも大切だと思います」

 長引くコロナ禍で「感染対策疲れ」を感じる人も多いだろう。一方、この3年間で感染症に対する知識や、効率よく感染予防ができる環境は着実に整ってきたともいえる。この冬の同時流行を無事に乗り越え、明るい春を迎えるためにも、今が踏んばりどきだ。

土屋 裕(つちや・ゆたか) 日本内科学会総合内科専門医、日本呼吸器学会呼吸器専門医、アレルギー専門医。昭和大学関連病院や海外での勤務を経て、2020年に『医療法人長生会 江東豊洲はるそらクリニック』(東京都江東区)を開業

(取材・文/吉信 武)